38.お食事の騎士
「うう、寒いのう」
「噂どおり【帝国】は雪ばかりですね。しかも東部に入ってからというもの本当に雪景色しかないようです」
孫を訪ねて来たもののこんなに寒いとは、ゲームなのになんでこんなに寒くしたのやら、考えたやつの気が知れんわい。しかし、何故孫もこんな寒い場所を選んだのか不思議じゃ。
「もうすぐ、【旧都】に入れます。都市や街はいくらか寒さも違いますし、何より前回のイベント優勝者の店を予約してますので、楽しみにしてください」
「うむ、そうかそれはいいのぅ、歳のせいか最近食が細くなってきたが、ゲームの中では、腹がもたれることも無いからの、楽しみじゃよ」
イベント以降最近では、うまい飯を作るプレイヤーが増えたことで、わしの楽しみも増えた。しかもイベント優勝者ともなればどんな物が出てくるか今からよだれが出るわい。
そうこうしているうちに【旧都】にたどり着き噂の店へと直行する。
「なかなかに繁盛しておるようじゃが、思ったより家庭的な店じゃの」
「ええ確かに、でも逆に期待も出来ますわ。変に気取ったお店よりもしっかりした物が出そうな気がします」
「それは、そうかもしれんの、しかし、優勝者にもかかわらず何で【帝都】や海のある西側の都にせなんだか、確か店の出店権も商品にあったと思うがの」
「そればかりは、その人にしか分からないこだわりがありますでしょうから。ああ、料理が来ましたよ」
少女が、運んできてくれたのは、ピロシキや皿に乗った水餃子?みたいなものや魚のスープ、きのこの形をしたサラダ?パンの乗ったカップといった具合じゃ、なんと言うかすごく家庭的で店の雰囲気にはあってるのじゃが。
「お店の雰囲気に合った家庭的な料理が多いのね?」
「あっはい、自分の理想のお店を探求してまして、今は、家庭料理を売りにした店をイメージしています。お出しした料理も雪国の【帝国】に似合う、ロシア料理をイメージしているんですけど、お気に召しませんでしたか?」
「あら?あなたが、ここの店主さんだったのね、失礼したわ」
「いえ、最近では少しづつ【帝国】にもプレイヤーさんは来ているらしいんですけど、東部地域まで来られる方って珍しいので、顔を出させていただきました。狩りやなんかで、森や山に行く人はいないことも無いんですけどね」
「そう、前回イベント優勝者のお店と言うことで寄ってみたのだけれど。プレイヤーはあまり来ないのね?」
「はい、残念ながら。でも、NPCの方は来てくださりますし、ゲーム内特有の食材なんかはNPCの方のほうが詳しいので、色々と教えていただけることも多いですよ?食事のバフ効果なんかも、単純な料理の技量だけでなく材料によることも多いみたいですから」
「そう、材料ね。でも、料理の使用期限は短いから持ち歩けるようなものではないし。現状料理バフはそこまで重要視されてないんじゃないかしら?」
「戦闘前にセーフゾーンで料理をされれば、問題ないかと思いますけど」
「それが出来ればいいけど、料理は厨房のあるとこじゃないと作れなかった筈じゃないかしら?」
「私が、イベントで使用した材料を教えてくれた方は、普通に道端のセーフゾーンの焚き火で料理してましたよ」
「そんなの攻略情報にもなかったと思ったけれど、その教えてくれた方って言うのもNPCなのかしら?」
「いえ、普通のプレイヤーさんです。いえ、変わったプレイヤーさんでした」
「変わったプレイヤーね?【帝国】で、先を行く有名プレイヤーと言えば、白い黒神辺りかしら?」
「ビエーラさんは、お店を出すのに支援してくださった方ですけど。料理していたのは違う方です」
「そう?マスター、どう思われますか?嘘を吐いているようには見えませんが、攻略情報にも無い情報を握っているプレイヤーがいるようですわ」
まずい、いや料理はうまいけど、食べるのに夢中で聞いておらんかった。ロシアの家庭料理だって言うところは聞いていたのじゃが、後、わしばかり食ってしまっては申し訳ないの。
「お嬢さんやちと聞きたいことがあるんじゃが、ここいらで【兵士】をやっておるプレイヤーを知らんかね?」
「何人かいますけど、どんな兵種でしょう?」
「マスター【兵士】がなにか今回の一件に絡んでいるのですか?」
「まあ、良いからおぬしも少しは食ったらよい、うまいぞ!【兵士】が不人気なのはしっとるよ。それでもメインでやってる者はおらぬか?」
「私が知っているのは一人だけですね。さっき話しに上がった方がその人です。」
「ほう、どんな人じゃね?」
「なんとなく、マイペースで頼り無さそうな人なんですけど、不思議と人から信用されてるような、あの人なら知ってるとか引き受けてくれるみたいな印象のある人です」
「ほう、強いのかね?もしくは何を目指してるかとか聞いてるかね?」
「そういうのは、聞いたこと無いですけど、ビエーラさんと話している時一度だけ話題に上がったことがあって、化け物だって、言ってたかも?あまりに印象と違うのでなんとも言えないけど、他には大抵NPCよりNPCみたいとか、食って寝るが口癖だとかそれくらいですかね?NPCにはとかく信用されてるみたいですよ?」
「なるほど、の」
流石、孫じゃ。ビエーラのお嬢さんと言えばわしと同じテスター組で有名人の筈じゃ、その口から化け物と言う言葉が出るんじゃ。まあ、孫なら当然じゃがの、物心つく前に生まれて初めて持たせた騎士の剣のイミテーションを即振り回し、辺りかまわず破壊の限りを尽くしたあの狂気。化け物の名に相応しい。
「その人に会いたいなら【古都】を中心に輸送任務や【訓練】に励んでるって聞いてますよ」
「任務と言うのはクエストですね。しかも【兵士】のクエストは割に合わないので有名です。そんなことをするなら魔物を狩って、貢献ポイントを手に入れたほうがよっぽど効率的でしょう。ただの【兵士】ロールの趣味プレイヤーであれば、そこまで気にすることもないのでは無いかと思います」
「何を言うか。まず会ってみなくては、実力など分かるまい。色々教えてくれてありがとうなお嬢さん」
「いいえ、またのお越しをお待ちしております」
さて【古都】か、また寒い地域を移動せねばならぬが全ては孫に会うため。しかし、本当にこんな雪深い土地を拠点にせんでも良いと思うがの。
もっと色々なクランを出そうと思ったのですが、筆者が混乱してしまうため、当面は絞ります。とりあえず、この章ではじいちゃんが出ます。