348.【森国】の守護者
いつの間にか雪が降らなくなり、水温も気温もマイルドになると【森国】も近い。
遠くからでも生い茂る木々が見える陸地が【森国】。
人気の無い場所から陸地に上がり、身支度をする。
できるだけ目立たない格好になり、一息入れて、思う事が一つ。
さて、どうやって守護者を見つけるかね。
確か最大の陽精の祭殿にいるって話だけども、その最大の祭殿てどこよって話。
いくらなんでも事件起こして、呼び出すわけにもいかないしな~。
目立たなさそうな、村かなんかに寄って聞くしか無いかね、最大なら流石に誰でも知ってるだろう。
そうして、目立たないように道沿いをのんびり歩く。
途中すれ違うヒトも追い抜くヒトもいるが、やっぱり和テイスト。
三度笠や菅笠の旅人達、
とは言え、自分のような全身ローブが目立つ訳でもなく、木々の間の土道を抜ける。
ふと、自分を追い越したヒトが消えたように見えたので、周囲に目を凝らせば、
木の隙間に家らしき建物が見えた。
そちらの方に向かえば、どうやら農村のようだ。
畑の間に家がぽつぽつ。
菜っ葉のような葉野菜を手入れしている老婦人に話を聞いてみる。
「お忙しい所、手を止めてしまって申し訳ないのですが、この国で一番大きな陽精の祭殿っていうのはどちらですか?」
「あらあら、海外の方かしら?陽精の祭殿は遠いから船で行った方が早いわよ?」
「いや、この国の情緒を味わいながら歩きたいので、目安が分れば途中で話し聞きながら向かいますので」
「そう?日は東から昇るから、この国で一番東の海岸から干潮時だけ歩いて行ける島があるの。そこがこの国の陽精の祭殿の元締めになるわね」
「そうでしたか、ありがとうございます。御邪魔しました」
「いいのよ~。折角だからうちの小松菜持って行きなさい」
両手に抱えるほどの、小松菜を貰ってしまった。
お礼に大した物ではないが、お酒を渡したら、大層喜んでくれたので、まあいいだろう。
しかし、まあ、このまま海沿いを歩けばそのうち着けるだろうと見当がついたので後は気楽なものだ。
道沿いに歩けば、その内セーフゾーンに自然と当たる。
折角だし、小松菜を使った料理を何か作りますかね。
海で手に入れた白身魚を出汁と醤油で煮て、身をほぐす。
バラバラになった所で、
卵を炒り、小松菜とほぐした魚の身を混ぜ、適当に醤油で味付けをすれば、
簡単小松菜炒めの出来上がり~。
しんなりした小松菜と卵が絡み、味付けした魚の身が程よく濃い味で、酒が進む。
海風吹き付ける砂浜、背後には防砂用の松の木が街路樹になって並んでいる。
何で、風ってのはこんなにエネルギーを感じるんだろうな。
昔から台風でも北関東から吹く冷たい風もビル風も
風ってものには妙に特別な力を感じるのは自分だけだろうか?
勿論枯葉や桜の花弁をばら撒き迷惑な風もあるけども、
自分に吹き付けてくる風は、体の奥底にある力を目覚めさせるように、
感情を高ぶらせ、体を動かしたくなる衝動を湧きあがらせてくる。
低気圧で体調が悪くなる人には申し訳ないが、自分は寧ろ元気になってしょうがない。
勿論冬に吹きすさぶ風と来たら、つらい事この上ないのだが、
それでも、不思議と風が強いほど元気になってしまうのだ。
今も砂浜の砂を巻き上げて吹き付けてくるが、気持ちが高ぶってしょうがない。
海の小島では、どうやって戦うか考えて不安になっていた守護者だった筈が、今は戦いたくてうずうずしてる。
負けるかも知れない相手だが、存分に剣を振り回したくてしょうがない。
「なんだ?ニヤニヤして変な奴だな」
急に声を掛けられる。
どうやら、旅人のNPCがセーフゾーンで一休みしようとして、こちらに来たらしい。
その旅人は自分と同じように小松菜を出して、油揚げと一緒に鍋に沸かしたお湯に入れ、
最後に味噌を溶かして、食べている。
おいしそうじゃないか!
小松菜と油揚げの味噌汁ってか!こいつ・・・できる!
「なぁ、そのなんか炒めたやつ分けてくれたら、俺のも分けてやるがどうだ?」
この提案、乗らない理由はあるか?いや、ない!
「じゃあ、どうぞ。ちょっと風が砂巻き上げてるからあれだけど」
「そんなもん気にして、砂浜で飯が食えるか」
そう言って、お互いの食事を交換して食べる。
〆は当然、うどんだ!
一緒に酒を飲み、食事をすれば友達だ。
だって同じ釜の飯を食ったんだから。
「なぁ、アンタ海外のヒトだろ?どこに行くんだ?」
「陽精の祭殿に行かなきゃいけないんだよね」
「そうか、俺も陽精の祭殿に帰る途中さ。それもこの国最大のな。もしなんだったら一緒に行かないか?」
「自分は海沿いに有るとしか知らなかったしそれはありがたいけど、いいの?」
「いいさ、旅は道連れ世は情けってな。何となく気もあいそうだし」
「そう?自分は気ままに旅して、お酒飲んでるだけだよ?」
「まさにそれさ。本当は俺の兄も誘ったんだが、兄は役目に真面目でちょっと潔癖、しかも引き篭もりなんだ」
「じゃあ、アンタは逆に清濁気にせず、フラフラと旅する気質なんだ?」
「そんな所だな。世間を直接この目で見なきゃ、なんか他人に何を言われても納得出来ない気質なんだよ。でも、まあ兄と仲が悪いってんじゃないけどな」
「そりゃ、いいね。気質が違うからこそ仲良くできるって事もあれば、似てるからちょっと行動を共にしてみたいって事もあるさ。よろしくね」
「ああ、こちらこそよろしく」
道中共にする事になった相手は妙に長い大太刀を背負う若い男だ。
なんかすっきりしたイケメンだし、小次郎とでも心の中で呼ぶか?