376.地下の樹
「そう言えば、さっき忍術使ってなかった?」
「ああ、口寄せか、妖異を憑依して強化する術でな。何の縁だか俺の使役獣と相性がいいのが手に入って助かってる」
は~なるほどね。召喚とかでは無いのか、イタコみたいな事かね?渋いな。嫌いじゃない。
その後もお互いの術やら談義しながら、奥に続く道を行くが、敵が出ないので、
どうやら、さっきのが最後だったようだ。
奥の部屋には天井から日がさして、樹が一本と地面には草が生えている空間。
とりあえず、全員で樹に触れれば、この樹も話せるようだ。そりゃそうかクエストの樹なんだから。
「久しぶりの客人だな。ここは喋ることも無い不死者ばかりで、つまらんから客人は歓迎するぞ」
三人は各々に話してるらしい。
同時に会話を捌くとは流石クエストで巡る古い樹だけあるな。
「自分は三人と一緒に来ただけなんですけど、今度ちょっと不死の蛇だったか、死者の血を啜る蛇だかを倒さなきゃいけないいんですよね」
「それは難儀だな。大昔は平原をうろつき、いくらでもある死者たちから血を吸い上げ、無限に回復し成長するので、手に負えずに困ったらしい」
「そんな昔から、ここにいるんですか?」
「いや、たまに訪れる者達から伝説や昔話なんかを聞くことが多くてな。ここに来る者はそういう話を良く知る物が多い」
そりゃ【隠密】のクエストで来るんだもんなそう言う設定になるか、頭領もそういう話を集めるのが仕事って言ってた気がするし。
しかし、蛇はやっぱり不死者から吸収する系か、何となく予想してた通りだけど、どうやって対策したもんか・・・。
「難儀といえば、こんな場所に生えてなんか大変そうですね」
「それは仕方の無いことだ。我らは動くこと叶わぬ。芽吹いた場所に根を張り成長するしか無い。それでも上の穴から陽の光も雨水も降ってくる。そして、ここまで生きてこれたのだから、これでいいのだ。お主達は好きに動き回れるのだから、生きやすい場所で、生きればいいのだ」
ふむ、自分の生きやすい場所か。
いつの間にか三人も話が終わった様なので、樹とお別れ。
帰り道は流石に骸骨達は、うじゃうじゃいなかったので普通に現れる魔物を狩りながら洞窟をでる。
丘の上で木々が生えているが、それでも隙間から日がさし、気持ちがいい。
閉塞感のある場所って何だかんだ疲れるな~。
「今回も助かったぜ、玄蕃」
「いや、こっちこそ、助かったよ」
「何かあったら、いつでも呼べよ」
「そっちは、まだかかりそうなの?世界一周クエスト」
「もう、そろそろだな。俺達の戦い方も固まってきたし、多分いけるだろう」
「そっか、じゃあ、またね」
邪神の化身に間に合ってくれたら、助かるな。気心知れて、戦える仲間が増えてくれたら頼もしいことこの上ないもんな。
帰りも、ひたすら広い平原を思い切り飛ばして走れば、気持ちがスッキリ!
気がついたら隠れ家。
取り合えず借りた装備を受付に返す。
指輪は多分蛇にも使うだろうから、そのまま装備。
ニキータが後から帰ってくる。
目ざとく指輪を見つけ、
「何だ?それ?」
「これは上司から渡された装備、詳しい話はしてないけど、全部お見通しみたいだよ」
「そう・・・。一応私が集めてきた装備も渡すわ」
「いくらになった?」
「お金はいいよ。私の依頼なんだから」
「いや、蛇は自分が倒さなきゃいけない相手だし、払うよ。知ってるでしょ?金だけはある」
「そうだな。金貨100枚って所で、正直私も足が出てね」
「じゃあ、払うよ。先に言えばいいのに」
そう言って、お金と引き換えに指輪とイヤリングをいくつか渡される。
「残念ながら私のは使い捨てだから、使いどころに気をつけな。後はこれだよ」
そう言って、一個真っ黒なブーツを渡される。膝下までのロングブーツを紐で結ぶタイプだが、脛に甲殻が張ってるのか、脛当ての様になっている。
「そんな特殊な物じゃないけど、アンタの靴結構限界だったろ?防御力だけの物だが、使うといいよ」
履いてみると、中々のホールド感だが、足首が動きやすい。
こういうのって、もっと硬い物かと思ったけど、自分に合わせてくれたのかもしれない。
歩いても、走っても、跳ねても違和感が無い。
「防御力だけって言うけどいい物じゃない?」
「気に入ったなら良かったよ。じゃあこれもおまけだよ」
そう言って、渡してくる物なんか丸っこい、何だこれ?
そのまま腕に一個つけてもらうと、エルボーパッドだ。もう片方同じ物を自分で装着し、
となると残りはニーパッドかと、膝にも装着する。
「これは、なんかいいな」
「いや、あんたが今まで無防備すぎたんだろ?これも防御力だけの普通の物だけど、悪くは無いと思うよ」
うん、確かに!戦闘時にはかなりいいな。自分は元々転がるし、肘膝守られるだけで凄い安心感だ。
まさかこんな事に気がつかなかったとは。
「後は預けてる装備のメンテが終わって、上司の合図があれば潜入か」
「そうだね。あの穴は特殊だから私も少ししか分からない。十分に準備しないとね」
じゃあ、食材と酒も集めておかなきゃな。