361.お食事中の闖入者
「まだ食事にはちょっと早くないですか?」
「さっきも返り討ちにする気ではいたけど、一応警戒してささっと終わっちゃったじゃない。腰据えて戦うなら、もっとちゃんとしたもの食べよう」
なんなら美味しい匂い漂わせて、敵引き寄せてやろうじゃん。
【森国】で美味しいにおいといえば、まず米か。焚き火と飯盒で米を炊く。
オカズはどうすっかね~。ご飯と森、ご飯と森、ご飯と森・・・。
よし!まずは油でニンニクを炒めて香り付け、猪肉のスライスを焼き色が付くまで炒めよう。
そしたら、ニラを加えてしんなりさせて、味噌と米酒を足していく。
・・・自分これだけお酒持ってて料理酒持ってないや・・・まあ、いいか!
長芋入れて、塩と胡椒で味を調え、最後に適当な柑橘系果物を何種類か搾って、酢をぶっこめば!
猪肉と長芋の味噌酢炒めの出来上がり!
「なんか、相変わらず、森の中でも普通のご飯作りますね」
「長芋と猪肉が森っぽいかと思ったけど、そうでもない?まあいいじゃん。食べよう」
「「「いただきます」」」
一人分声が多いな~。
自分の隣に赤い鎧に小太刀を二本差して、兜も面頬も外した武者がいる。
完全に守護者の赤い方じゃん。
「すまん、連戦で腹が減ってしまってな」
「相方は?」
「崖で戦ってて、俺だけ落っこちてしまってな。料理なんかも相方しか出来なくて困っていた所だったのだ」
「ふーん、どうする?二人がかりならやれそうじゃない?」
「まあ、タッグバトルで仲間とはぐれた方が悪いですしね」
「いやいやいや、待て!そこは正々堂々とだな・・・」
「自分は指揮者なので、多数で少数囲む事に何の良心の呵責も感じないんですよ」
「分かった!情報を出そう。この試合に隠された秘密を披露するから、それで手を打ってくれ」
「自分はいいよ」
「僕もそれなら納得です」
「じゃあ、改めまして」 「「「いただきます」」」
三人でもそもそと森の中で飯を食う。
今のところ守護者の赤い方しか釣られない。
食べながら、話を聞く。
「中々濃い味で、疲れた体に沁みるな。それでいてさっぱりした酢の風味がたまらん。それでだなこの試合の秘密だが」
「そうでしょ。柑橘系の果物の汁がポイント」
「そうか、今度相方にも教えてやるか、ヒトってのは成長すればする程、成長速度ってのは遅くなるだろう」
「相方ってのは料理得意みたいだけど、器用なの?」
「ああ、本当に器用で他人と関わるのもうまくてな。フラッと旅に出て帰って来てはいつの間にか強くなってやがるんだ。それで、この試合だがな、戦って勝つたびに相手の力を少しだけもらう事が出来る。勿論後遺症が残るような量じゃないが、何人分も溜まれば、相当の量になるわけだ」
「旅か、自分も結構好きだよ。逆にアンタは旅しないんだ?」
「そうだな。俺は不器用だし小太刀しか取り得が無いから、引きこもりすぎて何も出来ないな。んで、最後に残った組が総取り、守護者も達人になるまで、修行を続ける訳にも行かないし、そうやって手っ取り早く、相応しい実力を身につけさせようって訳」
「何も出来ないんじゃなくて、やらないだけじゃん?」
「まあ、そうとも言うけど、辛辣なやつだな。っていうか、この試合の秘密に興味あったか?」
「なんか蠱毒の術みたいに最後に残った者に力が残るんでしょ?【森国】の国体に反対する人間とかが勝ったら大変だね」
「まあ、だから俺達も必死さ。旅先でいくつもの危難を乗り越えてきた強靭な相方、小太刀だけひたすら極めてきた俺、負ける気は無い。でも強い奴とも戦いたい」
「やっぱり、今やる?」
「だから二対一は勘弁してくれって」
「いや、自分と一対一」
「珍しいですね隊長が好戦的なんて」
焚き火から少し離れ、お互いに剣と小太刀を抜き、
相手は両手に一本づつ構え、半身で、左手の剣をこちらに突きつける様に、右手側を体で隠すように構えている。
自分は正対で右手に剣を持ち肩に軽く担ぐ。
先手は赤い守護者の踏み込みと同時に左手側で突き。
ブロックしようと構えれば、
強引に軌道を変え、その勢いで半回転し、右手側で斬りかかってくる。
剣を引き上げ、軌道に割り込ませれば、
寸止め、剣に触れるかという所で小太刀を止め、軽く触れるだけに留めた。
「あんた、剣で留めるのか、似たもの同士かもな」
「自分はあちこちと旅するし、割と色々出来るタイプだから」
「そうか、うちの相方と気が合いそうか、残念だな」
剣で小太刀を撥ね上げ、肩甲骨から回すように、相手の腿を斬りつける。
また、回転するように今度は飛びのき、両小太刀の先端を交差するように構えなおし、
そのままクロスして、術を乗せ、突いてくる。
多分交点に剣を差し込むのが、セオリー。だが、逆に罠の可能性もある。
氷剣術 凍牙
術防御用に凍牙を使用しつつ、敢えて左手側だけスナップを効かせて強打。
交点が外れた事で、術の発動が中止、だが残った右手側だけで襲い掛かってくる。
仕方なく、その場で横に転がりながら避け、すぐ立ち上がる。
相手と目が合った瞬間に、
<威圧>
自分にダメージの無い衝撃がぶつかり、硬直が発生。
どうやらお互いに<威圧>を使ったようだ。
ほぼ同時に硬直から戻り、お互いに剣と小太刀をしまう。
「ふふ、なるほどね。何も懸かってない【訓練】だったら、またやりたいかな」
「それは楽しそうだな。でもこの試合でもやり合う事になるだろうから、楽しみにしてるぜ」
そう言って、立ち去る赤鎧の守護者。
「少しは手の内見れたかな?」
「そうですね。しかし何でまた?」
「自分は多分青い方とやるから。赤い方は任せる」
「気が合いそうだったのに、僕に譲るんですね?」
「戦い方がブロック主体同士じゃ、下手したら自分の方が集中力切れるのが先かもしれないし」
「そうですね。じゃあ次は僕が赤をやります」
守護者は双子って話だし、顔が似過ぎてるんだよね。小次郎と。
どっちが阿でどっちが吽か分からないけど、小次郎は強敵だよな~。