327.半蔵かっこつけすぎ
小太郎までは割りとすんなり話がついて助かったが、問題は半蔵。
何日か都の賭場を巡って情報を集めてるが、中々捕まらない。
と言うのも、賭場に行って話を聞こうと思うと、勝負を吹っ掛けられる。
情報料は払うって言ってるのに、まず席につけって、そういう話。
自分はポーカーのルールを何とか知ってる程度で、しかも手短に済ませたいのに勝ったり負けたり、ずるずるずるずると終わらない。
終いには何か欲しいカードを山の下に入れて、配る時に欲しいカードだけ下から出すアホがいて、
下から一枚抜こうとしている途中で手を掴み、
握りつぶされるか、素直に知ってることを話すか迫ったら、スラスラと話が進み始める。
ちなみに半蔵はそいつの指を圧し折ったらしい。
気の短い奴だ。何て猟奇的なんでしょう。忍者だし慈悲のかけらも無いのかもしれない。
次の店に行けば、今度は後ろから覗き込んで、中身を教えるアホ。
<威圧>で、びびらせたら、あっさり情報を吐いたが、
ちなみに半蔵はその二人の鼻を圧し折ったらしい。
可哀想とか痛いだろうな?とかそういう想像力が働かないのはサイコパスなのかもしれない。
次の店はもっとアホ、自分が席に着いた瞬間ディーラーが変わり、席に着いていた連中が軒並み遠巻きで眺め始め、ニヤニヤしてる。
明らかにディーラーがグルじゃん。
あえて、カードの中身も何も見ずに金貨を1000枚積み、
「勝ったら全部やるよ。もし自分に負けたらお前の持ってる金が10枚不足する毎に指を一本貰う。指が足りなくなったら目玉、鼻、舌・・・それでも足りないなら・・・ふふ」
それでも淡々とカードを配るディーラーに、
「随分冷静ですね。コレから何も見えないし味わえなくなる体になるのに」
そう言うと、まさかディーラーの事だと思わなかったのか、カードをバラバラと取り落とす。
そこで、ボディガードを引き連れた支配人風が来たので、
「まあ、10人で、60秒か・・・多めに見ても」
これだけで、こちらの意図を察した支配人が、謝りながら金貨1000枚持って来た。
「んな物いらないから情報を寄越せ」
そう言うと、愛想笑いと憐れみ請うような顔を混ぜてペラペラと話し始める。
どうやらそのディーラーは半蔵に前歯を全部圧し折られたそうだ。
相手の将来のことを考えないとか、後に残る怪我を負わせるなんて、最早他者は全て敵なのかもしれない。狂犬というやつだ。
後店ぐるみとか面倒くさすぎるので、
「自分の金貨1000枚は置いていくから、雲が一回太陽を隠すたびに一割なんで!」
そう言って店を出たら、ガチ泣きで金貨5000枚渡された。
本当に面倒臭いので、自分の1000枚だけ回収して、立ち去ったら、その場に支配人が崩れ落ちていた。
そんなこんな行く先々で面倒臭い目に合い、そして半蔵の情けも容赦も無い所業を聞いてまわる事になる。
そうして、やっとまともそうな店に辿り着き、奥でポーカーに興じてるという半蔵に会いにいったら、あいつ・・・、
めっちゃ格好いい服着てるんだけど!
行く先々で悪魔のような所業をしながら巻き上げたお金で格好いい服買うって、何考えてるんだこいつ?
「おい、半蔵。遊んでないで、誰かお偉いさんとのコネクションは出来たのかよ?」
とりあえず、声をかけた瞬間、咳が止まらなくなる半蔵。
喘息持ちかなんかか?それでも好きなタバコをゲームで吸ってるとか?
ゲームの中で効果があるのか分からないが、背中をさすってやる。
少しして落ち着いた半蔵が、
「降りる。このゲーム」
というので、本来の目的を思い出したんだろう。さっさとこんな店出て、作戦会議と思いきや。
「おい、勝負の邪魔して何もなしかよ?」
いきなりなんだこいつ?なんか空気が散々邪魔し腐ってくれた連中に似てるんだよな。そろそろ温厚な自分も限界よ?
