334.大霊峰の森
これは自分の勝手なイメージなのかもしれないが普通こういう標高の高い場所て、
岩場とか砂場とか、氷雪で覆われてるか、草木の育つ環境じゃない気がするんだよな。
とは言え、タネは何となく分る。
と言うのも、戦闘用の装備で雪山装備を外しているのに森内がそんなに寒いと感じない。
頭領から火の鳥がいるって話は聞いてる訳だし、自ずと導かれる答えは一つ。
火の鳥が住んでいるおかげで温かい、そして植物も育つ環境になったと、
酸素濃度とか気圧の事は分からん。
ファンタジーの火の鳥的な何かだよ!
しかし、そうなると問題は別にある。
ここの主が火の鳥だとしたら、草とは言え勝手に引き抜いて持って帰って、怒られないかという事。
火の鳥がただの魔物なら戦ってもいいけど、一柱な感じの霊鳥とかだったら?
指名手配になるどころじゃない厄介な予感しかしない。
理屈だの法律だの忖度だの通じない相手、世界を守る一柱に弱肉強食の理を突きつけられた場合・・・。
あの世にボン・ボヤージュってな!
ここは慎重に交渉に臨む所存だ。
こちらが欲しい物は霊薬草。
相手の要求をちゃんと聞こうじゃないか、ギブアンドテイクで何とかなるなら、それが一番。
変に硬くならないように気をつけながら森を進む。
相手にこちらの存在をアピールしつつも、失礼にならないような、それ位の気配の出し方。
例えば、取引先にお茶だしする時、自分の生まれ持ったステルス能力を使ってさり気無く出すと、
いつの間にか置いてあったお茶を取引先が、こぼしてしまう確率が10%位ある。
だから、話の邪魔にならない最低限の気配を発しながら、お茶出しをする自分の気配コントロール現実スキル!
しょーもない。自分の気配を消すスキルなんてカラオケの順番をさり気無くスルーする時くらいにしか使えない。
まあ、急に襲い掛かってきたら、誰であろうが斬る。普通に話しかけてくるなら、交渉する以上。
徐々に雪の量が減り、温かくなってきた。
森の奥には大岩が鎮座し、その上には金色と言って差し支えない光を放つ大鳥。
『やあ、なんか君のような姿をしたヒトを見るのは久しぶりな気がするね。ちょっと前までは、世界樹と共にあるヒトが良く訪れていたんだけど』
「どうも、はじめまして。この森に訪れるのは初めてなので、失礼があったらすみません」
『ん?そんなに硬くならなくていいよ?別にルールなんて物も無いし、好きにしたらいい。誰だってそうだろ?気に入らない物があれば、壊す事が出来るものを持ってる。僕にとってはそれがこの森ってだけ』
あ~ヤバイ相手だ。ナチュラルに力が有り余ってて、誰にも屈しない、気に入らなければ消すのみ。
だからと言って、他者を従えようとかそう言う欲もない。
どうにか、欲を引き出せない物かな?
「そうですか、一応自分は依頼で〔霊薬草〕を探しに来たんですが、分けてもらえませんか?」
『いいよ。僕の岩の周りにある花を摘まなければ、好きにしなよ。そこらの木も草も勝手に生えただけだから』
「ああ、その花って大事な物なんですか?」
『ん~、この花も勝手に生えただけなんだけどね、でも気に入ってるのは間違いないかな。君のその腰に差してる金属もなんか素敵だね』
・・・、無駄話してたら、自分の持ち物にも興味持たれちゃったっぽい。慎重になりすぎたか?
「腰っていうとこの兜割ですかね?一応【森国】の初代王から貰った大事な物なんですけど」
『そっか、大事な物か。奪うのは趣味じゃないんだけど、何かと交換しない?』
・・・待ってました~。って言うのも自分の<分析>で、火の鳥の花が〔霊薬草〕って出てるのよ。
「じゃあ、その花と交換しませんか?」
『いいけど、大事な物じゃ困るんじゃないの?花は沢山あるからちょっと位なら全然構わないけど・・・、その腰の金属を大事にする理由って何?』
「いや、貰った物って言うのもありますけど、硬い敵を殴る時これが無いと困っちゃうんですよね」
『背中の金属じゃ駄目なの?もし、君にその気があるなら、背中の金属に僕の力を分けてあげようか?相当乱暴に扱ってもすぐに再生する力』
「復活の力ですか?一応自分達ヒトには割りと厄介な禁忌なんですけど」
『違うよ、再生の力。あっという間に修復される力さ』
「なるほど、ただ、兜割は硬くて同じように硬い物を叩くのに適してるので」
『硬いのか~なるほどね~じゃあ、僕の友達の霊亀を紹介してあげるから、背中の金属を硬くしてもらうといいよ』
なるほど、何でか分らないけど、もう兜割欲しくてたまらないのか、この火の鳥。
腹をくくるか、当分固い敵と戦うのに不便するけど、渡すしか無さそうだ。
「分りました。兜割を置いていきましょう。ちなみにこのくっついてる石も置いていったほうがいいですか?」
『ん?その緑の石はくっついてる物じゃなかったんだ?全部一緒で美しいなと思ったんだけど・・・』
鞘ごと、まとめて置いていく。大岩の前に横にして供える。
「この花貰っていきます」
<採集>して〔霊薬草〕をいくらか摘んで鞄にしまう。
『ふふ・・・その意気や良し・・・』
そう言うと、大空に飛びあがった火の鳥が、太陽のような丸い後光を背負い、
光り輝く。
神々しい姿に思わず、崇めそうになる。
火の鳥から発した光の燐紛が、背中の〔雪竜舌蘭〕に吸い込まれる。
「ありがとうございます」
『うん、こちらこそ!陽精を奉る国の貴重な装備をありがとう。一応、その剣を使う限り、君も生命力の自然回復速度が上昇するからね。あと霊亀はこの山の麓の高原地帯をうろうろしてるから』
うーん、完璧に相手の手のひらの上だけど、こちらに一方的に損させる様な酷い相手じゃ無い、仕方なしだな。




