320.第12機関長
「やあ、呼んだかね?」
急に白衣の男が話しに割って入ってきた。中には全身タイツ風の服。変な奴だが、油断していい相手じゃ無さそうだ。
しかし、気が付かなかったとは、少々ヒートアップしすぎたか?
「気が付かなかったのは当たり前だよ。僕が開発した潜入用装備で来たんだから」
「そんな便利な物があるなら、是非第10に譲ってもらいたいものですね」
「いや、使いきりだからコストが高すぎてね。もっと開発が進んだら、ちゃんと回すよ」
そう言って、ぼろきれを見せる。これを被ってきたのだろうか?
「そう、それでね。君がやっぱり聖石を集めていたんだね?うん、優秀だ!念のために切り札として持っておくのもいいし、交渉の札として手離れもいい。始めは指名手配をかけて持ってる分だけ回収する気だったけど、散々逃げるし、いつの間にか自分の陣営に機関長たちを引き込むし、もうね放っておけないから僕が自ら来たんだ」
「仮にも機関長、自分程度の小物相手ならやられる心配も無いって?」
「そうだね、一応備えはしているよ。君が見たこと無いような武装を色々とね。それでだ!仲良くしよう!聖石さえ渡してくれれば、僕は君の後援者となる。当然指名手配は外れるし、君は【教国】最先端の武装で身を固めた集団として世界でもきっての戦闘団になる」
敵対して頭ごなしに奪うよりも、懐柔か。やり手だな。頭ごなしに来たら切れ散らかしてSATSUGAIしかないと思ったのに。
「それならまず前提として、聖石を何に使うか位は先に教えてもらいたいね」
「僕は開発専門だよ?邪神の化身に対抗する兵器を開発する為さ」
「じゃあ、まず一個から試せばいいじゃん?それから徐々に強化した方が安全試験も何度も行える」
「そうだね、一個では既に成功してるのさ。すでに100人級は実践投入可能だ。しかし僕の目的は邪神の化身だ」
「聖石は12個あるんだよね?次は二つでいいじゃん」
「資材も資金も限度があるからね。あまり悠長なことも言ってられない」
「自分が出すよ。全部は無理でもさ。代わりに【帝国】に優先的にその100人級兵器使わせてよ。使用感がよければレンタル料出すように交渉するし」
「はは!逆に僕を懐柔しようとしてくるか!ただねその兵器の核に聖石を使用するんだけど、見てよ。魔素を大量に吸って元の姿を取り戻した聖石を・・・」
そう言って、光る石を懐から取り出し、掲げ・・・。
自分は腕輪から抜き打ちのダガーで、斬りつける。石を見せられてヘラクレスがおかしくなったって話だし、速攻止めに入るかなんなら奪う。
ひらりと身をかわし、一飛びで間合いを取った第12機関長から何かが転げ落ち、二回弾むと強力な光を発し、
「がぁぁぁぁ」
全身に焼け付くような電流が流れる。
「ふう、油断も隙もないな。ますます良いよ!でもこの前の大会見て君が麻痺に弱いのは知ってたからね。備えさせてもらったよ」
「ぐぅ、その石が精神・・・操作の・・・カラクリ」
「はは!そこまで分ってるんだ?やっぱり優秀だな。優秀なヒトは好きだよ」
「はぁ、自分は他人に迷惑掛けても平気で権力にものを言わせる奴は嫌いかな」
「そんなつもりは無いんだけどね?密輸の時も減給になった者達の給料は僕が身銭を切って補填したしね。一応高給取りだし、お金のことで他人を困らせたいとは思わないよ?河族にも迷惑かけたし、その辺はちゃんと直接行って折り合いを付けるつもりだよ。勿論暴力以外の形でね」
「あん?精神操作する気?」
「違う違う!そこはちゃんと誠意を見せるさ!これでもちゃんと筋は通す主義だ。君がイライラしてるのもそういう事だろ。他人に迷惑掛けて口をぬぐう奴なんか信用出来ないっていう。僕もそうさ」
「そんなヒトが、何で精神操作なんて」
「ふむ、選ばれてしまったからだよ聖石に・・・。聖石って無限に魔素を吸収するし、この上ない動力になると思って研究してたら、魔素を吸収した聖石にやられてしまったんだ」
「・・・自分で何をやってるのか分からないの?」
「分かってる部分もあるし分からない部分もあるんだろうね?聖石に選ばれた者が現れた時、邪神の化身が復活する。急いで、邪神の化身に対抗する力を手に入れなければ・・・」
まじかよ。聖石に選ばれたのは第12機関長の方かよ。その割に自分の所に集まってくるんだけど、どういうこと?怖い。
「邪神の化身の復活は防げないんだ?」
「分らない・・・それじゃぁ。君以外は多分さっきの聖石の力で、ちょっとの間の記憶を失ってるから、申し訳ないけど、頼むよ」
「どこ行くんだ?」
「あまり長居しないほうがいい気がしてね。聖石は君が持っていてくれ、誰に渡すよりも安全そうだ」
「自分より強いヒトはいくらでもいるけど」
「誰でもしがらみってのがあるし、絡め手にまで強いかは分らない。ニューターであり、強く、この聖石に縁がある君が持つべきだよ」
「ふぅ・・・分った」
そして、来た時同様音も無く立ち去る第12機関長を見送る。