346.新装備と次の聖石
「出来ましたよ」
隠れ家で、だらだらしてたら珍しく受付のヒトから声を掛けてきた。
邪神の化身と戦う可能性を考えつつ、道具類はクラーヴンに頼み、自分は己を鍛える事しかできない。
そんな日々を過ごしつつ、何度か隠れ家を替えて、
【帝国】西端の港街にいた。
そこの受付は長靴にベストにシャツと割とカチッとした格好のお兄さん。
「何が出来たの?」
「この前、預かった蟹の甲殻の装備品が仕上がって、届きましたよ」
「ああ、肩当か。ありがたいなそりゃ。少しでも戦闘能力を高めたい所だった」
「いや、肩当だけじゃないみたいですね。まあ、見てみてください」
そう言って渡される暗い茶色、なんなら濃すぎるウーロン茶のような色の甲殻で出来た装備、見る角度によってうっすら青く光を反射してるようにも見えなくも無い。
一組はどう見ても肩当だったのですんなり装備したが、なかなかのフィット感に出来のよさを感じる。
肩上から上腕を覆い、軽く撥ね上げた造型がネックガードにもなっているが、全然邪魔じゃない。
〔古蟹の肩当〕斬・突・打耐性
ガード
握力補正(大)
そして肩当とセットで作ってくれたと思われる胸当て。
〔古蟹の胸甲〕斬・突・打耐性
底力補正(大)
後は、一対って事は脚かな?外側からの攻撃に対応するように腿にフィットする。鎧でいうなら、佩楯って感じだ。
〔古蟹の腿当〕斬・突・打耐性
体幹補正(大)
これはありがたいな~。
ガードってのは要は盾代わりに防御できるってことでしょ?
まあ、盾ってのは武器枠使って防御に振るわけだし、流石に盾ほどの性能は求められ無いんだろうけど十分助かる。
とりあえず、装備して確認していると上司が隠れ家に戻ってきて、
「おっ中々良さそうじゃないか。丁度いい。次の任務だ」
「何?なんかまた悪い事やってる奴でもいるの?」
「いや、聖石の件だな【森国】の守護者、阿空と吽海。こいつらが聖石を持っている」
「あうんって何か門番か何かなの?」
「そうだな【森国】でも最大の陽精を奉る社の守護をしているが、いざ【森国】に危機が訪れれば駆けつける。文字通り守護者だ。戦ってねじ伏せてこい」
「それは、またなんとも・・・無理じゃない?諦めよう?」
「諦めが早すぎるだろ!いつもの口八丁じゃどうにもならないが、死ぬ気でがんばれ」
「口八丁っていうほど、口がうまい気は無いけど。切り札の酒も切らしてるしどうしたものかね」
「じゃあ、普通に戦って勝って聖石貰って来い」
「む~りじゃん!戦って勝てる相手とは思えないので、何か方法考えよう?って言ってるの!」
「まあ、一筋縄じゃ行かないだろうが、丁度代替わりしたばかりだし、互角には戦える相手だろう。今行くのが一番現実的だな」
「代替わりって、世襲制なの?その守護者って」
「詳しい事は文化が違うんで分からんが【森国】で双子が生まれれば、他人に抜きん出た存在かも知れないとすぐに陽精の祭殿に預けるらしい。そんな中でも優秀な者が守護者となるようだ」
「それにしても【森国】ってな。この前近くまで行ったのに、また行くとなるとマンボーさんに迷惑かけちゃうしな」
「そうだな。海の案内人となると限られてくるか。今回は厳しい戦いになるかもしれないし、偶には楽させてやろうか?」
「いや、いいや。戦う前には体動かしておきたいし【帝国】の冷たい海をのんびり泳いでみるわ」
「おいおい、凍りつく【帝国】の海を泳ぐ気かよ。そりゃあ【森国】方面は流石に完全に凍りついてるわけじゃないが。それでも、それなりの寒さだぞ?」
「なんかさ、頭をちょっとすっきりさせたいんだよね。頭冷やしながら、泳ぐ事だけに集中したい」
「変わった奴だな。まあ、好き好んであの【帝国】を拠点にしたんだし、そんなものか」
「と言うわけで、セーフゾーンで体温める燃料と食材とお酒を買い込みたいんだけど」
「分った用意しよう。あと、方位だけは分るように、コンパスだけは渡しておこう」
「コンパスなんてあったんだ?今まで、何となく太陽みて方向決めてたな」
「おい・・・。お前さんみたいな道関係無しに歩く奴はせめてコンパス位は持っていけよ。安いもんじゃないが、これまでの報酬としてくれてやるから使えよ」
渡されたコンパスは結構大振りで、右手いっぱいの大きさだ。鞄にしまっておいて、必要な時に取り出すようにしよう。
ふむ、色々と大詰めなんだろうなとうすうす感じ、何となく追い詰められた気分を緩めずに寧ろ引き締めて、集中したい。
ゲームだし、楽しくやりたいのは山々、だけど邪神の化身は何か別な感じがする。
運営側の説明で言うなら、世界変遷級ボス。
今まで、1,000人級のボス位までは当たり前に戦ってきた筈なのに、緊張感というか、クエストの溜めが尋常じゃない。
このゲームの事だし、勝つ方法は用意してくれてるんだろうが、
自分で、やれる事はやるべきだろう。




