391.邪天使の手下
遠目に敵が見えてきた。食事を終えて、おおよそ隊列を組み終わったいいタイミング。
テンションも切れず、慌てる必要も無い。そんな完璧なタイミング。
「うし!気合入れてくか!まずは『行くぞ!』」
戦陣術 激励
うん、久しぶりの感覚だ。気持ちが高まってきて、いい感じだ。
2,000人もいると見分けはつかないが、中々に皆テンション上がっているようだ。いい傾向だね。
ちなみに装備は使うタイミングが最近全然無かった、だいぶ前にクラーヴンに作ってもらった指揮用防具。
後は個々に指揮系の術を使用して戦うだろうから、自分が勝手に術使っても申し訳ない。
「隊長!ちょっと士気上がりすぎだから、何でもいいから術使って調整してくれ!」
うん、使えって言うので、デメリットの少ない術にするか。
戦陣術 戦線維持
これで、防御力が上がるし、戦いやすくなるだろう。
そして、間もなく接敵。
邪天使は遠くに見えてるが、まだ当分大砦にはぶつからないだろう。
どこまで戦えばいいのか、まだ分からないので、安易な事は言えないが、兎に角時間を稼がねばな。
安易な事を言って、もし、その通りにならなかった時に、皆の気持ちがブレるのは分かりきっている。
総大将である以上、簡単にここまで頑張れとか、もう少しだぞ、なんて言えるものじゃない。
まずは、手下を通さない様に戦わねば。
手下に抜けられて、大砦内に侵入されて、仕掛けを誘爆される。これだけは駄目絶対!
敵の姿は小さな丸から長い足が生えただけの蜘蛛のような黒い生物?
シンプルな姿の邪神の尖兵って感じだが、問題は通常武器でやれるのかどうか。
「誰か、長距離攻撃でダメージ与えられるか様子見てくれる?」
自分が言うやいなや、すぐ横から飛んで行くクロスボウの矢。
自分は全軍が見えるように少し小高い場所に陣取っているのだが、
同様に小高い場所から全体を監視し遠距離攻撃でフォローする態勢のビエーラ。
流石、ゲーム内最長距離攻撃プレイヤーだけあって、見やすい最前の敵に一撃当てた。
「ちゃんとダメージ通るの、安心して指揮するの」
うん、一戦目から大量の邪神の尖兵に囲まれて、味方が肉壁になって時間稼ぎするのを見るなんていう残酷な事には、ならなさそうで良かった。
「よし、じゃあ本隊はソタロー!中央は任せるから好きにしていいよ」
「ええ・・・そんな放り出すような指示・・・」
「フォローはするから、好きにしな。そして、100人単位のクランはソタローより前に出ない事。基本は周囲のあぶれた敵に抜けられないように残党狩り、地味な役割になるけど相手の出方が分からない以上、最初は温存だと思って逸らない様に頼むね」
「任せておけ、隊長。今回は出番無いぜ!」
心強いな~全く。一応総大将だが、局地戦はお任せしよう。
回復支援は聖女様、遠距離支援はビエーラ、中央はソタロー、支えてくれるクラン達。
本当に何もする事無さそう。
そして、接敵。
相手の大群が押し潰されるように、うじゃうじゃと積み重なる。
ソタローは防御と攻撃をうまく組み合わせ、最前線を押し返しつつ、ガンガン敵中衛の上に矢を降らせるような、攻撃的スタイル。
自分だったら、防御で敵の圧がいっぱいまで溜まるのを待つけど、
最初から削り、有利状況を作りつつ、優勢を保つタイプなのかな?
初っ端から押し返すスタイルだけあって、プレッシャーを与えていくのがうまい。
左右にこぼれて行く邪神の化身の手下達をクラン単位で集まるメンツが、着実に潰してる。
自分は、本当に余裕があるので、左右を見渡せば、
聖女様が凄い勢いで指示を出しているのだが、どうやって戦況を把握してるんだ?
自分みたいに細かい事は任せる!なんていうスタンスには見えない。
邪魔するのは大変申し訳ないが、一言賞賛したくなる。
「あの、凄いですね。100人位は連れている身内全員に指示出してるんですか?」
「そうよ~?回復や補助が被らないように、指示出してるの」
「よくそれだけ同時に把握して、指示できますね」
「お料理と同じよ~。結果を予想して、様子を見ながら手順どおり進めてるだけよ。同時にやっているようで、一つづつこなしてるのよ~。ちゃんとあなたにも出来るわ~」
はぁ、そう言うものなのかな?自分にも出来るとか言われてもな。一緒に料理した事もあるし、そう見られてるのかな?
ふむ、一戦目は余裕か。
流石に一戦目だもんな、皆で力を合わせることを覚えよう!とかそう言うアレだよね。
「ねぇ、隊長まずいの」
「なにが?どこか戦線の破れそうな場所でもある?」
「破れそうどころか、完全に抜けられるの」
へ?何言ってるの?と思って、ビエーラを見やり、さらにビエーラの視線を追うように、視線の先、
遠く邪天使の頭上辺りに、黒い点々が、見える。
邪神の化身の手下空中隊の襲来。
「ビエーラ、アレ落とせる?」
「一匹づつなら」
数は分からないが、どう贔屓目に見ても、夏場に地元の畦道に飛んでる羽虫位の数はいるように見える。
矢をいくら連続で撃っても、倒しきれるとは到底思えない。どうしよう。