323.佐助完了
「はあぁぁぁ・・・」
「なんだよあからさまにため息ついて、もっと不景気になるぞ」
「いや、玄蕃が一瞬で俺達の集めた情報手に入れるからさ」
「え?何のことだよ」
「いや、俺達も最初は三人で情報を集めてた訳よ。それでさ、年に一度お偉いさんたちが賢樹様に会いに行く行事にもぐりこもうって話になったわけ」
「ほーん、やっぱり人数絞る為にお偉いさんしか入れないのか」
「そういう事、でもお偉いさんじゃなくても、この地に住む代表者たちは会いたいわけじゃん?」
「そう言うしきたりなら、そうだろうね」
「例えば、お偉いさんでは無いけど昔からいる100人ぐらいのキャラバンの長とかさ、そう言うヒトは昔からコネのあるお偉いさんの護衛としてついて行くって訳だ」
「なるほどね、何事にも抜け道が有ると、でも忍者なんだから正面から忍び込めば?」
「無理だね、賢樹様はオアシスに囲まれた土地にはえてるし、透明度の高いオアシスは潜っててもばれる」
「夜行けばいいじゃん」
「しかもそのオアシスには大量の肉食魚が住んでて、一瞬で骨になるのさ」
「急いでコネクション作ろうか」
「それでだ、さっきのカジノの賞品を手に入れたら、連れて行ってくれるていうお金持ちがいてな」
「見事に素寒貧か」
「そういう事」
「そのお金持ちの素性は調べたのか?金持ちなのに賞品が欲しいってのはどういう事情だ?」
「いや、そう言えば調べてないけど、中に入る招待状は持ってたから、つい話しに乗っちまった」
うさんくせー!でも招待状を持ってるって事は一応お偉いさんか、招待された人間なんだろうしな。
とりあえず、巻き上げられたカジノに二人で向かう。
見た感じ、そこまでVIPなお店では無いようだ・・・そうじゃなきゃあからさまに忍者の佐助が入れる訳無いか・・・今更ながらこいつなんで、変装してないんだ?
「あの奥にいる男だ」
こんな店でも一応はあるVIP席に座る一人の男、派手な装いが裏社会でいきった若者のようだ。両側には雇ったのであろう女が二人。
何故雇ったと分かるかと言うと、服装とか呼吸とかがばらばらだから、現地のエスコート係かね。
VIP待遇が悪いわけじゃない、自分の金ならな。
もし、ヒトから巻き上げて悪徳働いているようなら・・・思わず口端が釣りあがるのを感じつつ、とめられない。
「おっ尻尾を巻いて逃げ出した【森国】の【隠密】じゃないか、なんだ友達でも連れてきたか?」
何も言い返せない佐助、仕方ないので自分から話す。
「はじめまして、何でも賢樹様に会える身分だとか?」
「ああ、そうだな。この通り招待状もある」
招待状を見せびらかすが、本物かどうかよく分からない。でもまあ、この街で偽物見せびらかしてたら、流石にまずいか。
「これはどうも、自分も賢樹様に会いたいとは思っているのですが、コネクションが無くて・・・しかし、あなたはこのカジノの景品くらいなら簡単に手に入りそうな身分に見えますが?」
「ふん、別に手に入らない訳じゃない。ただの暇つぶしだ。親父の名代でしきたりに従って来たものの、生憎賭け事何ぞ興味は無い。たまたまここの景品に〔氷結酒〕とか言う珍しい酒があったから、手に入れた奴に賞金を出すっていっただけだ」
「で、ここの佐助が、賢樹様に会わせてくれるなら手に入れるとのたまったと」
「そう言うこった。別に追い詰める気も何も無いし、金が無いなら帰ればいい」
どうやら悪人ではなかったようだ。しきたりに従って賢樹様に会えればそれでいいものの、この都の浮ついた空気が気に入らないと、だから暇つぶしでもしようかとその程度の話らしい。
まあ、ダガーを抜かなくて済みそうな話だし、ちょっと位話しに乗ってみるかね。
「単純に〔氷結酒〕が欲しいだけなら、出しましょうか?」
