325.小太郎をねじ込む
佐助を任せた後、一度ログアウトし、日を改めて残りの二人を探す。
偶然に地下闘技場の噂を聞いたので、一応確認してみる。
と言うのもお偉いさん達が自分達の護衛を戦わせて、賭け事をしているとそんな噂だ。
もし、自分なら、潜り込んで実力を見せようと思わない事もないかもしれない・・・。
殆ど無いけど、
三羽烏の立場になればそういう事もあるかもしれない。
案の定、風魔小太郎を見つけたが、なんか賞品に血眼になってる。
しかし、まあ、自分も心惹かれる宝石とかなら、がんばるかもしれないしな~。
と、見守っていた所、決勝まで残った小太郎。
やっぱり強くなったな~なんて、申し訳ないけど二度勝った手前ちょっと上から目線で心の中で思ったりもした。
見てると基本戦術は相手から姿を消して、不意打ちと急所攻撃。
これのダメージ量が中々馬鹿に出来ない。
多分そう言った条件でダメージ量を増していくスキルの組み立てなんだろう。
しかし、決勝の相手には通じない。まるで攻撃を読まれているようだ。
とは言え、それは自分も出来る。
しかし、それはスキルやアビリティの組み合わせのおかげ、殺気は自分に対して攻撃意思のある相手が分る。その方向も。
予測のおかげで攻撃の軌道も分る。しかしこれ単体なら視界の範囲内、認識してる相手のみだ。
殺気と予測を組み合わせて不意打ちに備えている。
さらに空間把握と範囲拡大もくっついている事で、相応の範囲の死角すら網羅している。
クラススキルでこそないが、自分にとっての最重要スキルそれが<防衛域>
ここまでのスキルがあればこそ、小太郎の不意打ちすら対応できるのだ。
まあ、その他は装備用とか指揮用とか生命力精神力耐性用とか外出歩く用とかこれでもかって程、普通の汎用スキルばかりなんだけど・・・そんなだから攻撃力が足りないんだよな。
まあ、いい、一旦置いておいて、
勿論小太郎の相手が相応のスキルを持っていたとしてもおかしくは無い。
しかし、不意打ちにうるさい自分だからこそ、この相手の動きのおかしさが分る。
なんていうかワンテンポ動き出すのが遅いのだ。
動き自体じゃなく、動き出しが遅い。普通危ないと思えば、まず体が動く、もしくは固まる。
危ないと思うタイミングが明らかに遅い、しかし小太郎の動きは読んでるってのは腑に落ちない。
故に自分は言う。
「まあ、異議ありかな」
睨み付けてくる小太郎の相手。
「その探知能力か<察知>スキルか分からないけど、本当にあんたの力?」
さらに殺気の篭った視線で射抜いてくるが、怖くもなんともない。
みえみえの殺気に自分が今更びびると思うか?
何も言わず、腕のダガーを抜き相手の首に当てる。
後3mmって所か皮膚を突き破って、出血デバフを発生させるまでの距離は。
そこで、ようやっと顔が青ざめ彼我の戦闘力差を理解したらしい相手。
しかし、探知能力があるなら、対応出来ないまでも、顔を背けるなりあるだろ?
「(おい!今の見えたか?)」
「(見えてはいた!でも、あまりにも動きに無駄がなさ過ぎて、どこからが攻撃か分らなかった)」
「(いや、なんだ、なんて表現すればいいんだ?ダガーが勝手に吸い込まれていったようにしか見えなかった)」
「(見ろよ・・・【帝国】の【上級士官】の制服だぞ。ちょっと話を聞いた方がいい。素人が見て分る範疇を越えてる)」
なんかざわついてる・・・試合終わったばかりの相手にダガー突きつけるのは流石にマナー違反か。
すぐにダガーをしまい、距離をあけて立つ。
「別にだんまりならそれでもいいけど、今度こそ本当に体に聞くよ?」
そこにリング外から鈴のなるような綺麗な女性の声が、割り込んできた。
「それ位にしましょう。その者は我が家に代々仕える従者です。私が代わりに答えましょう」
ソヘイラ様だ。いつも露出の高い服だが、今回は意匠の違う洋風ドレスだ。
洋風って言っても、アメリカンなレッドカーペットとか歩いてそうなあれ。
「・・・ソヘイラ様が、問題ないって言うなら自分じゃ対抗出来ないんで、降りますわ」
「ふふ、そんな事ないでしょうに。身体能力の伸びの速さはニューターには到底及びません。後は経験の差だけですが、良き師に巡りあったようですし、なんなら以前の分りやすさが見えなくなって、私も相応に覚悟が必要なレベルと見ましたわ」
「いや、無理でしょ。他人に教えられるレベルのヒトにはまだまだ敵わないですよ。でも、もしこの違和感を説明してくれるならありがたいですけど」
「そうですね、彼の装備に振り子の様なものがあるでしょ?」
確かに左手に鎖から垂れた四角錐に切り出された水晶。
ずっと気になってた!透き通って全く気泡も異物感もない、ただ純粋に美しさを感じるそれは現実ならブラジル水晶に近いものだろう。
「それは、精神力を込めると周囲の魔物やヒトを探知できる物です。それこそ潜伏しているものですらね。砂漠には砂に隠れる魔物も少なくないのはご存知かと、それで私が貸し出したのです。それ故本人の力というには、簡単に返事できなかったのです」
「じゃあ、ルール的には、全く問題ないのか・・・すんませんした!!!」
うん、勝手な勘違いで水を差したんだ、ちゃんと謝っておこう。
「ふふ、いいのです。そちらの方も中々の腕前でしたわ。この忍刀が目的でしたの?」
「はい!それさえあれば・・・」
「あ”あ”ん?こ~た~ろ~?」
「いや、あの賢樹様に会いに行きたくて!」
「あら?ああ【森国】の・・・そう言う事ですのね。ではまだ私の護衛の枠がありますので、ご一緒にどうぞ。もしこちらの忍刀が必要なら、また別のお仕事をお願いしますわ」
う~っし棚ぼた?いや、小太郎がちゃんと実力を見せたからか!なんとかなって、良かったわ~。
「ところで、そのダガーの扱いはどなたに習ったんですの?」
「軍務尚書ですけど?」
「(ぐ、軍務尚書!おいおいおい伝説の・・・)」
「(一線を退いて、政治に専念していると聞くが、未だに死神紳士と言えば、後暗い者程恐れる名前)」
「(どれだけ証拠を揃え、うまい事官憲の手を逃れても、やましい事があれば、とことん追い詰められる)」
「(普段から穏やかで静かな空気、しかし、もし、陽の元に出られぬ様な事をなして、尚恥じずに他人に迷惑をかければ、最後に見るのは紳士の微笑み)」
「(ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい・・・今は反省してるんです本当です)」
「(【帝国】【上級士官】で死神紳士の弟子か、なんでこんな所に・・・)」
なんかまたざわついてるんだけど、やっぱりソヘイラ様は【砂国】じゃ有名だろうしな~。