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326.博徒

 世界観から明らかに浮いた真っ黒な三つ揃え。


 染めが明らかに単色ではない深みのある黒、目元を隠す長めの前髪も漆黒。


 手にはまるで死に出の衣装を携えるかのようなスーツケースを一つ。


 こげ茶の紙に包んだタバコを咥え、紫煙に嘘と本音を織り交ぜ、周りのヒトを混乱させる。


 最初の低レート店は、それに見合った杜撰なイカサマもどきが横行する最低の店だった。


 イカサマをする奴がいる度に指を圧し折り、金を巻き上げ徐々に高レート店へと移動。


 最初こそNPCに攻撃する事を躊躇ったが、反則には罰則を・・・過剰な攻撃でなければ、認められた。


 流石にドレスコードのあるこの店で、そんな事は出来ないし、そもそも起こらない。


 勝つことも負けることもあるが、それらは博徒のプライドの上に成り立っている以上、


 イカサマを疑い一瞬の隙を見せる事こそが、文字通り命取りになるそんな世界。


 運に波はつき物と言う奴はいるし、波という物を感じる事はある。


 しかし、常に観察する事をやめず、氷点下の如く冷え切った感情で、絶対に確実な確率を追えば、例え波が来ずとも、


 勝つ事はなくとも負けることもない。


 それが俺の信条だ。


 そして、時折来る波にうまく乗れれば、一気に勝ちが乗る。


 それでも、調子に乗らず、何も言わず、何も聞かず、どんな罵倒も聞き流す。


 そんな鉄壁の精神力で勝ち逃げれば、徐々に勝ちは積みあがる。


 いつからかディーラー相手のゲームは終わりを告げ、AIとの本気の勝負。


 全く顔色一つ変えず、淡々とカードを替えライズを積み重ねる相手。


 時に勝ち、時に降りる。


 絶好の機会に浮かされて釣られるような事だけはしない。


 仕掛け時に引っかけるからこその勝ち。


 相手のAIが、全ての状況を知った上での演出なのか、


 はたまた、独立したAIがあくまで演算でこの勝負をどう戦うのか考えているのか、


 それとも過去の博打の情報を分析し、その結果をフィードバックしているだけなのか、


 それは俺にも分らない。


 時折クセのような物も見つけるが、それこそが罠。次の瞬間には全く別人に入れ替わっているようなそんな空気すら感じる。


 しかし、例え相手が誰だろうが、こうして対面に座り全身全霊で俺を引っかけようとしてくるなら、


 全力で応えるのが俺の流儀であり美学。


 そして、巡ってきたのはフォーカード。


 このゲーム妙にリアリティがあり、こういう喜ばせるようなカード巡りは滅多にこない。


 完全な確率演算に基づいてるのだろうという、地味さ。


 勝負時と見て、ライズ。


 相手は2枚替え平然とライズで応える。


 これまでの感じからありうるのは、フラッシュか大きくてフルハウス?


 しかし、波は完全に引き寄せていると言う自覚がある。


 もう一度ライズで応える。


 ここで、降りるか??と思いきや、さらに相手もライズ。


 紫煙を吐き出しながら、一緒に息も吐き出す。


 一旦肺の中の空気を入れ替えたい、異常なほどひり付く。


 先程も言った通り、デカイ手はこれでもかと言うほど来ないこのゲーム。


 勝ち確だ。


 しかし、なんだこの背に流れる冷や汗は?


 さらにライズを重ねれば、相手も静かに応じる。


 心臓の音が、いつ強制ログアウトを申し渡されてもおかしくない、そんな状況。


 「おい、半蔵。遊んでないで、誰かお偉いさんとのコネクションは出来たのかよ?」


 ・・・まじで、心臓が止まるかと思った。


 気管がつまり、変な咳が止まらない。


 「おい、大丈夫かよ」


 そう言って、俺の背をさする玄蕃。


 一気に全身の力が抜け、頭の温度が0℃になった。


 氷点下でも沸点でもない、0度。


 「降りる。このゲーム」


 支払いはでかいが、まあ十分に稼いだしな。


 すると、相手が見せてきたのはロイヤルストレートフラッシュ。


 ははっ・・・やばかったわ。


 そして、黙って玄蕃と席を離れようとすると、


 「おい、勝負の邪魔して何もなしかよ?」


 そりゃそうなるよな。侘びを入れようとすると、


 「は?用があったから呼んだだけで、何の話?」


 うん、玄蕃はこういう店に慣れてないのか?


 「勝負の邪魔して侘びも落とし前も無しかって聞いてるんだよ?」


 「何?落とし前って?」


 「指の一本でも置いてけっての」


 「はは!」


 それからは何も分らなかった。


 にこやかに玄蕃が相手に近づいたかと思ったら、相手はポーカー台に額を押し付けられ、ダガーを首に当てられている。


 「コレからお前はYesかNoで答えろ。落とし前が必要か?」


 「い、いや」


 「そうか、yesかNoで答えろって言ったのに、逆らうって事はお前の首をこの場に置いてけばいいって事だな?」


 ・・・え?玄蕃て裏社会のゴッドファーザーか何かなの?


 「待ってくれ、うちの者が失礼をした」


 そう言って、横から入ってくる如何にもな身分のあるヒト。


 「良かったな。お前の親はお前の不始末のけつを拭いてくれるってよ。まじで死ぬまで恩を返せよ?」


 震え上がり、すぐに下がった相手、あれほどのプレッシャーを感じた相手が今ではハムスターかなんかだ。


 しかし、まあ、悪いのは玄蕃ていうか・・・。


 傍若無人すぎるだろ?

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― 新着の感想 ―
[一言] 主人公サイコパス気味な所も有るけど 今回の場合は今の自分の状況が突っかかってきた相手に甘い顔してた所為で 大惨事起こされた上にその責任が無いのに全責任無理やり背負わされてるから まず相手を制…
[一言] 悪事を働いてからのごり押しっていうのじゃないのが幸いだけど、それでもその手法はさすがに荒っぽいw 突っかかってくる相手には最近容赦ないですな
[一言] 力こそ正義良い時代に…いやまて、世紀末ちゃうがな
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