329.賢樹様
ログアウトすると一気に酔いが冷める。
こういうのなんて言うんだろうな。
勿論酔いがゲーム内の状態異常から来てるって事は分かってるんだけど、
虚しくなるというか、寂しくなるというか、静かな虚無感に一杯だけ飲もうかと思わなくも無い。
しかし、自分の勤めている会社は夏場は灼熱。
水を受け付けなくなるまで、飲み。全身雨に打たれた様にずぶ濡れで仕事をする。
水を飲みたくないが、ちょっとでも躊躇すれば、頭痛と吐き気に襲われるのは分ってる。
常に軽い脱水状態で一日を乗り越えて飲む酒は・・・最悪だ。
一瞬で酔いが回り、体が水を寄越せとゲームの状態異常なんかとは比較にならない不快感で、眠れぬまま、
翌日の仕事となる。
何も気にせずにお酒を飲めるゲームの環境は本当に、ありがたい。
お酒飲んで、頼まれた仕事をこなして、のんびり過ごせれば、本当にこの上なく幸せだよな。
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さて、今日も一日を生き延びて再ログイン。
今日は賢樹様に会える日か。
何故か手元にあるチップの色が、違う気がする?
黒地に金と銀、裏面が真珠の内側みたいな虹色の螺鈿?みたいになってる。
まあ、ちゃんと見なかったから、もしかしたら最初からこんな色だったかもしれない。
とりあえず、チップを持って降りれば、ロビーにはヒトがちらほら、のんびり過ごしている。
いっぺんに全員で移動ではなく、館から続くオアシスに架かる橋を何組かづつ歩いて、奥の賢樹様に会いに行くらしい。
それぞれのタイミングで会いに行き、終わればもう少し館で過ごしてもいいし、さっさと帰ってもいいしって事みたいだ。
どうしたもんかね~。
自分はこれと言って賢樹様に用も無いのだが、ロビーでぼーっとしていると、声を掛けられたので、館の裏から出て橋を進む。
この両側には肉食魚がうじゃうじゃいるんだよな~と思いつつ。
しかし橋の上は平和そのもの、
正面には大きすぎるほど大きな大樹、周りは見渡す限りのオアシス。
橋と館しか人工物が見えない。
太陽を反射して輝くオアシスがどこまでも続く、一人歩き続け、ようやっと辿り着く陸地にほっとする。
視界が木の幹で埋まるほどにデカイ木を見上げてると。
『初めてみるね?ニューターかい?』
涼やかで、とても若そうな女性の声が聞こえるが、賢樹様感は無いかな~
「ええ、そうです。はじめまして」
『うん、はじめまして、君も私に何か聞きたいことがあるのかい?』
「いや【森国】の知り合いを手伝っていたら、流れで来る事になりまして」
『そうかそうか!私は賑やかなのが好きだし、別に用が無くても会いに来てよ。最近はあまり話しにくる者が少なくてな~。ちょっと前までは恋愛相談なんかも、よくあったんだけどな~』
ん~これは会いに来るヒト制限されてる事、伝えない方がいいのかな?ここの領主なりに考えて、そうしたんだろうし。
「そう言えば、聞きたい事ありました。12英雄の事なんですけど」
『あ~聞いた事ある~。幻の街に住む子孫が今でもよく来るね~。邪神の化身と戦って封印したんだよね~。ヒト達は弱くとも勇敢に戦ってて偉いよね~』
「え?封印?」
『そうだよ?確か邪神といい戦いは出来たらしいんだけど、倒しきる切り札が足りなくて、最終的に生き残った英雄達が12に分けた核を一個づつ預かったんだよ。邪神を動かなくなるまで弱らせたから、神が封印して核一つに付き一個の願いを叶える事にしたんだってね』
・・・なんか、そんな気がしてた。
聖石に選ばれたヒトが現れると邪神の化身が現れるって、復活するって事じゃん!
しかも、聖石の効果が微妙だな~って思ってたけど、要は勝利した報酬じゃないから、それなりの願いしか叶わないんじゃないの?コレ。
そうだよ!確か、新たなフィールドとかが、広がるはずだもんな。邪神に勝てば!
負けると、行けてた場所に行けなくなるとか、そんな話だった気がする。
「は~なるほど。お話できて、良かったです」
『そう?でも君は宝樹様達の力を感じるし、邪神の化身が現れても、倒せそうだね。がんばって』
「え?宝樹様知ってるんですか?っていうか、倒せるって?」
『宝樹様の事は流石に知ってるよ?私よりも遥かに長きを生きる世界を支える一柱だし、しかし12英雄の時代はまだ根を加工して宝剣を作れなかったんじゃなったかな?』
「そうだったんですか、色々教えてくれてありがとうございます」
そこで、話は終わった。
まあ、次のヒトも来るし、ここらでお暇だ。
館に戻ると三羽烏も待っていてくれた。
既に賢樹様に会ってきたそうな。
「よう!世話になったな!」
「一先ず、任務クリアできたみたいで、良かったよ。このまま世界一周でしょ?がんばってね」
「ああ、何かあったら玄蕃も遠慮せずに言えよ」
そうして、皆で館を出ようとしたところで、半蔵が余計な事を
「玄蕃賭けていかないのか?」
「いいよ。半蔵探すのにどれだけ、だらだらやらされたと思ってるんだよ」
「ルーレットとかなら一瞬だぞ?」
館が賭場になってるので、全く賭けない自分に対する視線が痛い。
いや、あからさまに責めるような目をするヒトはいないが、興味津々で見られてる。気がする。
「はぁ・・・分ったよ」
ルーレットの台に近づくと周りを囲まれる。
物理的にではなく、精神的に脱出できない。
「ルールは?」
「数字か色か列にチップを賭けるだけ。簡単だろ?」
じゃあ、ぱっと見て、何となく緑の0の所が気になったので、そこにチップを置く。
「え?0一択?普通赤とか黒で様子見るんだけど、もしくは複数賭けとか」
「一枚しかチップ持って無いもん、仕方ないじゃん」
そんな話しをしているうちに、ルーレット上を玉が回り、
数字の上を何度か弾かれる。
そして、普通に0の所に入って、そのまま回るルーレット。
これで、どうなるの?
なんか皆反応しないんだけど、コレどうなるのよ?
ディーラーのヒトが動き出し、同じチップを36枚貰った。
まあ、義理で一回賭けただけだし、帰りますか。
そのままチップを持って出口に向かい、お金に換えてもらうと。
「いくらかは白金貨で宜しいですか?」
白金貨?鞄にはお金だけはいくらでも入るので、あまり気にしてなかったな。
例の世界一周任務の時以来、お金は鞄に突っ込みっぱなしだしさ。盗難防止付きの鞄だし。
「適当にお任せします」
そう言うと、お金に変えてくれたが、なんか凄い増えてない???
そして、表に出ると同時に、貰ったばかりのネックレスが壊れて光の粒子に変わった。
幸運の首飾りって話だったし、運を使い切っちゃたのかな?