389.今更修行
「教官、自分は邪神の化身倒すのに忙しいんですけど」
「仕込みは他人に任せてるんだから、お前はお前のやるべき事があるはずだぞ」
「なんですか?」
「奥義の習得だ」
「いや、習得できるなら、ありがたいですけど、斬られた時には切れる場所に相手がいるとかそう言うやつですよね?さっぱりなんですけど」
「そうだな、俺も何でいつまでも習得出来ないのか、考えた。それはもうここ何日か寝る為に酒の量が増えた位だ」
「まさか、そこまで親身になって考えてくれてるとは・・・、でも普通に自分の実力が足りない所為ですよ」
「いや、それは違うな。お前の場合は先に技術を仕込んだから、後は身体能力の上昇や定着と共に開眼する予定だったんだ。そして今お前の身体能力は到底並ぶ者のいない域に到達している」
「つまり、身体能力の定着が足りないから【訓練】しろって事ですか?それなら、空き時間いっぱいに使いますけど」
「いや、とっくに身につけてもおかしくない域なんだよ。だから、悩んだんだ。もしかしたらお前のスタイルじゃなかったのかもしれないと」
「別に、このスタイルで戦えるし、感謝してますよ?」
「うむ、このスタイルがやっぱりお前に合ってるのは間違いない。じゃあ、何故習得出来ないでしょうか?」
「いきなりクイズ。奥義の意味が分かってないから?」
「ブー!はずれ!奥義の意味はそのままだ!切られた瞬間に斬れ!」
「え~。切られる前にブロックするから?」
「おしい!正解はお前が強すぎるからだ!」
「訳分かんない。未だにあっち行ってもこっち行ってもボコボコにされるのに」
「それは【訓練】での事だろ?お前は技をちゃんと習得しようと丁寧に決められたように動くから、熟練者なら捌き易いだろう。でも実戦ならもっとラフに身体能力に任せて剣を振ってもいい。そうやってなりふり構わなければ、勝ち筋が見えてるんじゃないか?」
「まあ、酷い負け方はしないかなとは思いますけど」
「ふん、同期の中では最強。なんなら先人すら倒しかねない。巨大な相手には人数を集め、ジリ貧と見れば、さっさと撤退する。絶対勝てない相手には最初から交渉を持ちかける」
「いや、撤退しますよ。被害増やしたくないですもん」
「撤退は戦略戦術であって、負けとはいえない。俺が言いたい負けは、自分の実力の不足を感じて、打ちのめされるような負けだ」
「一回はありましたけど」
「邪神の尖兵の時だな。そう言う負けを積み重ねないから、お前は奥義を会得出来ない」
「じゃあ、誰に負ければいいんですか?」
「そんなお前の状況を打破するのに必要な相手は、ライバルだ」
「ライバル?」
「そうさ、丁度俺のライバルの弟子が、免許皆伝したんでな。ちょうどお前とも同期に当たる相手だ。ボコボコにしてもらえ」
「え?まさか」
「俺の腐れ縁、剣聖だ」
剣聖の弟子と和服の男性が【訓練場】にいつの間にかいた。
本当にいつの間にかそこに立っていた。
「隊長、なんかボコボコにしてくれって頼まれたので」
「自分もボコボコにされろって言われたけど」
「そうだな。同期に必死で抗ってみろ。負けても仕方が無いとか、そんないい訳が出来る相手じゃない。なぜならお前が本気なら十分に戦える相手だからだ」
いや、無理だろう。相手は免許皆伝だよ?
「装備は二人とも初心者服と支給品装備。各々育てたスキルと身体能力と技量のみでやれ」
二人とも指定通りの装備に替え、対峙する。
自分は初心者装備に偵察兵用の胸当てや膝当、肘当、手袋、頭巾だ。
剣聖の弟子も似たようなもの。そう言えば、免許皆伝したんだから弟子じゃないよな?
「ねぇ、剣聖の弟子って、コレからなんて呼べばいいの?剣聖?」
「流石に、剣聖の名を受け継ぐのは荷が重いですね。今まで通りでいいですよ」
「卜伝とかは?新当流とか、一の太刀とか」
「分かりますけど、剣聖を名乗るのは流石に」
「挑戦してくる人が増えて、都合がいいんじゃないの?」
「僕の方から挑戦したいんですよ。ガイヤに勝ってないのに、隊長とやるのは心苦しいですが、武装限定ですし【訓練】の為と思いましょう」
剣聖の弟子はやる気だ。
何となくお互いおしゃべりが止まった所で【帝国】の冷たい風が一陣。
剣聖の弟子の髪を靡かせ、
すっと消えた。
殺気を全く感じないが、目の前にいないので、勘で後ろを斬りつける。
何もいない空間を切り裂いて、勢いのまま転がれば、頭上から剣を振り下ろす剣聖の弟子を間一髪回避。
「いいぞ!勘でいいんだ!綺麗にやる段階は終わった!死ぬ気で裏をかけ、相手の思考を読み取れ」
いや、勘で斬られた瞬間切り返せるの?なんかもっと感じ取れ的なあれじゃないの?
再び剣聖の弟子が消えるが、気配が無いって事は遠いって事か?
死角のどこから襲って来る気なのか、
うっすらと刃風を感じ、剣を立てた時には遅く、斬られていた。
すぐにまた消える剣聖の弟子。
剣聖の弟子の場合気配を消すのではなく、瞬間移動しているだけ。
自分は殺気なら感じ取れるってだけ、
一瞬足元に映る影で、ブロック。
硬直させ、切り返す。
でも、奥義って多分こういう事じゃない。
そのまま、お互いの生命力を削りきるには弱すぎる武器で、ひたすらに斬りあう。