359.槍使い
森を警戒しながら進む。
「流石に【森国】だけあって、皆こっちに気が付いてくるね」
「まぁ、そこはお国柄ですね。隠れるのが基本のこの国で<察知>関連取らないヒトの方が少ないですよ」
ふと、森の中ドーム状の広場に出た。
そこには、堂々と槍の石突を地面に突いて立つ大柄な男。全身を堅固な鎧で固めている。
もう一人は小柄で錫杖を持つ男。僧衣の様だが、この世界は創世神と邪神しかいない筈なので、仏教徒では無いだろう。ローブ扱いと思われる軽装と空いた手に石の数珠を持っている。
「隊長の好きな槍を使う相手みたいですけど?」
「うーん、十字槍ね。確かに槍と言えば十字槍!みたいな愛好家の人も多いけどね。あの形だと横の鎌部が、相手に向くじゃん。つまり突いた時に、避けて入り込む隙を与えないようにする為だとは思うんだけど。やっぱり、鎌って引いて使う物だと思うんだよね~」
「そうなんですか?深く刺さりすぎて抜けなくなるのを防いだり、相手を制御する為じゃないんですか?」
「その通り!剣聖の弟子も好きなんじゃん!でもさ、自分が何で片鎌槍が好きかってさ。中国古代の戈って武器あるでしょ??長柄に鎌がついたみたいなアレ!あれって車右って言う戦車に乗れる勇者が持つ武器だった訳よ。走ってる馬車からすれ違い様斬りつけたり、引っかけたりして使ったみたいなんだよね。その後戦車の重要度が下がった後も一般の歩兵が使うようになったんだけど、多分刀槍より、農具に近い鎌型の方が使い勝手がよかったんじゃないかって言う説が・・・」
「ああ、はいはい。つまりあの槍は隊長の趣味じゃないって訳ですね。じゃあ、僕が相手します」
「そう?じゃあ、自分があの術士風か」
話がまとまるまで、待ってくれる優しい二人組。
その二人に近づいていくと、僧衣の方が錫杖をこちらに向けた。
足元に殺気を感じ、飛びのく。
剣聖の弟子も錫杖をこちらに向けた動作で異常を感じたらしく、縮地で遠くに逃げていた。
足元に草の蔓がうじゃうじゃと生えて来たが、多分攻撃か拘束術だったのだろう。
木精術使いである事がハッキリした。草だけども。
あとは【巫士】を取得して、術の効果を高めているか。
もしくは複数の精霊術を取得しているタイプか。
「ん~後はあの木精術が錫杖による物なのか、精霊術なのかによっても変わるか」
「それなら精霊術だと思いますよ【森国】では割と一般的なスタイルですから。あの数珠が賢者の石を繋いでるんですよ」
「ああ、そう言う事か、精霊術は賢者の石を触媒に消費するんだもんね。純術士か、相手にした経験が無いんだよな」
「このゲームは術士の線引きが難しいですからね。武器を使っても精神力を消費するのは術ですし」
そんな話をしている内に、僧衣の男が錫杖の石突で地面を叩くと木が生えてくる。
キラキラと粉のような緑のエフェクトが、僧衣の男と槍の男に当たっているが、悪い効果では無さそうだ。
さらに錫杖を空を指す様に掲げると、薄暗かった森に陽光が降り注ぐ。
「なんか準備がどんどん整っていくけど」
「そうですね、そろそろやりましょうか」
剣聖の弟子が縮地で僧衣の男の後ろに飛び、剣を抜こうとした所で、槍の男が立ちふさがり邪魔をする。
そこで、自分がさっきの蔓草地帯を<跳躍>で飛び越え、僧衣の男に向かう。
僧衣の男が錫杖の先を空に向けたまま、回す様に動かすと、
さっき生えてきた木から葉がハラハラと落ちてきて、風も無いのに舞い始め、
木を中心につむじ風の様に葉が舞い、ひとひら自分に触れると、少量ながらダメージがあった。
どうしようかと迷った時には、剣聖の弟子が葉のつむじ風に巻きこまれ、動けなくなっている。
突き込まれた槍を辛うじて鞘に収めた刀で受け、転がり、まだ動けない様だ。
剣聖の弟子の軽装で、ずっとこのダメージを受け続ければ、まずかろう。
ベルトのギミックを回し、蟹の甲殻装備に切り替え、葉のつむじ風の中に突入。
「いたいたいたい!」
叫べば少しは痛みが紛れるかと思ったがそんな事も無く。
ただ我慢しながら剣聖の弟子の手を掴みそのまま真っ直ぐ走って逃げる。
一瞬槍使いがこちらを突いてきたが、かまってなんかいられない。
全速力ダッシュで木の葉の圏外まで逃げた。
それなりのダメージがあったが、自分は剣さえ抜いていれば、どんどん回復していく。
問題は剣聖の弟子、相手を切らねば、自然回復だけでは辛かろう。
腰から回復液を引き抜いて飲んでいるが、次に飲めるようになるまでクールタイムがそれなりにある。
さらに、丸薬も重ねて飲んで、自然回復速度を上げているのは、やはり相当ダメージを食らったのだろう。
「どうする?逃げちゃう?」
「それも一つの戦略ですが、ちょっとまずい気がします」
「なんでまた?意地?」
「いえ、あくまで予想ですが、今後どんどん相手が強くなっていく可能性があります。一組ずつ攻略しましょう」
そう言いながら太刀を抜き、この前見た霊魂みたいな青い炎を槍使いに飛ばすが、
僧衣の男が錫杖を軽く掲げただけで、光が槍使いを覆い、青い炎を二つとも防いでしまった。
「ねえ、やっぱり無理そうじゃない?」
「僕はあの葉の乱舞の中に突っ込めないですからね。大ピンチです」
そうして、自分の目をじっと見てくる。
なるほど、自分が行くのね。