341.薬草酒
しかし、なんと言うか、歩く泳ぐでの移動に慣れすぎた所為か【海国】が全然遠く感じないな。
ポータルは便利なんだが、自分は普通に歩いたり泳いだりして移動する方が好きかもな。
でも、あれか皆は色んな攻略とか見て、これって言う魔物を狩ったりとか、素材集めて少しでも強くなろうとしてるんだもんな。
そうなると泳いだり歩いたりなんて効率悪い真似はしないか。
マンボーさんと泳ぐ分にはちゃんとセーフゾーンもあるし、何も困ること無いんだけどな。
ご飯はいくらでも泳いでるし。
魚人街に辿りつけば、魚人街の端にあるブラボー記念碑に珊瑚を供える。
他にもなんか色々ごちゃごちゃ置いてあるから、きっと皆お供えしてるんだろう。
飲んだ分海草酒を仕入れて、マンボーさんの案内で【王国】の海岸に辿り着き別れる。
流石にお礼を渡そうとしたが、逆に『悩む事があったらいつでも母なる海に来たらいい』とのことだ。
マンボーさんは本当に器が大きすぎるな~。
そして、気が付いた時には頭領が目の前に立っている。
いつから視界に入ったのかすら分らないのだから、怖すぎ。
「無事に霊亀のぉ使いは済んだのかのぉ?」
「ええ、後は届けるだけですよ」
「そぅか、じゃぁ案内するとしょぅ」
もう、有無も言わさず【王国】の平原を突っ切る。
なんか、自分が追いつくのが当たり前って風にガンガン飛ばすのよ。
風景がどんどん通り過ぎるスピードで、どうやって魔物を認識して避けてるの?って感じなの。
まあ、でもいつの間にかそのスピードで走れるようになっている辺り、自分のステータスは移動能力偏重なんだろうな。
霊亀は【馬国】高原の端で待っていた。
『あ~来た来た。ピンクの海草あった?』
「大きい蟹がいて大変でしたよ」
『そう?話が分る蟹だと思ったけど。じゃあ、その海草口に投げ込んでね~』
そう言って、その場に屈みこむだけで、ズンッと地面から根源的な恐怖を感じさせるような振動を感じる。
大きく開けた口にピンクの海草を投げ込むと、
『沁みるな~。これだよこれ~』
「なんか、前にそれ食べた時は珊瑚礁破壊したらしいですね」
『そうなんだよね~、ちょっと気が付かなくてさ~。海は中がどうなってるか見えなくて危ないな~って思った』
「じゃあ、それ目的で、珊瑚礁の所に行ったんじゃないんですね?」
『うん、運動してたらぶつかっちゃってさ。丁度お腹すいたな~って思ったところに生えてたの。思い出の海草』
「お腹すいたな~って普段何食べてるんですか?」
『別に何も食べなくてもいいんだよね~。ただその時はいっぱい運動したから何となくお腹すいたな~って言う気分だった』
「そうですか・・・」
まあ、一方的に力が有るとこんな感覚なのかな。悪気とか一ミクロンも無さそうだし。
「そう言えば、聞いてなかったんですけど、これ力分けてもらって自分の剣どうなったんですか?」
『え?霊鳥から聞いて無いの?そう言う適当なところあるよね~』
「いや、まあ、いいんですけど、多分渡した兜割の代わりになる様にしてくれたんでしょうから」
『それね~。兜割は分らないけど、その剣の耐久の回復と君の生命力の回復が霊鳥でしょ?あとボクはね~とても硬くなって殴るのが強くなって、耐久が沢山増えてね、その剣で身を守った時に通り抜けるダメージが殆どなくなるの』
ん~霊亀の感覚でいう沢山とか殆どのニュアンスが微妙に分らないんだが、耐久と生命力の自動回復と殴る適正と補正、耐久値の上昇、ガード性能の向上って所かな?
まあ、元々殴る時用に使ってた兜割だ。剣で殴れるなら武器持ち替える必要ないし、楽でいいか。
そして、霊亀と別れると頭領に【馬国】の都の一つに案内され、
「これが、約束の物じゃ」
と言って徳利に入った酒を手渡される。
「へ~じゃあ、一口」
「こりゃ待て!もったぃなぃ。この薬草酒はのぉ、飲む盃にょって味も効果も変わるんじゃ。ほれ、報酬としてこの盃もやるわぃ」
そう言って、小さな漆の盃も貰う。
「この盃で飲むとどんな効果になるんですか?」
「主に解毒じゃのぉ。毒、猛毒、病毒、酩酊なんかに効くぞぃ」
「お酒なのに酔いが醒めちゃうとか・・・意味わかんない」
「いつも飲んどるんじゃ、丁度ええじゃろ」
折角貰ったが、そう言う効果のある物ならしまっておきますか。
そして、隠れ家に向かう。
本当に頭領にかかったら、全然隠れてない。
普通にソファに向かい合って座り、話をする。
頭領がいても入り口の受付のヒトは咎めたりしない。
「さて、邪神の化身の姿の話じゃったな。正直分らん」
「ええ~、働かせておいて分らないって・・・」
「そぅ話を急ぐでない。どうゃらぃくつも姿を変えたらしぃのじゃ」
ああ~そりゃ、相当な大物ボスだろうし、形態変化くらいあるか、第4形態くらいあるのかね?
「時に獣、時に魚に変化したらしぃのじゃが、厄介なのは能力じゃ。酩酊させる霧、空中を泳ぐ力、攻撃を防ぐ透明の壁、強固な壁すら破壊する衝撃、無数に手下を発生させる分裂能力、異常に硬い甲殻、瞬間移動、完全隠蔽、必殺の剣、遠くの標的を消し飛ばす破滅の光、炎を吹き出し加速する。しかし何より厄介なのは大量の瘴気を垂れ流し、近づく事すら出来んと言う事じゃ」
「そんな相手にどうやって戦えと?」
「まあ、がんばるとよぃ」
そう言って、立ち去る頭領。がんばって何とかなる相手じゃないでしょ?おかしいよ。
まあ、強いて言うなら攻撃を防ぐ透明の壁と甲殻の能力が被ってるのは、多分使用制限があるんだろう。
何をするにもエネルギーが必要だから、色んな能力を使って補完してるんだろうな。
ああ~頭痛い~。
ソファに座って、天井を見上げていると、
「よ~、随分とお悩みの所悪いが俺の悩みも聞いてくれないか?」
と上司がこちらの顔を覗いてくる。