393.邪神の化身登り
遠目に見ると穴の空いたでかい鐘、近くで見たら山。
遠くから観察して手下の発生源を見つけたのだろうが、望遠鏡でも持っていたのか、スキルで確認したのか。
いずれにせよ、三羽烏達偵察班を信じる他あるまい。
「それで、どうやって発生源まで行くんだ?」
「どうやってって、登るしかないじゃん?」
「ノ・ボ・ル?」
「うん、浮いてもいいけど、空中戦力にやられるのがオチだろうし、そこに巨大な邪神の化身がいるなら登るじゃん?」
「いや、知らないけど、邪神の化身をこんな近くで見た奴は少ないと思うし、勝手に攻撃しかけた奴らはいただろうが、登った奴はいないんじゃ無いか?」
「そう?でも手下は頭部の穴から這い出してるらしいから、登るしかない」
戦場を見渡せば、大量の敵の手下に囲まれながら、文字通り戦線を維持しているプレイヤーの図式。
どこから突き抜けようかな~。結構みっちり詰まった状況に、通り抜けるのが苦労しそうだ。どうするか。
そんな時、赤騎士に呼ばれて、騎士団のクランが守ってる場所に向かう。
「俺達は今のところ、こぼれた魔物を狩るだけで十分に余力がある。突破力なら【騎兵】だろ?うちも騎士が増えたし、邪天使に突っ込むの手伝うぞ」
「それやると、邪天使の足元に孤立する可能性があるし、今回重要なのは守りだから、こっちの戦線にひびが入る方が入る方がまずいんだけど?」
「守りは余裕がある。中央の指揮がうまくて、まだ敵の手下と戦う機会にすら恵まれてない奴すらいる状態だ」
「まあ、見てても綻びがあるように見えないし、発生源を運良く叩けたら、もっと楽になるとは思うけど」
「折角だし、俺達が敵陣を一回突破して後ろから挟んで圧迫した方が有利になるとは思わないか?」
「・・・自分が全隊に対して<戦陣術>を使えるから、挟み撃ちを使えば、殲滅力は上がるかも」
「つまりだ、隊長を邪天使まで送り届けながら、突破。敵背後から挟み撃ち。別に作戦的にも邪魔にならないし、現状余ってる戦力を他に回して、有利になるならその方がいいんじゃないか?」
「自分はありだと思うけど、赤騎士が考えたのそれ?」
「いや、ほぼ金だけど?一応余裕があったから、騎士団の意見をまとめた案だ」
「分かった!それで行こう」
中央を任せてるソタローは忙しいだろうが、報告だけしておく。
「じゃあ、ソタロー、自分は騎士団と一緒に強行突破、邪天使に直接乗り込む。騎士団はそのまま後ろに抜けて、挟み撃ちを仕掛けて殲滅速度上げていくから」
「分かりました。お任せします」
「クランの防衛の割り振りは俺がつけておくから、行って来い」
と、ソタローとアンデルセン。
騎士団は今回、総騎馬で組んできていたみたいだ。他と差別化を図って出番を待っていたのだろう。
平原において、本来はこの機動力を生かして、暴れまわりたかったに違いない。
重装騎兵を前衛に、周りを軽騎兵で囲み、中に術騎兵、そして一人徒歩の自分。
まあ、重装騎兵なら走って追いつけるでしょう。
こぼれてくる敵の少ない一番端から、斜めに邪天使に向かう方向をセット。
一番敵を斬らなきゃいけないきついルートを選ぼうって言うんだから、よっぽど力が有り余ってるんだろう。正面から、もしくは回り込んで横から行った方が距離は絶対短い筈なんだけどな。
そして、重装騎兵が飛び出すのに合わせて敵の群れの中を突っ切る。
突撃槍を構え、一丸となって蹴散らして行く。
途切れる事のない威力は色つきの幹部勢が交代で、集団戦闘用の術を掛けなおす事で、維持しているようだ。
なるほどね、100人指揮級の指揮官を数人置くことで、クールタイムやなんかの問題を力づくで解決してるのか。一人で指揮するのに慣れた自分じゃ、思いつかなかったわ。
騎兵の疾走速度で、どんどん邪天使の姿が大きく見える様になっていく。
そして、
「隊長そろそろだ!一気に加速する準備をしろ!」
え?今も結構な速度で走ってるよ?
すると、自分の前の騎兵の列が、ぱかっとモーセと海の様に真っ二つに割れ、目の前の地面が隆起し始める。
どうやら、術騎兵が何か使用したようだが?
「アースウォールを全開で使ってる!敵は浮いて移動してるから、大した高さを稼げるわけじゃないが、ジャンプ台にでもしてくれ!」
そう言うことか!ベルトで飛蝗服に変身しながら<疾走>
一気に加速し、土壁を駆け上り、それなりの長さを確保してくれたジャンプ台を駆け抜け、
ジャンプ台の終わりで渾身の飛蝗ジャンプ。
跳べる限界点で、もう一回変身蛇装備。
〔空駆の長靴〕で一瞬足場をつくり<跳躍>
徐々に近づきつつも落下して、敵最下部の出っ張った表面の意匠にギリギリ手が引っかかる。
どんなタイミングゲーだと我ながら思うが、出来てしまったものはしょうがない。
ここからは地道に登るのみ。大霊峰の崖に比べれば雪が無い分、楽だろう。
おっと、その前に、
「ごめん今自分目の前いっぱいに邪天使状態で、様子が分からないんだけど、騎士団は抜けた?」
「間もなくだ、抜けたらすぐ知らせる」
この指揮状態だと距離があっても自分より下位の相手と任意で話せるの本当に助かるな。
逆に下位の場合は自分の所属する指揮官に話せるようだが、よく考えたら、人の下で戦う機会があまりなかった。
まあ、いいか。今は少しでも上り進めよう。
下は何にもない。上は崖にしか見えない。
一息ついて一歩づつ上って行く。鐘状の邪天使に刻まれた表面の意匠のおかげで、足場には困らない。
なんなら、場所によっては深く刻まれた意匠に腰掛ける事すら出来る。
腰掛けて、眼下の戦場を見渡すも、真上からだと、逆に分かりづらいな?
でも、まあ抜けられているようには見えない。
「隊長抜けたぜ!今反転が終わった所だ」
「あいよ!任せるよ!『行くぞ!』」
戦陣術 激励
戦陣術 挟み撃ち
これで、大分殲滅速度が上がって楽になるだろう。
自分は、一休みをやめて、邪天使登りを続ける。