365.朝食からの運動
あの後夜襲は無かった。残念。
空が白み、うっすら靄がたつ川原で、朝ごはんにしようと思う。
別に汚れる訳でもないが、川の冷たい水で顔を洗うとすっきりする。
つくづくこのゲームの感覚のリアリティ。
勿論剣で刺されて、本当に体に穴の空く感触があるわけでは無いが、
元は医療用と言うだけあって、いざ実生活に戻った時に火は熱い、刃物は痛いというのを忘れないようにする為なのだろうか?
こんなVRになる前の家庭用ゲームですら、集中してプレイしていると、
いざ、現実でこれくらいの高さから降りても大丈夫と飛んだら、足を骨折したなんて、
冗談なのか本当なのか分からない話もあったのだから。
まあ、どこまでがリアリティとしてゲームに必要なのかも自分には分からないけどさ。
すっきりした朝から細々とした事を考えても仕方ない。
まずは朝ごはん!
米と味噌汁とほうれん草のおひたし、卵焼き!
焚き火にあたりながら、食べる純和食の朝食も悪くない。
ちなみに現実では朝ご飯食べるくらいなら後5分寝ていたい。なんとも不健康な事だ。
ゲームの中でばかり健康的に生きてどうするんだかな・・・。
ちょっと自嘲気味な気分になってしまった。
「さて、どっちに向かいますか?」
「昨日は森が多かったから、川沿いを歩いて、山?台地?を目指そうか」
と、川上の方を指差せば、少し高台になっていて見晴らしが良さそうだ。
あそこでお昼にしたいなと、それだけの理由。
剣聖の弟子と連れ立って川上の方に川沿いを歩いていけば、
すぐに小石が徐々にサイズが大きくなり、なんなら岩も転がっていて、その上を二人で跳ねて進んで行く。
すると、川原の岩場のさらに外側、土手になっている場所に二人の人影。
向こうは朝日に伸びをして、これから始まる運動に前向きな表情。
剣聖の弟子も心なしかニコニコしている。
自分も思わず笑顔だ。
朝一番の運動はすっきり正々堂々決着をつけよう。
鉢金と胴あてと小手と脛当てとすっきりした装備の短い直槍使い、
同じような防具と棍棒使いの二人組。
農兵のような装備だが、佇まいは落ち着いていて、中々の貫禄にワクワクしてくる。
二人は距離をあまり空けず、二人並んでこちらに槍先と棒先を突きつける様な構え。
まるで二人で隊列を組んでいるようで、なんか懐かしくなり、尚更楽しくなってきた。
こちらは剣聖の弟子が縮地で相手の後ろに回り挟み撃ち。
さあ、どう出る?
じりじりと動く二人は背中合わせになり、自分の相手は直槍になりそうだ。
剣を抜き、肩に担ぐように構えて、ずいずい歩いて距離を詰めていく。
相手の間合いと見た瞬間に喉元を寸分違わず突いてくる事に錬度の高さを感じ、緊張感と高揚感を覚え、
あえてブロックはせずに、剣で打ち払う。
それでもスナップは効かせているので、相手は一瞬顔を顰めるが、すぐに持ち直し、
槍先は自分の喉を完全に狙っている。
次は目を狙い突いて来た所をブロック、
しかし、寸止めにしてすぐに引き、鳩尾を狙って突きを放ってきた。
半身になってかわし、一歩入り込むのと同時に、
槍を引き戻し、槍先を短く持って脇腹を狙って突き。
空いてた、左手で相手の手首を掴み槍の向きを強引に変えて避ける。そのまま、
擒拿術 我樹丸
腕を捻り上げながら、術で相手の右腕を握りつぶす。
必死で腕を振り廻し、自分の手を払おうとするが、そう簡単には離さない。
仕舞いには左手で強引に引き剥がそうとしてきた所で隙の出来た首元を剣で切る。
出血のデバフと急所硬直が同時に発生。
そのまま至近距離で目を切り、盲目も追加。
武士の情けと思って、手を離してやれば、
顔を振って少ない視界に自分を見つけ、槍を真っ直ぐ向けてくる。
最後まで相手をする方がお好みかと、きっちり綺麗に急所だけを狙い斬り、生命力を削り倒す。
丁度その頃には剣聖の弟子も決着をつけていた。
搦め手の無い真っ向勝負だったが、なんともすっきりして、偶にはこういうのもいい。
「なんか、かなりの使い手に見えましたが、動きが手に取るように見えて大した事無かったですね」
「あ!やっぱりそう言う感想?急所に突いてくる錬度はかなりのものに見えたのに、遅かったよね。落ち着いて対処できた」
「やっぱり僕達のステータスが補強されてる所為なんでしょうかね?お互いに軽装で早さが売りじゃないですか。補強された時にそこの伸び率がいいのかも」
「言われてみれば、そうかも。自分は移動力と持久力タイプだと思ってたけど、そこが補強されて、相手の動きが、少しゆっくりに見えるのか」
「分かりませんけど、格下相手だとあからさまに動きが遅く見えますから、何となくです」
「ふむ、朝一番の戦闘には良かったけど、この後も正面戦闘の繰り返しはつまらないかな」
「搦め手か、奇襲か、罠か、特殊武器か、いずれにしても面白い物を期待してしまいますね」
「うん、同感。折角の試合だし、楽しくやりたいな」