351.牛鬼討伐
空気玉を割り一回呼吸をいれて、牛鬼の前に立つ。
牛鬼は知能の高い魔物らしい、
どう考えてもこの戦況、自分の後ろのアタッカーである小次郎を狙ってくるだろう。
足止め用の術は二つとも使ったばかり、クールタイムが過ぎるのを少し待たねばならない。
服着てる相手なら、蛇結茨もあるが、残念ながら今は虫と角の生えた顔がくっついた異様な魔物。
あとは霜界でスピードを遅くする位しかないんだけど。
能動的にノックバックを起こせるような技とかも持ってないしな。
後は、何が起きるか分らないけど試せる事があるにはあるか、賭けてみよう。
こちらを警戒していた牛鬼が動き出した所で、
氷剣術 霜界
スピードを緩め、ジャンプしながら喉元を剣で突き刺す。
大抵の生き物は首元が急所だ。異様な妖怪でも急所判定で硬直が発生した。
爪を掴み、
吸う右手
相手の生命力と精神力を吸収しながら、思い切り精神力を流し込んでみると、
牛鬼の前足の爪が一本部位破壊が成立した。
これじゃない、擒拿術がそろそろ増えてもいいんじゃ無いかと勘で使ってみたけど今はこれじゃない。
まだ足が5本残っている牛鬼が怒って、残った前足を振り下ろしてきたので、ブロック。
ブロックした剣に爪先が当たったまま、
氷剣術 凍牙
剣を冷たくして、そのまま精神力を流し込んでみる。
うん、何か成立したっぽい感触なんだけど、生憎牛鬼が動かなくて何が起きているのか分らない。
自分の後方から矢が飛んできて、今度こそ牛鬼に突き刺さる。
どんな術が込められてたのか分からないが、刺さった矢が光を発して炸裂、大きな追加ダメージを発生させている。
ついでに中足が一本部位破壊におちいっている。どんな攻撃力だよ。
再び動き出した牛鬼が、明らかに怯えている。残った四肢を折り曲げ、胴体を地面に擦り付けるような形になった。
この状況で、知能の高い魔物のすることと言えば・・・。
すぐにベルトのギミックを回し装備を変更、それと同時に上空に跳躍する牛鬼。
それを飛蝗ジャンプで追う。
牛鬼を飛び越えながら牛鬼の落下地点を観察する。
明らかに小次郎とは反対方向へ飛んでいるって事は、やはり逃走する気だったか。
上空は毒の圏外のようなので、大きく息を吸い。
牛鬼のすぐ傍に落下し、落下の衝撃でノックバックを発生させ足止め。
近づいていくとこちらに尻を向けた牛鬼が、また四肢に力を込めてるので、
全力逃走かとこちらも全力で走り、距離をつめる。
そのままの勢い斬りつけようとした瞬間、牛鬼がいきなり尻から黄緑の霧を噴射。
避ける間もなく全身に浴び、
なにこれ!沁みる・・・いたたたたた。
全身に痒い様なヒリヒリするような痛みを感じ、それを堪えながら息も止めているので、動きが止まってしまう。
生命力を確認すると、別に減っていない?
いや、こんなに痛いのにそんなわけ無い、よく見てみると、
継続ダメージを受けながら、回復して、均衡を保っていた。何ぞこれ?
こちらに振り返り、にやついた牛鬼が爪を振りかざして、
「ひゃっひゃっひゃ!かかったな!お前だけでも食らってやるわ。足の分だと思えよ」
爪を振り下ろしてくるのに合わせて、
吐き出す左手
熱閃が牛鬼の顔を焼き、同時に爪を肩当で阻む。
ガード成立とはいかなかったが、ダメージ軽減にはなった。
そこに再び光る矢が飛んできて牛鬼の顔から体までを貫通して、飛び去っていく。
大ダメージに牛鬼が叫ぶ間もなく、もう一本の矢が命中。
こっちの矢は命中すると衝撃が走ったかのように、牛鬼が一瞬身を震わせ動きが止まる。
肩にかかっている爪を掴み、力を込めた。
剣を放り、その場で屈んで自分の足を空いた手で掴む。
牛鬼が本気の怯えを見せて、逃走をしようと振り返ろうとするが、
擒拿術 照葉野茨
クールタイムの終わった術で、自分の足を地面にくっつけて、
掴んだ手は離さず、逃走を阻む。
自分ごと持ち上げようとするが、それは無理。
どんなに引っ張ろうが、自分の握力補正は舐めちゃいかん。
飛んできた矢は矢の先が光り、さらにその矢を追う様に複数の尖った術のエフェクトが、弧を描いて飛んでくる。
矢と術のエフェクトが突き刺さり、さらにもう一発普通の矢が突き刺さった所で、牛鬼が倒れた。
周囲の毒も解除され、大きく息を吸う。
剣を拾うと自分のダメージが回復しているのが分る。
どうやら、ダメージ量が均衡を保っていたのは剣のおかげだったらしい。
剣を手放してそんなに経っていなかった筈なのにそこそこダメージを食らっている。
霊鳥の護の生命力回復ってのは、結構強力な継続ダメージと均衡する性能らしい。
漆の盃で薬草酒を飲み状態異常を解除して、烏天狗の方に向かい、
多分足は部位破壊状態なのだろう。
<手当て>を使用し、回復させる。
「すまない。助かった」
「いや、そういう事もありますよ。それよりあの牛鬼の死体どうします?」
「私が<解体>しよう」
そう言って、牛鬼の元に向かい<解体>をする烏天狗。
正直疲れた自分は、磯の程よい石に腰掛ける。
「助かった。烏天狗が最初に封じられるとは、三人まとめて命の危機だと思った」
「まあ、助かってよかったよ。そこまで大きくない魔物だったけど、強かったわ」
「そうだな、まず毒で近づけない、近づいてももっと直接的な毒を複数使う。あの爪だってまともに食らえば、大変だったろう。それにしても、よくあんなに長い間無呼吸で戦えるな」
「一応これでも【帝国】から泳いで【森国】まで来てるからね。息だけは結構続くよ」
「そりゃ、また只者じゃないのは知ってたはずなんだが、いろいろ出てくるものだな」
「まあ、まずは飯食って寝よう」
そう言って、近くのセーフゾーンで三人で食事にして寝る。
ちなみに食事は烏天狗が菊と胡桃の和え物や山菜料理を作ってくれたので、自分は山菜うどんを作った。