「おっ本当か?しかしな、それでその【隠密】を連れて行くってのは無しだぜ。そんなレア物の酒手に入れてくる、あんたなら話も分るだろう」
ふむ、駄目か。でも機嫌は良さそうだし、酒くらい上げても構わない。何とか安い条件引き出してみますか。
「じゃあ、酒は渡す。その上でこいつを連れて行ってくれる条件を出して欲しい」
「そりゃ、その酒貰っちゃな~・・・。そうだ!俺のこの格好だが、どうやら評判が悪いらしい。周りから舐められず、尚且つおかしくない服が欲しい」
「何でそんな格好にしたの?」
「いや、俺も普段は領主の息子、一応オアシスを日々守って生きてる訳よ。服装なんて汚れてもいい物着てるわけよ。だから店で薦められるまま買った」
「いや、じゃないよ。もう少しマシな店で買えばちゃんと一揃え、売ってくれるんじゃないの?」
「いや~小奇麗な店ってのは入りづらくてな~」
なんだよ、真面目な田舎のボンボンかよ。お偉いやつは嫌いだけど、こういうタイプはな~。ほっとけないか。
とはいえ、自分も服装のセンスはちょっとな~。
「自分も制服だし、小奇麗な民族衣装に装飾でもすればいいんじゃないの?」
「ああ~親父に渡されたのがあった!でもあんな地味なやつでいいのか??」
「父親の名代って事は、普段は親父さんはその格好で参加してるんじゃないの?」
「そうか、ちょっと着替えてくるからちょっと待っててくれないか?」
そういうと、店員と話し奥に引っ込むボンボン。
戻ってくると、如何にも砂漠の貴公子のような装い、さり気無く顔の左半分をターバンの端で隠す事で、ミステリアスな雰囲気を醸し出してる。
「十分!貴公子にしか見えないよ。もし金持ちをアピールしたければ、アクセサリーでも付けたら?」
「そうか?じゃあ、金の首飾りかなんか20本くらい買って・・・」
「違うっつーの!ワンポイント!会心の一撃で、周りをざわめかすか、何なら黙らせるのが、かっこよさ!O.K.?」
「ああ、わ、ワンポイントな?確かにあんたの腕に着けてる石とか、よく見ると一品だな。石自体の価値はまぁまぁでも、審美眼で選ばれ抜かれた一品っていう風格があるぜ。そうか要は俺がこれなら分るっていうのを示せばいいんだな」
「そう言う事!身分はあるし、日頃真面目に職務はこなしてるんでしょ?本来はそれだけで十分だけど、それでも見栄が必要なら一点でいいの!それでも下に見てくる奴は人を下に見ることでしか満足出来ない小物なんだから、無視するか実力で黙らせな!ここにいる佐助は十分実力はあるし、なんなら自分も紛れ込むつもりだから、力づくでいいなら、いくらでもやってやるよ」
「分った!分ったから、殺気を抑えろよ。店に迷惑になるぞ!」
うん、ちょっと熱くなってしまったようだ。
「まあ、そういう事だから、なんか地元の特産品とか無いの?」
「あ~石関連だとラピスラズリかな?」
「いいじゃん!硬度的に傷つきやすいから装飾品に向かないのは分るけど、霊験あらたかな石だよ!」
「一応お守りにこういうのを持ってるんだけど」
見せられたのは綺麗に彫られたラピスラズリ。
「鳥みたいだけど?」
「一応俺のところに伝わる光り輝く鳥を象ってて守り霊鳥的存在なんだけど」
「それだよ!地元がはっきり分って、舐めようのない霊石!小奇麗な民族衣装!これで他人を舐める奴がいたなら、こっちの佐助に任せろ!【隠密】だぞ?人知れず始末するなんてお手の物だ。どんなお偉いさんだろうが他人を舐める奴は相応の報いがある。【隠密】の本気の暗殺に対抗できる程の力があるっていうなら御手並み拝見といこうじゃないか!」
「う、うん、分ったから、殺気をしまえよ。じゃあ頼むぜ佐助」
「承知!今一時、主として仕え、舐める者を片っ端から消して見せます!どうぞ照覧あれ!」
「いや!まじ消さなくていい!!」




