397.大砦消滅
「よう、隊長ふわふわと宙を浮くように降りてくるなんて、どうなってんだそれ?」
「ああ、このマフラーと言うかスカーフと言うか、これの効果で浮くのよ。でもスピードは変えられないし、横移動も風に吹かれるままだし、そんなに使えるわけじゃないけど、飛び降りて死に戻るよりはマシかなって」
「そうか、相変わらずよく分からないアイテム手に入れてくるな。それで、手下の供給が無くなったって事はうまくいったのか」
「まあね、でも今回はここまでっぽい。後は大詰め敵本体大爆発だね」
「ここまでって言う根拠は?」
「内部がなんかシールドみたいなので守られてたから、多分基本は外殻破壊。敵大群はボーナスだったのかなって」
「そんなところか、一戦目から随分時間かかってるし、形態変化毎に次の戦闘まで時間をもらえるんだろうな」
「そりゃ、特殊能力山盛りの『ボクが考えた最強ボス』状態だし、形態ごとに知恵と勇気と力を集めて戦うのだって事じゃない?」
「ふん、俺にも活躍の場が欲しいね~」
「アンデルセンは一戦目で副官ポジションで活躍したから、もう出番無いんじゃない?」
「やめろ!そう言う不吉な事言うのは!」
こんな余裕の戯れをできるのも、敵手下の供給が途絶えて一気呵成に倒しきろうと皆が動いているから。
まだまだ、特殊能力を持つ相手なので、これからも皆の出番は有ると思うが、ちょっとでも戦功を上げようと必死だ。
自分は総大将なので聞いてなかったが、皆戦功に合わせて報酬をもらえるらしい。
カウントの仕方は一切不正の無いような神カウント。NPCにだけ分かるアレだ。
自分は邪天使が大砦に突っ込むのを待つのみ。
山の様な鐘が浮いて、只管大砦に近づいていく。
大砦上空、外壁辺りに差し掛かった時、クラーヴンが近づいてきて、
四角い箱に大きな赤いスイッチのついた・・・すっごいレトロなバラエティ感のあるいかにもな、起爆スイッチを渡してきた。
「何このデザイン?」
「分かりやすいんだからいいだろ?押す以外に無いんだから、敵が中央に差し掛かったときに使えよ」
「ふぅ、総員退避!でっかい花火をぶちかますよ!」
タイミングを外すまいと、ドキドキしながら邪天使が中央に差し掛かるのを待つ。
皆大砦に釘付けだ。
そして、中央に差し掛かり、スイッチを押そうとするのと同時に邪天使も停止。
え?なんで?と思う間もなく、邪天使が落下。
衝撃波で、思わず目を細め、飛ばされないように全身に力を入れ耐える。
一瞬にして大砦を瓦礫に変え、砂や埃や何かの破片で視界をつぶす強大な衝撃波で、結構な人数が吹き飛ばされた。
残っているのは自分のように飛ばされない様にスキルを組んだ者か重装の者ばかり。
クラーヴンは生産職なので、見えないほど遠くまで飛ばされたっぽい。
消し飛んだ大砦跡にゆっくり降り立つ邪神の化身。
なるほど、敵空中隊はこちらの爆破装置を狙ったわけじゃなくて、この場を奪うための先発隊だった訳か。
さて、一帯を先に吹き飛ばされちゃった訳だが、このスイッチは意味あるのか??
一応押してみるか?
うん、押しても別に何も無いなら何もないし、爆破できるのなら、敵が吹っ飛ぶだけだし、やっちゃお。
擒拿術 照葉野茨
「おい、隊長!今の衝撃波・・・」
何で、スイッチを押すタイミングで話しかけてきたアンデルセン。舌噛むなよ?
うっすら薄紅に色づいた衝撃が今度は地面から上空に向けて、吹き上げる。
そして、天をも突かんという衝撃が、地上にも爆ぜ、再び衝撃が今度は根こそぎ、吹き飛ばす。
自分だけは足がくっついてるので、飛ばない。
衝撃がつき抜け、爆光が落ち着き、邪天使の様子を見ると、
ひびだらけで、まだ鎮座しているが、
流石に限界なのか、パラパラと崩れ始め、内側の繭が所々の隙間から姿を見せている。
さて、あの山の様な鐘から、聖石の場所をピンポイントで見つけられるかな~。
「皆~大詰めだよ~敵が大ダメージ食らっているうちに皆で、聖石の場所見つけるよ!」
そう言って、邪天使に駆け寄り、聖石を探す。
一番最初に近くに寄ってきたのは三羽烏。
「三人は軽量だし、遠くまで飛ばされたと思ってた」
「何言ってるんだ玄蕃!忍びなら土遁の術くらい身に付けてるっての!」
「そうだぞ玄蕃!まあ、シャベルで穴を掘って隠れてただけだがな」
「でも、塹壕は古典的だが効果的な避難方法だぞ!」
そんな事を言いながら聖石探しを手伝ってくれる。
その後も、吹っ飛ばされたのにも関わらず、駆け寄って一緒に探してくれるプレイヤー達。
人海戦術で、山の様な鐘を調べていくと、鐘の中間辺りに蠢く影。
残念ながら既に原型を留めていないので、どんな形だったのか全く予想がつかない。
ただ、鐘の意匠の一部のように伏せていたのだろうなと、そんな色や形。
多分外殻聖石ボスとかだったのだろう。外殻を破壊できなくてもボスを倒せれば剥がせるみたいな。
でもまあ、今は攻撃手段すら持たないナニカ。
胸部だったと思われる場所にある聖石を破壊すると、
同時に外殻が霊子と大量の魔素に変わり空気に溶けていく。
繭のような物がその場に残り、試しに宝剣で攻撃しても、一瞬光を放つのみで、傷一つつかないので、今回はここまで。
「皆お疲れ様!次にこいつがどんな形態になるか分らないけど、また力合わせて頑張っていこうか!」
「「「うぇーーい!」」」
なんかパリピか遊んでる大学生っぽい返事だけど、まあいいか。