399.霧内部潜入
翌日仕事を終えてログインすると、既に見知ったプレイヤーがちらほら。
「アンデルセンは勤勉だね~」
「まあな、活躍があれで終わりってのは流石に勘弁だからな。一応今のところの情報。霧の拡大はおさまって安定した。時折デカイ影が見える以上だ」
「影ってのは何か予想つく?」
「いや、邪天使の新形態だろうが、どんな形かはさっぱりだ」
「ところで三羽烏はアレ何やってんの?」
「それは、俺にも分からん」
さっきから三羽烏が交代で、胴体に紐を巻いた状態で霧の中に突入しては紐で引っ張られて引きずり出されている。
酩酊を治療してはまた突っ込む。何か霧の中に投げつけているようにも見えるのだが、本当に何やってるか分からない。
まあ、変わった奴らだしな。
「それで?やっぱり内部に入れる人はいない?」
「ああ、隊長と同じ様に日常的に酒飲んで尚且つ酩酊耐性装備をつけてても無理だ」
「となると、自分が行くしか無いか」
「だな。環境適応とか言うのが、どこまでの効果かは分からないがな」
「それは自分も同じだけど、邪天使直前に手に入れてるし、何か意味あるのかなとは思ってるけど」
霧に触れるかどうかの位置まで近づき、口元のコックを捻る。
空気が服内部に充満した所で、霧の中に入り込む。
霧の中から外は見えないが、霧内部はぼんやり見通せる。
霧の中と外で空間に隔たりがあってフィールドが変わるそんな雰囲気。
瓦礫の転がる霧内部をとりあえずあても無く進む。
それなりに見通せているはずだが、何にも無い。
繭はとっくに割れたが、跡地にも何もなさそう。
ふと、頭上を何かが通り過ぎたような、自分の周りの光を遮る影。
すっと、通り抜けて行ったのは魚?ヒレがあるから魚の範疇だろう。
骨ばった蛇にヒレをつけたような細長い姿。大きさは聖石が埋まってるボス程度。
自分に見向きもせずに霧の中を泳いでいくので、着いていくと。
そこいらを歩いていた。骸骨を一匹食う。
あっという間に音も無く近づき、丸呑みにして、また泳いで行く。
そうして、平原の骸骨達をどんどん丸呑みにしながら泳いで行き、そしていきなり見失う。
霧の濃度が一瞬濃くなったのか、無意識に目を離したのか、本当にあっという間に姿が消えてしまった。
全身タイツの空気の環境適応時間もそろそろいっぱいだし、一旦退避。
霧の外に出て、再び相談タイム。
「大きな魚風が、骸骨丸のみにしてたよ」
「そうか・・・隊長の予想は?」
「エネルギー補給かな」
「同じ予想だ。ちなみにサイズはどうだったんだ?」
「聖石を守ってるボスくらい」
「つまり、エネルギー補給役に聖石を一つ切り離したわけか、本体は見つかったのか?」
「いや、瓦礫と邪天魚だけ」
「その魚を倒して補給を絶って、本体を引きずり出すって流れだな。ところで俺の考えを言ってもいいか?」
「流れは、そうなるのかな。それで考えって?」
「これはあくまで、俺の今までのゲーム歴からの勘だが、多分ルート外れてるんじゃないか?これ」
「ルート?」
「ああ、多分最初は大群の手下を引き連れて手の届かない上空を巨大ボス登場だろ」
「登場したじゃん」
「いや、普通そこでは手の施しようが無くて、絶望するだろ?からの大砦落下。理由は空中に浮いているだけでもエネルギーを使用するから安定した土地に着陸してエネルギーを溜め、次の行動に移るってとこだ」
「ああ、だから大砦を目標にしてたのか、最初から大砦にぶつかるって情報だけは入ってたもんね」
「そう、つまりプレイヤーは大砦で決戦のつもりで、待ち構えてる所に落下って言うサプライズの予定だった訳だ」
「爆破しない方が良かったって事?」
「いや、爆破は有りだろ。大砦で仕掛けるのは向こうも予想済みなんだから、それがうまくいってもいかなくても、分岐を考えてた筈だ」
「ああ、外殻を壊せなくても、外殻聖石ボスを倒せれば、剥がせそうだもんね」
「そうだ、外殻ボス戦の次がグロい内臓と神経剥き出しみたいな姿。手下を集団戦で掻い潜りながら、精鋭でグロダンジョンを下から攻略、最後グロボス討伐か討伐失敗かでまた分岐」
「でも、上から入れたよ?」
「普通に考えてみろよ。あれだけデカイボスだぞ?下から登って行って、頂上で『こうやって増えてたのか~』からのボス戦ってのが、セオリーじゃないか」
「でも、それなら自分が登ってる最中に阻止すればいいのに」
「多分、浮いてくる予定だったんじゃないか?それも服と一緒に手に入れたんだろ?隊長単独で浮いてきた所を外殻に埋もれた聖石ボスが、驚かせに来るっていう予定だったんじゃないか」
「でも、登ったんだから邪魔すれば・・・」
「いや、ビエーラに聞いたけど、G並みのスピードで登ってたらしいじゃないか、間に合わなかったんだろ」
「驚かすのに間に合わなかったとか、それで通り過ぎて上から次のボスを倒しちゃったと」
「そう言うことだ。本来なら二戦目で大群と戦うが、その裏で大群が魔物を狩りまくってエネルギーチャージっていう予定をぶち壊しにしちまったと」
「予定が前倒しになって困ってるのか、でも魔素量なんてあくまでストーリー上の話だし、こっそり邪神(運営)から供給しちゃえば」
「ここの運営は何かそう言うところ堅いからな」
「ああ、リアリティか。もうそんな状態じゃないと思うけど」
「そりゃファンタジー要素は仕方ないだろ。そうじゃなくてAIが計算してる数値的な部分ではチートみたいないじりはしないだろ」
「ああ、邪天使の保有する魔素量も計算されてるのか。でもそれなら短期決戦に持ち込んだ方が、こっち有利か」
「今のところは、な。問題はどうやってその魚を倒すかだが」
「足の速さだけなら追いつけるけど、跳んで攻撃しながらってのは、分かんない。向こうがこっちを攻撃してくれればいいけど、無視されたし」
「そうなると、一個だけ試したいことがあるぜ」
「おっ!アンデルセン二戦目も大活躍の予感だな」