324.小太郎
三人の中で接近戦が、一番うまいのは俺だろう。
まず佐助に関しては接近戦が苦手な事がすぐに分った。
術ばかり練習して変わり身の術だとか分身の術だとか言って遊んでいたが、実戦では役に立たないという事を玄蕃から嫌と言うほど思い知らされた俺達は真面目に【訓練】をし直した。
佐助は接近戦は苦手だが遠い間合いから全体を見るのに長けていて、ゆくゆくは司令塔になってくれるだろうと思ってる。
今は手裏剣を使った遠間からの攻撃による妨害を中心に立ち回っているが、テイムした猿をもっと育てて前衛を任せられるようになれば、もっと妨害術を使いこなせるようになれれば、もっと強くなるはず。
今までの俺達とは一番違った方向性に向かい、本当に一からやり直した佐助は自身が足を引っ張ってると思いがちだけど、本当は一番損をして俺たちを支えてくれてるのだ。
だからこそ俺達の司令塔になって欲しい。
次に凄く器用な半蔵。
オールラウンダーとはあいつの事だろう。
結果的に鎖鎌なんて言う一番忍びっぽいトリッキーな武器に落ち着いたが、遠近こなすあいつには結局はまった。
鎖鎌、忍刀、手裏剣、毒霧とゴリゴリの忍具使い!くそ!格好いいな~もう!
今では相手の注意を引き、ガンガン正面戦闘で戦う。
程よく間合いを取り、分銅でダメージを蓄積させ詰められれば鎌で対応、なんなら鎖で動きを封じてからの忍刀に持ち替えなんてのもこなすし、不意打ちの毒霧は凶悪そのものだろ。
それでも、接近戦では俺の方が強い。
それは二人も認めてくれている。
逆に言うと接近戦しか俺のとりえが無かったとも言える。
接近戦と言っても基本は隠蔽でタゲはずし、潜伏からの奇襲だ。
それらの相手に認知されて無い状態からの攻撃によるダメージ補正。
奇襲&急所!一撃のダメージ量を積んでいく。
破られた事は・・・玄蕃に尽く外されたからな~。
それでも、俺にはそれしかない。今もスキルを合成して、育て、不意打ちからの必殺を目指している。
そして忘れちゃいけないのが、精霊術。折角取ったが、使い道がなくなってしまった。
俺が採ったのは火精術。最初は火遁とか格好いいだろうと思ったが、忍にとっては目立ってしょうがない。
だが、火精術の特徴はそのダメージ量!近接戦闘で一撃のダメージを乗せて行きたい俺には好都合。
忍刀に火精を乗せていく。
そして、長々とこんな回想をしたのは他でもない。
今俺の目の前にある〔忍刀血牡丹〕
赤く光る刀身が、濡れたように鈍く光る。
火精の宿る忍刀・・・。これでまた一つ俺は強くなれる!
いざ!
ここは賭博の都の地下闘技場。そこの賞品に俺の求めるものがある。
絶対に勝ってみせる!どんな敵が来ようとも、俺達三羽烏を止められるのは頭領と玄蕃だけだ!
「何やってんの?小太郎」
「え?いや・・・見てくれ!あの忍刀!あれがあれば、俺はまた一段階上に行けるんだ!」
「あのさ・・・佐助はもう賢樹様に会うためにお偉いさんと話をつけたよ?」
「あ・・・!」
「目的忘れて、欲しい武器に血眼になっちゃったんだ?」
「ま、まあ玄蕃そんな怖い顔するなよ!お前だって、これだけは!って事あるだろ?俺にとっては今がその時なんだよ」
「はぁぁぁ・・・まあ、仕方ないか、応援するからがんばれよ」
「おう!任せておけ!」
そう、玄蕃に宣言し、決勝。
これに勝てば、あの忍刀が手に入る。
なんでもここ何日かはお偉いさん達が集まっている為、お互いの護衛をこの地下闘技場で戦わせて、マウントを取り合っているとか何とか・・・。
つまりだ!ここの護衛共を全員倒せば俺にもお声がかかるんじゃないかっていう寸法だ!
これぞ!欲しい武器を手に入れて、目的もこなす一石二鳥の策!
目の前に立つのはいかにも【砂国】の戦士。
全身を白い・・・白い・・・なんていう服なんだろあれ?
ローブと着物をくっつけたような服が褐色の肌を包みなんともエキゾチックだ。
手に持つのは幅広の曲刀。宝刀と言ってもいいのだろうか?しかし玄蕃が前に持ってたのはガチの宝剣だったしな~。
それと比べると、とにかくよく切れそうな来歴ありそうな曲刀ってとこか。
はじまりのゴングと同時に動き出す相手の男、そして舞を舞うような美しい回転と共に曲刀で襲い掛かってくる。
すぐに、隠蔽でタゲを外し、そのまま潜伏。
狭いリング内ですら、一瞬俺の姿を気配を見失い困惑するだろう。
そこを後ろから忍刀で突けば、ただの砂の塊に変わる男。
すぐに変わり身の術かと気づき、辺りを警戒する。
一瞬影が落ちたと感じた瞬間には転がって避けていた。玄蕃と戦って以来、ステップで紙一重避ける場合と転がって大きく間合いを取る場合とを分ける様になった。
今回は後者、何があるか分からない攻撃には大きく間合いを取る。
そして再び、身を隠す。
からの真下からの切り上げをさり気無くかわされ、逆に曲刀のなぎ払い。
一撃貰いながらも力に逆らわず吹き飛び、リング端で相手を見据え、
「分身の術」
最近は使わなかった術だ。動かない案山子を俺に見せるだけの術は案山子を戦闘フィールドに出して置けるというメリットがある。
つまり、いざと言う時、身代わりに出来るのだ。
さらに入れ替わり位置からの奇襲すら可能だ。
しかも、今は俺自身を見失っているはず!今度こそ奇襲を成功させようと攻撃した所に、カウンターを合わされた。
今度はクリーンヒットそれもカウンターが入り、思いっきり生命力が削られる。
まじかよ~。探知能力が滅茶苦茶高い相手かよ~。
しかし、最後まで諦められない。
もう奇襲は捨て、忍刀で正面から攻撃を仕掛け、相手の舞うような刀捌きに生命力の一ドットが削りきられるまで、対抗した。
結局俺は倒れ、リング外で復活した。
勝者として、リング中央に立つ男は何となく憮然とした表情。なんならその目は少し荒んで見える。
そして、
「まあ、異議ありかな」
そう言って、リングに上がっていく玄蕃。