369.報酬
霧に包まれ、視界一杯が白くなった。
そして、間もなく最初の会場に佇んでいて、一瞬夢でも見たのかと思ったが、
隣の剣聖の弟子と目を合わせれば、アイコンタクトで夢ではない事が分かった。
試合の終了が伝えられ、何の、かんのと挨拶が続く。
こういうのが面倒なんだよな、このゲーム。
空に飛ぶ大きな鳥。羽を広げ上昇気流を掴み、ふわりと浮きながら宙で風に押し流されている。
トンビなのか鷹なのか。
ふと気がつくと、何故か守護者と精霊の祭殿のお偉いさんと見られる人達がこっちを見ている。
いつの間にか、他にいた参加者たちも帰っていた。
どれ位経ったのか全く記憶が無い。いつもなら考え事をしながら、目の前のことも把握してるのだが、
今日はよっぽど挨拶が面倒だったのか、完全に現実逃避していた。
「ふむ、体調がすぐれないとかそう言う事でなければ、望む報酬を伺いたいが?」
「ああ、あの、守護者が持ってるって言う石というか玉と言うか・・・」
「なんだ。それが望みなら、別にこの試合でなくともいつでも挑戦を受けたが?」
ええ・・・守護者って言うからそれなりに身分があるんだろうと、思って情報を集めたのに・・・。
って情報源、ご婦人だったわ。ちゃんと役所の人とかに問い合わせるんだった。
「まあ、直接我らを倒した事には違いない。玉は渡すとして、他に欲しい宝物は無いか?」
「いや、任務で必要なのその玉だけなんですよ」
「ふむ、では渡せる宝物の目録を渡すから、そこから好きなものを選ぶと良い」
そうして、目録を渡され読んでる間に、
「じゃあ、先に僕が『韋駄天の足袋』を下さい」
「ふむ、移動速度が上がるだけの装備だが良いのか?」
「ええ、それで」
「え?それでいいの?」
「縮地の移動距離の事を考えれば、ベストな選択肢だと思いますよ。しかもこのレベルのクエストで、移動のみ補正とか、どれだけ早くなるのか」
「移動速度上げたければ、ひたすら走ればいいんだよ」
「隊長みたいに【輸送】するだけで、お金も稼げば移動速度も上がる人ばかりじゃないんですよ」
ん~そう言うのもありなのか~。でも自分は全身大よそ装備が決まっちゃってるからな~。
・・・羅紗の羽織?
気になるワードがあったぞ。羅紗ってビロードだよね。
毛織物の羽織か、ちょっと見てみたいな。
「これって見せてもらう事できます?」
目録を見ながら、答えてもらうには、
「見せる事は叶わぬが、攻撃に対して回避しやすくなる性能を持つ外套だ。お主の装甲と同時に装備出来る」
と、なんか後ろに控えてた武士っぽいヒトが言う。
よし、それなら蟹装甲用外套として、これ貰うかね!
「じゃあ、それ下さい」
黒いのに光沢のある生地の陣羽織。背中に家紋も何も入っていないが、妙に深い黒が結構好みの黒だ。
それと一緒に聖石も貰い。任務を終えた。
スッと近づいてきた青が、
「隊長って呼ばれてるって事は現決闘王だったか、いつか勝負してみたいと思ったがこんな形で負けるとはな」
あっそうか自分は現決闘王なんだ。代替わりとかどっかで聞いた話だと思ったんだ。
「今回は相方が良かったからね。また会おう」
「そうだな。まだまだ力不足だし、いい刺激になった」
そして、守護者たちと別れ、会場を後にする。
「なんか本当にシンプルなタッグバトルだったね」
「分かりやすい方がいいですよ。寧ろ一定範囲内でのバトルロイヤルだって言うのに、ちゃんとご飯食べて補給しながら戦い続けて、何がシンプルだったんですかね?」
「ちゃんとご飯食べないとスタミナが切れちゃうよ?」
「そうなんですけど、携帯食とかで最低限満たして、警戒し続けるのを覚悟したんですけどね」
「そういう無理するの自分のスタイルじゃないから」
「それもそうですね。何にしても僕はこれでまた一段上に行けますし、次ぎ会うときが楽しみですね」
「次に会う時は例の強敵の可能性が高いから、頼りにしてるよ」
剣聖の弟子とも別れ一人になり、
帰りはやっぱり泳ぎかと【王国】に向かうか【帝国】に向かうか考えている内に、
船着場にニキータが迎えに来てた。
「また寄り道されても困るから迎えに行けって」
それだけ言われて、商船に押し込まれる。
どうやら第10機関で持っている商船で、普段から商売しつつ遠隔地で任務をしている機関員を運ぶ仕事もしているらしい。
そこからは気楽な船旅だ。
ログアウトできる船室が備えられた船なので、やることも無いし、
今日はここまでと思った所で、ニキータに呼び止められた。
「約束は覚えてるか?」
「・・・、・・・、・・・死と再生の秘術?」
「間はあったけど、一応覚えてたんならそれでいい。焦らせる気は無いが、装備品のメンテが終わったら話をしよう」
「そう、見つかったんだ?次の蛇」
「ああ、ちょっと行くのが難しい場所なんだが、後は隠れ家で話そうか」
それだけ話して、自分は船室に入り、ログアウト。
蛇か~、なんか久しぶりすぎて、感覚がな。