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32.シェフ少女とおっさん

「船を下りたら雪国でした」


 学生時代現代文でそんなのを読んだ気がして、つい口に出してしまったけれど、ほんとに来てしまって良かったのだろうか?


 リアルではいつか料理人になることを夢見て、今は調理師学校に通っている私だけど、偶然手に入れることの出来たこのゲームで、ちょっと自分の店を持つ気分を味わうだけのつもりだった。


 ゲームだし、失敗しても何とでもなるやって軽い気持ちで、自分の理想のお店を追求していこうと思ってたけど、ゲームにもかかわらず、下働きの修行は厳しく何度と無く投げ出してしまいそうだった。


 それでも、ゲームの中で約2年がんばったおかげで何とか一人前になったはずだけど、【王都】は人気な土地だけあって地価も高く到底自分のお店を持てるほどお金が無くて、途方にくれてました。


 どこかのお店で雇ってもらって開店資金を稼ごうかと思ったところ、怪しげな術士さんに声をかけられたのです。


 曰く、あまりに売りの無い【帝国】で、グルメを宣伝に使いたい。

 曰く、この計画にはβ版からの有名人も参加していて、開店も手伝ってくれる。

 曰く、下働きといえば、地道に【兵士】クエストを未だに続けている人が居る。

 

 どれも、私の胸に響く言葉ばかりでした。


 攻略を見れば、まともにクエストなんか受けないほうが良いって言うことばかり書いてある。

 

 それにも関わらず2年修行を積んできた私から見て、未だに地道にクエストをこなしているなんて、正直その精神力には、参ってしまう。


 その噂の【兵士】さんに会わせてもらえるということで、今日は河原で待ち伏せ中です。


 と言っても、大河の渡し舟なんかを見ながら世間話をしているだけですけど、


 話題はなんと言っても、今度のイベントの件です。


 まさかの料理イベント。今の私にうってつけです。大会の時には【海国】まで連れて行ってくれるそう。


 この術士さん【海国】のクランメンバーなんだって、何でこんな北の果てに居るか聞いたら、求める術があるんだとか。


 私も理想のお店を求める者である以上この術士さんを応援したいと思う。


 とは言え、まだ何料理の店を開くかすら考えられてない中途半端な私には、この大会で勝ち抜く方法も思いつかない。


 未だ、料理人といえば趣味プレイヤーみたいな風潮はあれど、すでに有名な料理人プレイヤーは居る。


 【砂国】のスパイスの魔術師や【森国】の野菜の魔術師【海国】のシーフードの魔術師に【馬国】の肉の魔術師


 何でみんな魔術師って言われるかは謎だが、きっと魔法のようなおいしい料理を作るのだろう。


 そうこうしているうちに、いかにも輸送隊って感じの一団が現れた。その中でもひときわ地味な人が術士さんに声をかけてきた。

 

 「こんにちは、久しぶり!あれから【座学】の方は出てるの?」


 「よう、一応出てるぞ。言われたとおり【言語】も取ったしな。ところで今日は、ちょっと用事があって待ち伏せてたんだがよ」


 「何かあった?わざわざ待ち伏せるなんてこんな雪の中」


 「雪はいつものことだろ、こっちの子がさ、店を持ちたいって言う料理人なんだけどさ」


 「イベントで、結果出せればスポンサーとか付くんじゃないの?支援バフも付くって聞いたよ」


 「話が早いようでそうでもないな、相変わらず・・・。この子はさ【帝国】に来たばかりで、まだこっちの食材にもなれてないんだ。あんたは料理も多少できるって聞いたから、食材の事とか分からないかなってな?」


 「あっそういうことね、じゃあここいらで一回休憩取りますかね!

 おぉい、一回休憩だ!腹も減ってきたはずだし飯にするぞ。とりあえず兎肉とアリェカロの乳を用意しろ!」

 

 馬車から寸胴鍋を出したかと思うと、いつの間にか取り出したナイフで肉を切り分け野菜を取り出し程よい大きさに切っていく。


 丸いのは多分ジャガイモだろう、蛍光ピンクのにんじんとか食べられるのだろうか?ボコボコ鍋に投げ込みそのまま焚き火で炒めていく。


 おもむろに水を入れて青い瓶の中身を溶かし込む。そしてそのまま煮込む。


 「この瓶はね。料理長が色々ハーブとか持っていくとたまに交換してくれるんだ。青はスープや煮物に使えるやつ」


 そしたら他の兵士の人が持ってきた乳を適当に混ぜ込む。


 「とりあえずお前らの飯は出来たぞ、喧嘩しないで分けて食えよ」


 すっごい大雑把だ。とは言えゲーム補正のおかげか食べられるようにはなっているようだ。


 今度はフライパンと別の小鍋を取り出して言う、


 「まずは、小鍋にさっきの青い瓶の中身でスープを作って~、フライパンでバターを溶かしてから、みじん切りにした雪たまねぎを炒めて~研いで持ってきた自分用の氷麦も一緒に炒めて~さっきのスープをぶち込んで~塩を入れて味を見たら~弱火でさらに煮て~アリェカロチーズを削って入れて、ハイ出来上がり」


