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318.ヌシ

 「さて、行くかの」


 「どこにです?」


 「川底に溜まる石は中々見ものじゃぞ?」


 「行きますか!」


 長老と連れ立って川に出て、そこからは船でおばちゃんが送ってくれる。


 ちなみに傭兵団が去ってから、あっという間に普通の生活に戻る河族のヒト達。


 なんとも逞しく、自分が何かする必要も無い。


 まあ、世間からのあぶれ者達が集まってきただけあって、生活力の塊のようだ。


 そして、例の三人だが解放された後、河族に聞き取り調査をして帰っていった。


 帰り際のこと、

 

 「すまん、色々世話になったな。今後何かあったら力になろう」


 「くそ、指名手配犯に借りを作るなんてな、絶対返すから捕まるなよ」


 「まあ、というわけだ。つまらない物だが魚人に伝わる幸運のお守りだ。色々大変だろうが、がんばれよ」


 それぞれに挨拶だけして〔古鮫の首飾〕をくれた。牙がいくつか並んだネックレス。

 

 そして、今は船上でのんびり長老と語る。


 「多分あれですよね。石投げ岩って言うのは英雄が石を投げ込んだ場所なんでしょうね」


 「そうじゃよ、わしもはじめはちゃんと答えておったのだが、どうにも様子のおかしい御仁じゃったからの」


 「精神操作ですか・・・」


 「ふむ、あまり関わらん方が良いぞ。碌な末路にゃならん」


 「ただでさえ、死者復活に関わらなきゃいけなさそうなのに、これ以上は背負えないです」


 「そりゃあ、因果じゃのう・・・。まあ、気を取り直して石投げ岩じゃが、ちょっと注意事項じゃ」


 「他人の願いの篭った石を漁るような真似はしないですよ」


 「そうじゃない、寧ろ捨てた物じゃし、わしが何か言えるものじゃないのぉ。あの辺りにはヌシがおっての」


 「え?長老はよくそこに潜ってるんじゃ?」


 「若い頃はのぉ。たまにヌシが出るんじゃよ。大きくて、全身から角の生えた化け物がのう」


 「ええ・・・行きたくなくなっちゃった」


 「しかし、運がよければ、英雄の石が拾えるかもしれんぞ?」


 「遠い昔の話ですよね?今頃海に流れ着いてますよきっと」


 「そうかのぉ??」


 辿り着いたのは大河、不思議と流れが緩くなっている一角。


 偏平な大岩が、石を投げるのは丁度いい足場だ。更にはちょうど木陰になっていて秘密の願いを持って石を投げるのは丁度いいロケーション。


 しかし支流と呼ぶには短すぎるし、沼と言うほどには分離もしてない。


 本当に微妙な溜まり、木の枝なども辿り着いて浮いている。


 「微妙に汚くない?」


 「上澄みだけじゃ、中は不思議と透き通っておる」

 

 「大河なのに?」


 「大河なのにじゃ」


 覚悟を決めて飛び込めば、確かに中は透き通ってかなりの深さにも関わらず、川底の石もキラキラ輝いていた。


 一気に底まで潜り、石を見てみれば、あるわあるわ翡翠に水晶に・・・泥を被った物も多く、何の石かも分らないものも少なくないが、中々神秘的な光景だ。


 しかし、まあどんなに目を凝らしても丸い玉のような石は無い。


 まあそりゃあそうだ。もしかしたらとちょっと思っちゃったが、それがまさに物欲センサーだ。


 諦めよう。


 水面に向かうと急に黒い影がかかる。


 ぬっと現れた巨大な影。不規則に並ぶ、角というか棘と言うか・・・。


 薄気味悪い影をやり過ごそうと底に戻ると、静かに追ってくる化け物。


 徐々に近づいてきて、


 いきなり大きな口を広げ、水が吸い込まれ、一緒に自分も引き込まれそうになる。


 その口の中は真っ黒く、まるでここじゃないどこかの世界に連れ込まれるような錯覚に急激な強い恐怖を覚え、必死に離れる為に水をかく。


 それでも徐々に距離を詰められ、触れたと思ったところで、口横の角を掴み、


 化け物の体に取り付き、食われるのを何とか逃れた。


 他にも生えている角を掴み、体勢を整えたと同時に化け物の泳ぐスピードが一気に上がる。


 溜りから、大河に出て異様な速度で泳ぎ続け暴れ続けるも、


 自分も必死だ。絶対に角を離さない。


 そんな折気が付いてしまう。自分が掴んでいる角の正体。この化け物から生えてる角や棘の秘密。


 これは、鳥の足だ。


 多分化け物を捕食しようとした鳥の爪や獣の牙が食い込み、そのまま水の中に引きずり込んで来たのだろう。


 そして、体に取り付いている自分を敵と認識して、死ぬまで川の中を引きずりまわすのだろう。


 いっそ離すか!とも思ったが、さっきの巨大な黒い口に飲み込まれるのはもっとごめんだ。


 化け物が急に反転し、水面に向かう。


 そこには蛙が一匹見える。一直線に蛙に向かい、飲み込むと。


 これまでで最大のスピードと水の抵抗を感じ、


 全身に力を入れて、離すまいと耐えた。


 そして、一気に空中に放り出され、


 「釣ったどーーーーーーー!!!!」


 雄たけびが聞こえる。


 そのまま地面に叩きつけられ、流石に息が詰まり手を離すと、


 「あれ?隊長何やってんだ?」


 バルトの所の釣りのおじさんだ。


 「いや野暮用で、そちらこそ何やってんの?」


 「俺は光る魚の依頼を受けて、水の中の生態系を破壊する奴らを世界中巡って釣上げてるのさ」


 「世界中か・・・お疲れ様」


 「おおよ!隊長もなんか木の依頼受けて前に世界巡ってたじゃないか!同じだな!」


 釣り一点特化のおじさんもどうやら世界一周系クエストか。


 「そうだね。バルトの所は相変わらず多士済々だね」


 「うちはボスのワンマンだからな!その代わり俺達が我侭言っても好きにさせてくれるっていう。自由な環境だからやりたい事ある奴が勝手に集まるんだろうな」


 「そりゃあ、理想的な居場所だね」


 「そうか?隊長は好きなことやってる様にしか見えないな。指名手配とかなってるし」


 「なんで、好きなことやって、指名手配になるんだよ」


 「好き放題やってるからじゃないか?ありゃ?なんだこの玉?」


 魚を<解体>したかと思ったら、玉を手に持ってる釣りおじさん。


 「それ・・・なんでこの魚が」


 「あっ!これ欲しかったのか!じゃあやるよ!いつも世話になってるし、じゃあな!」


 と言って、玉だけ渡してどこかに行ってしまう釣りおじさん。


 あっけに取られていると長老が現れ、


 「だから拾えるかもと言ったじゃろ」


「いや、これ、未使用なんだけど・・・長老にお任せしていいですか?」


 「いやじゃよ。また巻き込まれるじゃろ。持って行くがよい」


 ええ・・・自分も嫌なんだけど、鞄に聖石をしまう。遂に手に入れた未使用聖石


いつの間にか首飾りに付いた鮫の牙が一個割れていた。

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― 新着の感想 ―
[一言] みんなで押し付け合いになる聖石 ど う し て こ う な っ た
[一言] 釣りおじさんのワードクエストと、隊長のクエストが重なることがあるんですね。
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