398.霧の大砦
「あのさ、皆!一戦目終わって浮かれるのは分かるけど、いつまでも記念撮影するのはどうかと思うよ?」
「まあ、そう言うな。初めての邪神の化身戦で勝利したんだ、少しくらい仕方ないだろう」
すっかり浮かれてるアンデルセンは放って、バルトが自分の隣で保護者の顔をして話しかけてくる。
「まあ、思ったより皆一丸となって耐えてくれたからね。助かったけど、まだ破壊しなきゃいけない聖石は10個あるからね」
「そうだな、能力もまだまだ盛りだくさんだ。一応今回の報償も貰えるらしいが、俺は宝剣の貸し出しを頼もうと思ってる」
「何で?もっといい物貰えばいいじゃん、折角の報償でしょ?」
「隊長一人で、全部の聖石を破壊する気か?MVPの発表が無いって事は邪神の化身を倒しきった時に何かあるんじゃないか?だったら一個でも破壊したいのが人の性だろ」
「なるほどね、もっとレアなアイテムの為に先行投資か、そう言うのもいいね。自分は保留かな、もしかしたら邪神の化身を倒す為に何か無理言わなきゃいけないかも知れないし」
「無理って何だ?」
「都市を一個消し飛ばさせてくれとか」
「そりゃ、確かに何と引き換えにしたらいいかも分からんな」
そんなこんな、まったりとした時間を過ごし、そろそろ飯食って寝ようかと言う頃。
ピシッッッッ
と、急に空気がひび割れるような不快な音が鳴り響く
そして、あからさまに繭に罅が入りはじめる。
「総員退避!!!」
「おいおい、次の形態まで時間があるって予想じゃなかったか?」
「そうだけど、何があるか分からないから」
皆一斉に繭から離れると、罅の隙間から煙が漏れ始め、少しづつ周囲に漏れでて、徐々に堆積するように白い結界を作り出した。
誰かは分からないが、興味本位で触れたプレイヤーが一瞬で倒れ、周囲が騒然となる。
しかし死に戻らないと言う事は死んでないという事だ。慎重に近づき、ひきづって霧から離れ聖女様に見せると、
「これはかなり酷い酩酊状態ね。触れただけでこれとなると誰も霧に近づけないわね~」
そんな話をしてる内にも徐々に広がる霧。
しかし、霧が広がる以上の出来事は起きない。
「よし!霧に関してはNPCに監視してもらおう。自分達プレイヤーはログイン時間に制限があるわけだし、流石に連戦は無いとここの運営を信じる。と言うわけで、少し離れた場所で皆で酒と飯食って祝勝会したら解散!酒と食材は置いていく。自分は監視の依頼をしたらログアウトするから、仕切りは各クランのTOPに任せるから仲良くしてね」
食材と、酒をしこたま置いて、走って【教国】に向かう。
そして、一目散にポータルに向かえば先を譲ってもらえるので、
ポータルに触れ【古都】に飛ぶ。
【兵舎】に着けば、見慣れた兵長と幕僚総監と軍務尚書が待っていた。
お偉いさん方が雁首揃えてこんな所にいてもいいのか?と思ったが、
よく考えれば、自分が【帝都】じゃなくこっちに来る事は想定内で、こっちで待っていたのだろう。
「無事に帰ってきたな。報告頼むぜ、と言ってもお前も疲れてるだろう。細かい事はこっちで調べておくから最低限でいいぞ。後は任せろ」
「一応一戦目は自分の想定内。平原の大砦は吹っ飛ばしたけど、代わりに邪天使外殻と無限増殖の手下だけはやった。聖石は2つ破壊。一戦目としては上々じゃない?敵は繭に隠れた後、繭から酩酊の霧が噴出し、内部の様子は分からない。とりあえず、今は霧がじわじわ広がってるから、監視をお願いしたい」
「その酩酊の霧ってのはどの程度の酩酊状態になるんだ?」
「触れただけで動けなくなるレベルだね」
「そうか、遠巻きに範囲を調べる程度になると思うが、それ位しか協力できなくてすまんな」
「別にいいよ。自分も頭を切り替えて、霧の攻略と霧の内部で何が起こっているかの調査をしなきゃいけないし、一回休んで頭をクリアにしてくるよ」
兵長の質問と自分の回答で幹部二人も納得したのか、すぐに動いてくれるようだ。
そして、ログアウトの前に食堂に向かい、料理長に許可を貰い料理させてもらう。
だって折角勝ったんだし、一人祝勝会だ。
牛の腿肉にまずは串でぷすぷす穴をあけ、
塩、コショウ、ニンニクをよーく擦り込んで、なじませる。
フライパンで、全体に綺麗に焼き目をつけていく。
そして、今回何故わざわざ調理場を借りたのか、それはオーブンを使いたかったから!
肉塊をオーブンで焼いている間に、フライパンに残った肉汁と油、さらに醤油、みりん、酒、バターでソースを作る。
オーブンで焼けてもすぐには食べない。布で包んで、余熱調理!
「ああ!隊長!やっぱり戻ってた!聞きましたよ邪神の化身相手に大活躍だったらしいじゃないですか!なんか巨大な敵を登って単独で倒したとか!それで、それで・・・この美味しそうな匂いは何ですか?」
「何が言いたいのかよく分からなくなってるぞ、ルーク。単独じゃなくて皆で力を合わせた結果だし、これは俺の祝勝会用のスペシャル料理だ。出来てからのお楽しみだ」
「会、って一人じゃないですか。じゃあ自分が祝うので、それ分けて下さい」
「仕方ないか。じゃあ、もうちょっと待ってろよ」
そして、十分に火が通った頃合で、布を開き薄切りにする。
そこにさっきのソースをかけていけば、ローストビーフの出来上がりだ。
ローストビーフを【教国】のワインで、やりつつ久しぶりにルークとのんびりお話タイムだ。
満足しつつ、ログアウトし、霧の攻略法を考える。