 なんか、変なテンションでチーズリゾットを差し出してきた。

 

 すると、気安い感じでNPCの子供?兵士の人が話しかけてくる。


 「【帝国】に来たばかりの方ですってね!隊長のごはん食べられるなんてうらやましいですよ。お店のものみたいに行かなくても、やっぱり温かいごはんにありつけるってありがたいですよね。うちの隊長は、方々で【料理番】の任務も受けてるから普通に料理できるんですよ。それに、食材やなんかもあちこちである程度買ってるみたいだし、僕もこのピンクのマルコーフィは薬みたいな味がして苦手なんですけど、隊長は、ガラー街の離れたところにある老夫婦からしか買わないんですよ、そこのマルコーフィはすごく甘くて自分でも食べられるんですよ。食材もいいもの選んでるから、他の部隊より人気があるんですこの輸送隊」


 一気にしゃべってくるので理解が追いつかないけど多分、隊長さんの料理を自慢しているのだろう。


 とりあえず冷める前にと一口食べてみると、思ってたよりおいしい。


 もちろん、ゲーム内でもちゃんと修行した私のほうがおいしく作れると思うが、多分食材が良い。


 過疎地なら私の腕でも通用するかと思って、ちょっと上から見ていた自分が恥ずかしい。


 単純にプレイヤーが少ないだけで、良い食材があるってことだ。ジャガイモしかないって言ってたのは誰だったか。

 

 「アンデルセンさん、私【帝国】で料理屋さんやってみようと思います」


 「おっ!そういってくれると思ったぜ、場所はどうする?希望に添えるようにするぜ、食材なんかも希望があれば調達してやる」


 「ありがとうございます。ところでどうして私にこの話を持ってきてくれたんですか?」


 「まあ、今回のイベントで出し抜いてやろうってのが一番だがな、一つは過疎地に来てくれそうな人材があまりいなかったから、もう一つはゲーム内にもかかわらず地道に修行してたからだな。大抵のやつ、俺も含めてだが、どうすれば効率よくプレイできるかばっかり考えちまう。でもなんだかんだちゃんと道は用意されてるし地道にやった方がいいんじゃないかって、最近思ってな」


 「まずは次のイベントですね!準備時間は少ないですけど、いきなり良い食材に出会いました。今いただいた食材を中心に考えて行こうと思います。初めて使う食材で勝てるとは思わないので」


 「そうか!じゃあ、どこで手に入るか聞いといてやるよ」


 「ところでもう一つ知りたいことがあるんですけど、何で厨房じゃないのに料理できたんですかね?」


 「え?厨房じゃないと料理って出来ないのか?今まで携帯食料ばっかり食ってたからな。普通の料理って消費期限短いだろ?」


 「ええ、普通は厨房じゃないと作れない筈なんですけど」


 「おぉい、なんで厨房じゃないのに料理作れるのか教えてくれってよ」


 さっきの隊長さんはいつの間にか、雪の上に毛皮を敷いて座り込み、剣の手入れをしていました。


 「ん?普通に作れるから分からん」


 「だよな~あんたはそういうやつだよ。<調理>持ってるんだろ?」


 「いや?<簡易調理>だったな確か。今は合成しちゃったけど」


 「なんで、わざわざ簡易とか付く方選んでるんだよ」


 「いや、普通にクエストで必要だったからだけど?」


 「あ、あのもしかして、簡易的な機材で調理可能なスキルなんじゃないですかね?」


 「ああ、そうかもねー。行軍で使えるようなスキルってことらしいし、そう言われてたかもな」


 なんとも頼りない人ですが、ちょっと光明が見えてきました。まずは、大会で成績を残してお店を宣伝することからです。がんばりますよ夢に向かって。

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― 新着の感想 ―
辛辣ゥまぁ心の中ってこんなものだよね
[一言] カワヴァタァ の 雪国ぃ だぬぇ
[気になる点] 30~32話までが他と比べてごちゃごちゃしてて、めっちゃ読みにくいです。修正お願いします。
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