36.王国騎士
「Kingdom Knights」
奇をてらわないそのままのクラン名だが、そこに所属するものはその名に誇りを持っている。
現状判明している『ジョブ』の中で、必ず存在するはずだとβの頃から探し続けられ、発見公表された後も難関のレアジョブとしてあらゆるプレイヤーに認知されている。それにたどりついた者は畏敬の目で見られることになる。
そのジョブの名は『騎士』
そんなジョブに就いた者が集い率いる集団。最強の形は数あれど、難関レアジョブ到達者が一堂に会するそのクランがこのゲーム最強と言われることに異を唱えるものはごく少数、それこそ自分が最強だと自負するものくらいだろう。大抵の通常のプレイヤーは彼らの言うことに従う他ない。
とは言え、彼らが無法をすることは無い。むしろ徳目となる戒律を自らに課しその上で、他の者の明らかな無法、PKや窃盗を取り締まる。
大抵のものにはとても頼もしく、一部のものには目の上のたんこぶのような存在となっている。
その日はその中核メンバー達が集まる定例集会の日であった。
人によっては、円卓会議等と呼ぶそれのテーマは未だに手にすることの出来ない栄冠のことであった。
「今回のことは、いたしかた無いでしょう。我等のジョブはいずれも戦闘職まさかの料理のイベントで遅れを取ったからと評価が下がるものではない筈」
優美でかつ豊かな声量で会議を仕切るのは、金糸で刺繍されたローブと金糸で紋章を刺繍したマント、ヴェールのついた金冠に身を包む支援担当の「聖騎士」通称金騎士である。
「やっぱりあれだな、一回目で失敗したのが痛かった。って訳だな。あれは、狩りイベントだったし、完全に戦闘職向けのイベントだったわけだからな」
磊落なイメージを抱かせるしゃべり方をするのは、赤いハーフプレートの男攻勢担当通称赤騎士
「あの時は、正式にはじまってからまだ四ヶ月、この会議のメンバーもまだ半分にも満たなかったではないか」
逆にやや落ち着いたイメージを抱かせるしゃべり方なのは青いフルプレートの守勢担当通称青騎士
「そうは言えども、我等を無冠の王等とのたまう者もおります故、気にならないといえば嘘になりますね。過去のことはどうしようもないとは言え、次回に向けた活動が必要になるでしょう。すでに噂ではPVP説が濃厚ですが、皆さんの考えはいかがなものでしょうか?」
少々無理に賢しげなしゃべり方をするのが自称頭脳担当白騎士全身白いレザーアーマーを装備している。
「そりゃあ、PVPなら負ける気はしないぜ!むしろ強いやつと当たれるならこの上ないな!」
「それは、私も望むところだが、そう、うまくいくか?『闘技場』で、毎日PVPの腕だけ磨いている者もいる」
「格ゲーマニアの連中か、派手技ブッパしか脳のない連中にそうそう負けねぇよ。この前も乗り込んだばかりじゃねぇか。闘技場だけであきたらず、むしろ闘技場で勝てないからって、外で不意打ち食らわすアホPK潰しにさ」
「闘技場で勝てない者を倒したから闘技場の闘士恐れるに足らずとは、少々根拠が薄弱と言わざるを得ないですね。とは言え、我々も難関とされるクエストをクリアしてこのジョブについている以上、そうそう負けることも無いでしょうが」
「私としては、一周年イベントですからもう少し規模の大きなものになると予想しますが?」
「どんなイベントだよ?」
「集団戦では無いかと思います。未だユニオンボスすら討伐されているのは本当に数える程度ですし、そろそろプレイヤー同士の連携について、てこ入れがあるものと予想します」
「それでは、なおさら我々の独壇場ではないですか!まだ、公式に攻略情報として公開しているわけではないですが、我々騎士は、パーティを率いるのに適したスキル<指揮>を皆持っているはずです。それこそ、プレイヤー5人そろわなければ、NPCを借りて攻略を進められる。そうすることで一々パーティを集めたり探したりする手間やロスを減らしより効率的に攻略を進めてきたのですから」
