371.対アンデット準備
「グローブとブーツと対不死者装備が欲しい」
「最近すっかり遠慮がなくなってきたな」
「まあね、物品なんで出来ればお金で解決したい」
「なんだ急ぎか?慌てた所でろくな物が、手に入らないぞ?」
「野暮用でね。不死者を浄化しなきゃならないかもしれない」
「殆ど隠れ家に引き篭もってるってのに、どこでそんなトラブル拾って来るんだかな・・・」
少し天井を見ながら考え事する上司。
顎に手をあて、人差し指で唇の縁を行ったり来たり。
唇を触るのは・・・本当は甘えん坊、欲求不満なんかはこの上司に似合わない。
隠し事をしてるか、本当にただ考え事をしてるか、そんな所かな?
考え事の邪魔をしてもしょうがない。お茶を入れて待っていると。
「仕方ないな。潜入のタイミングをこちらの指定に合わせるなら、手を貸そう」
「全部ばれてるんだ?」
「まあな、この案件をうまく運ぶにはタイミングを合わせた方がいいだろう。多分」
「多分か。まあ、確証ある話だけで事を進められるもんでも無いか」
「少なくとも俺はお前の不利益になるような事は望んでないし、第13機関長に関しても賛否あるが、限りなく賛成寄りの話になってるしな」
「死者蘇生したいのかね?」
「違う。それは無理があったから解体されて失伝したってのが共通認識だ。それでも望む者の多い危険な秘術をコントロール下に置きたいってのが、お偉方の考えそうなことだろ?」
「自分が第13機関長になるのに協力した方が、メリットが大きい訳だ?」
「そうだな。そして少なくとも自分に一票入れられるだろ?指名手配を外す為の一票をな」
「次で手に入れられるとも限らないけどね」
「いや、多分次で最後の蛇だ。俺の権限で調べられる限界まで調べたが、ほぼ間違いない」
「最後って言ったら、絶対強敵じゃん。どうするか」
「相手は死者の血を啜る蛇、またの名を不死の蛇」
「でも、過去の番外英雄とか勇気ある者とかは倒したから、力を手に入れたんでしょ?」
「漆黒将軍と前の第13機関長な。蛇は何度も復活するが、全て倒したってのはその二人しか記録が残ってないな。漆黒将軍は、なにせ12英雄時代の人物で昔過ぎて記録も碌に残っちゃいないな」
「第13機関長は?」
「そこだな。どうやら第13機関長は<法術>の使い手だったらしい、しかも相当のな。つまり術の力で穴の底に眠る不死者を退けて、蛇と戦ったらしい」
「やっぱり、世界樹の根のあった穴には不死者が出るんだ」
「ああ、大昔に底なし穴だと思われて、死体を直でガンガン投げ込んでたらしいからな」
「そんな場所で第12機関長は何を開発してるんだか。対邪神の化身兵器とか言ってたけど」
「さあな?でもあそこは大量の霊子や精霊の力の集まる場所でもあるからな。それにあの穴に惹かれた者は【教国】だけじゃないしな」
「どういう事?」
「行ってみれば分かるさ。さて装備の件だが、特定の術を発動できる様になるアクセサリーを貸そう。グローブを外した状態になるが、術を封じた指輪を貸し出す」
「貸すって事は、買えない位高価な物なんだね」
「一回使いきりの物なら量産できる者もいるだろうが、精神力を込めれば何度でも使えるような物は、渡せるような物じゃないな」
「それじゃ、流石に悪いから量産品を買えるだけ買うよ」
「ふむ、その方が後腐れは無いだろうが、結局一度に装備出来る量はたかが知れてるからな。効果時間が切れた後のかけ直しの事も考えれば、何度でも使えたほうがいいだろう」
「にしたって、精神力だけで何の代償もなく使える術ってのは違和感があるんだけど?」
「? そんな物あるわけ無いだろ? <法術>を使うには信仰が必要だ。お前さんの場合、今まで浄化してきた不死者の分だけ信仰が貯まってるな。アクセサリーで使える術は基本的な物ばかりだし、消耗はそこまでではないだろうが、一本行っとくか」
「どこにさ? いくらなんでも地下墓地にも行けないだろうに」
「不死者は平原にもうじゃうじゃいるんだぜ。死者の洞窟なんてどうだ?」
「どうだ?って、剣以外はメンテナンスに出してるっての、蛇相手だし慎重に行くつもりだったから、本当に普段着以外全部、あっ陣羽織はある」
「じゃあ【森国】の【隠密】の黒装束なんて似合いそうだな。一応俺達は調査機関だから色々と潜入用に装備類も集めてるからな」
完全に行かせる気の上司に黒衣装を渡されたので、装備してみる。
足袋に草鞋風の靴?サンダル?足のホールド感が走りやすい。
脛は皮巻きだが、悪くない。
腿は忍袴。現実とは違うみたいだが、履き心地は悪くないし、袴の内側に皮ポーチに色々仕舞って隠せるのが助かる。
上衣は普通の前合わせだけど軽くて、動きの阻害は無い。腹周りだけは皮胴が防具になっているが、これもどういう構造か分からないが、とても動きやすい。
手甲も皮製だが、前腕の甲側に何かの甲殻が張ってあり、攻撃を受け流せる様になっていて便利。
頭は頭巾で眼以外は隠れて、額当は丈夫そう。そして、意外と蒸れない。
陣羽織をはおって、上からアイテムバッグを斜め掛けにし、バッグの背中側に剣を差せば、
なんか完璧だ。
凄い動きやすいし、前腕で攻撃受けられるとか便利すぎん?
最後に渡された指輪を三つ小指、小指、薬指に装着。
なんかやる気出てきた!