「は?用があったから呼んだだけで、何の話?」
「勝負の邪魔して侘びも落とし前も無しかって聞いてるんだよ?」
「何?落とし前って?」
「指の一本でも置いてけっての」
「はは!」
馬ぁ鹿馬ぁ鹿しいぃぃ!ブッコロ!
実力差も何も分からず、上から目線でにやついて、指を置いていけだ?
もうさ!笑いが止まらないんだよ!!!
そいつの頭をテーブルに固定し、首にダガーを突きつける。
超ゆっくりやってやったのに、反応すらしない。当然死ぬ覚悟はできてるんだよなぁぁぁ?
「コレからお前はYesかNoで答えろ。落とし前が必要か?」
「い、いや」
「そうか、YesかNoで答えろって言ったのに、逆らうって事はお前の首をこの場に置いてけばいいって事だな?」
そこで、横から雇い主らしきヒトが割り込んでくる。
「待ってくれ、うちの者が失礼をした」
「良かったな。お前の親はお前の不始末のけつを拭いてくれるってよ。まじで死ぬまで恩を返せよ?」
今までの小物とは明らかに違う雰囲気に流石に自分もダガーをしまう。
「すまないな。そちらが店に入り、真っ直ぐこの台に寄り声を掛ける所まで見ていた。つまり戦況も何も確認していない。ただ用事があった事は明白だ。しかし勝負の最中だった事は分っていただけるだろう」
ん~まあ、確かに勝負の最中に声を掛けたのは確かだな。謝れってなら謝るが、
「まあ、確かに自分も急いでたし、状況見ずに声を掛けたのは悪かったよ」
「そう言ってくれるなら、お互い水に流そう。ところで、急ぎの用とはなんだね?力になれることなら、力になろうじゃないか、うちの者の不始末もあることだし」
「こっちの半蔵は【森国】の木精様の依頼で、賢樹様に会わなくちゃいけないんだ」
「ふむ、私の護衛枠が一つ空いている。精霊様の依頼とあらば、協力したいのは山々だが・・・」
面倒臭いこと言ってくるパターンだぞこれ。
「だが?」
「勝負しないか?一つは勝負がうやむやな事で、周りの目が痛い。もう一つはこんな都だ。何が物事を決めるのか、武力か?否。そうしないと私のメンツの問題にもなる」
「ふぅぅ・・・分った。でも時間かかるやつは断る。それで散々足止めくらって、逆にこっちはイライラが爆発するギリギリだ」
「分った。ダイスの一発勝負で決めようじゃないか?」
「サイコロ?」
「そうだ。3個投げて合計数が高い方が勝ち、3個、目が揃うなら役がある」
「分った」
そう言って、金貨10000枚出す。
「どういうことだ?」
「そっちは貴重な護衛枠、こっちは金貨10000枚、文句ある?」
「はは!いいな!話が分る!少々暴力的で苦手なタイプと思ったが、中々にぶっとんでる!あえて名は聞かない。その制服の特殊性が分る程度には世間を知っているつもりだ。では私から!」
そして、無造作に赤いサイコロを三つ空中に投げ、テーブルに落下する。
回転も何も掛けず、ただ高くサイコロを投げ上げ、弾むに任せる姿から完全に運任せだ。
そして、出た目は、5・6・6
「うわ~、ほぼ最強目じゃん」
そう言いながら、自分はその男が並べたダイスの中から、白いダイスを3個掴み、その男同様に空中に放り投げる。
出た目は4・5・6
負けた~~。まあ、仕方ない。半蔵と一からがんばりますか。
「ふっシゴロですか、倍付けですね」
そう言って、金貨10000枚足して、全部で20000枚渡される。
「え?」
「玄蕃・・・シゴロは役だ」
連番も役なのかよ!
首飾りの牙が一本、音をたてて砕ける。