「まあ、な。でもよNPCじゃ、流石にステータス足りないし今はその方法も停滞気味だがな。まあ、イベント時にこのメンバーでパーティ戦に出ればまず、負けは無いな!士気なんて言う要素に気がついてるプレイヤーが何人もいるとも思えないしな。いずれにせよ戦闘スキルを高めるのみか」
「ところで、マスターはどうお考えですか?」
ん?まずい何も聞いておらんかったわい。
先日孫にゲームの状況をメールで聞いたら、まさか、【帝国】におったとは、騎士になるには【王国】に決まっておるだろうに昔からちょっと変わった子じゃったからな。
本当は、子供の頃のように騎士ごっこをしてゲームの中で一緒に遊びたかったが、ゲームで現実の身分を明かしちゃ駄目だと親切な聖女様に教えてもらったからの。
このゲームの面倒な仕様にクエストと言うのがあるが、聖女様は日課と呼ばれるクエストがあるそうじゃ、聞くだけでやる気が失せる様な退屈なやつじゃ。なぜ遊びにそんな機能があるのかは知らぬが、聖女様は日々まじめにこなしている、清楚で可憐なお方じゃ。まさに崇拝し奉仕するに相応しいお方じゃ。courtly loveを実践できるなぞ、そうそうあるまいに、苦節80年わしはやっと騎士になれたのじゃ!
「マスターどうかされましたか?」
完全にまずい本当に全然話を聞いてなかった。
「そう急くな、マスターのお考えは私達の先を行くのだ。騎士取得条件を初めて解き明かされた時のように」
「あれだろ?爺さんだから居眠りして無いか心配したんだろ?居眠りだけなら良いけどよ。風邪引いたりしたら大変だからな、そりゃ心配もするだろうよ」
「居眠りなぞはしておらん安心しろ、部屋も暖かくしている。後マスターはやはり変だろう主人ではないぞわしは」
「それはそうですが、我等に騎士の道を示してくれた教導者ですから、マスターでよろしいのでは無いかと?」
「ふむ、わしはちと【帝国】に行ってみようと思うがの」
「今回のイベントは、負けてしまいましたが、あくまで料理でのこと、そこまで気にする場所ではないのでは?多少人の移動はあるかもしれませんが本当の過疎地ですよ?食べ物関連で盛り上がる可能性はあれど、むしろ今回のイベントで世界各地に色々な食材が埋もれている可能性も出てきましたし、やはりそこまで注目する理由が見当たりません」
何を言ってるんだか。わしはただ、孫に会えれば良いなぁと思って【帝国】に観光に行くだけなのに。
「マスターの真意は我等如きでは、計り知れませんが【帝国】は雪国だと言います。装備にも色々と制限があるでしょうから、十分に準備された方がよろしいかと、私がある程度見繕います」
「ふむ、いつも済まないの」
「じゃあ、爺さんが【帝国】に行っている間他の面々はそれぞれ戦闘スキルを磨くと言うことでついでに<指揮>もちょっとは磨いておくってことで方針は決まりだな」
こうして、ゲーム最強の会議は幕を閉じ、一人の騎士が【帝国】に向かう。
その騎士はβプレイヤーであり、今や初の騎士ジョブの発見者であり、難関と言われるジョブクエストにおいて、ユニオンボスを単独撃破という冗談のような挑戦を初めて成し遂げた。
通称 鈍色の騎士 ゲーム内でも屈指の有名プレイヤーである。
そして、その騎士は、プレイヤー唯一の【士官】の祖父でもある。しかしその孫はまだ、本当に一部の者にしか知られていない。
やっとプロローグの祖父を出せました。
祖父が世界で最も有名な騎士である設定は、最初から考えてたのですが、なかなか出せずじまいでどうしようかと思っていました。