319.顛末
聖石を手に入れて隠れ家に引き上げる。ニキータがいつの間にか合流してるのだが、本当にどうやって自分が仕事を終えたのを知るのだろうか?
もしかして、自分に知られずにずっと監視してるって事?
いや、森の中の木の上を走る自分に追いつける訳が・・・いや頭領は自分より巧みだし、上には上がいる。
コレからは今まで以上に気を引き締めて任務に取り掛からねばな。
長老と別れる時に、
「もし【帝国】に戻る事になったら、姉に宜しく言っておいてくれるとありがたいのぉ。もし帰れなかったらいつでもこっちに来たらいいわい」
といって見送ってもらったのだが、どうやらお姉さんはミランダ様らしい。
入れ歯姉弟、長老は精神操作とか過去にどんな因縁があったのだろうか?
ヒトに歴史ありって言うし、きっと誰かがそれに関わるクエストを受ける事になるのかな。
まあ、無事大河の物流は正常化。聖石を一個失った事以外は悪い結果ではないだろう。
自分は依頼人が第12機関と踏んでいるが、もし違った場合どこに流れていくのか、それは気になるところかもしれない。
そして、行き先は【王国】の港街。
海沿いには倉庫地帯、市場、船着場、酒場と栄えた街中。
船着場の一角、倉庫の裏にある防波堤の海側から入れる隠し通路。
防波堤の中を進んでいくと、いつもの内装の隠れ家。
いつも通り、入ってすぐ横の受付に装備を預け、消耗品を補充する。
すると後から上司が入ってくるので、今回の報告をしよう。
「取り敢えずは任務は完了。誰もやらずに、他国の調査員ともうまくやったし、自分としては上々かな。肩当が欲しい」
「確かに物流は正常化したようだな。第10機関の上は評価してるぜ」
「随分限定的な言い方だけど?元々第6機関と仲良くするって話しだったじゃない」
「それがな、今回の首謀者が・・・」
「第12機関でしょ?」
「正解だ。勘付いたか」
「あからさまに聖石探してたからね。しかも精神操作とかきな臭い事この上ないんだけど」
「精神操作の件は後でもう少し詳しく聞きたいが、第12機関がどういう建前でやったか知ってるか?」
「いや、流石に物流止める位だし、よっぽどちゃんとした理由があるんでしょ?」
「お前だよ。あぶれ者の集まる河族に紛れて生活してるんじゃないかってさ?かれこれ長い事逃亡中な訳だし」
「いや、嘘じゃん。自分じゃなくて聖石探してたし、ヘラクレスとか言う傭兵探して話を聞きなよ」
「お前の目的が聖石じゃないかって話にすり替えられてるんだよ。教区長の件にしても発端は聖石だろ」
「ええ~・・・無理ありすぎじゃない?それ」
「しかもそのヘラクレスに聖石を渡して、手を引かせたそうじゃないか、完全に河族とつながりを疑われたな」
「ぐぅ、裏目に出たか!なんならヘラクレスボコボコにするんだった!」
「まあ、そういう事で迷惑掛けた国に賠償こそすれど、世界的指名手配犯を見つけるためだし、非常に軽いもので済みそうだって話だ。調査団の事前調査でも裏づけが取れてるしな。ちなみに三人は無事任務完了でボーナスと昇進だそうな」
「勝手な事をした第12機関長は?」
「別に御咎めなし、そもそも何人かの機関長とは話が通っていたらしいし、あちこち根回ししてあったみたいでな」
「いやらしいな。上同士で勝手に結託して他人に迷惑掛けても補償して、後は御咎め無しってか!物流止められて、食事代が上がった人や生活用品が手に入らなかったヒトはどうでもいいってか?」
「まあ、そう言うな。一応その辺はどの国もある程度備えてるから被害を被った一般人はいないぜ。その程度のバランス感覚が無くて上になれるかよ」
「じゃあ、実質困ったのは監禁された一部の河族だけって事?」
「まあ、河族はお前を匿った疑いだな。」
「それは事実と違うだろ・・・」
これだから、偉いやつってのはイライラするんだよ。何を根拠に自分が正しいと思ってる?調査団を出したからその報告で全て分るってか?
それとも、どこにも属さない河族はどうでもいいってか?
その河族のおかげで、大河の貿易に滞りが無いんだろうが、もし復帰しても絶対上の連中の為には物を運ばない。
しかし、そうなると自分が逆に迷惑掛けたって事になるしな。それは謝りに行かないとな。
目的をぼかす為に、河族に味方するような発言繰り返してたわけだし、
嗚呼・・・自分にもお偉い連中にもイライラが止まらなくなってきた・・・。
「おい『イライラしてきた』はやめろっての、俺にイライラした所で、何もならんだろ?」
「じゃあ、第12機関長と話をつけるよ」
『やあ、呼んだかね?』