317.傭兵団長
長老の家を探していると、例の三人組を見つける。うまい事潜入できたようで何よりだ。
そして、自分が目当てにしてた家を覗いて、なにやら話しこんでいた。
「ようやっと、相手が分ったな。これで報告に戻れるぞ」
「ここからは三方に分かれて、それぞれ脱出しよう」
ふむ、相手が分った事で、本格的に調査団を編成するのかな?いやこの場合は討伐隊か?
「そうはさせねぇよ!」
突然声が降ってきたかと思うと、投げナイフ使いが長老の家の屋根から投網を投掛け、三人を捕縛。
ちなみに自分はちょっと離れた茂みで見てたのだが、ばれているのだろうか?
いっそ出て行って、倒すしかないか?
すると、家の中から体を屈めながら、明らかにサイズの合わない扉をくぐって、出てくる一人の大男。
別に小さな家でもないのに、扉よりあからさまにデカイ!縦にも横にもでかいが、太っているという訳ではない、寧ろ体の内から押し出す密度すら感じさせる筋肉。
デカイ!重い!硬い!こいつはちょっと厄介だな。いやちょっとじゃないな同格って感じか、結構ヤバイ。
「連れて行け、ここの民と一緒に収容しろ。その方が不安は無いだろう。俺達は目的を果たしたらここを去る。それまで大人しくしておけ」
それだけ言うと家の中に戻っていく偉丈夫。
「おい!ヘラクレス!お前ほどの男が何でこんな事を!」
「別に無法はしてない。物流に関しては依頼主が責任を取ると言ってるし、建前もあるらしい」
ヘラクレス・・・?あっ!カブトムシか!いや~すっきりした。何で虫なのかな?って思ってたんだよな。
さて、すっきりした所でどうするかな・・・。
家を覗けば、長老とおぼしき小さな老人と世話係風のおばちゃん、長老の向かいにヘラクレスが座っている。
椅子がちょっと可哀想なサイズ感、
「さて、俺達もいよいよ時間が無い。そろそろ話してくれないか?」
「うむ、良かろう。わしと婆さんの出会いは大河のほとり、無粋なわしには花の名前なぞ分らぬが、今でもあの赤い花の事は覚えておる・・・」
「いや、もう100回はその話を聞いたぞ!」
「いや!まだ24回じゃ!」
「なんで、そう言うことは覚えてるんだ!」
ふむ、ちょっとぼけちゃってるのか長老。
「石のことを教えてくれ、玉のようにまん丸い石の事だ」
「うむ、良かろう。その前にそろそろ飯を食わせてくれぬか?」
「長老・・・さっき食べたばかりよ?」
「わしは食べておらん!わしだけ飯抜きか!いや、我侭を言っちゃいかん・・・居場所を失い、食うや食わずで絶望に川面を眺め、そのまま命を終わらせようとする者達を迎え入れ、生きて良いんだと諭すのがわしの役目じゃ。飯が食えぬ事如きで騒ぐ事じゃないわい」
「いや、まだ昼なのに三回も飯を食ってその都度騒いでるぞ?」
「わしはそろそろ眠いんじゃが」
「石のことを話してからにしてくれ」
「石・・・石が好きなのか!気が合うのぉ。同志に石スポットを教えてやろう。大河沿いに石投げ岩と言われる場所があってのぉ、そこから宝石を投げると願いが叶うと言われておる。勿論ヒトの願いの篭った石を頂戴する気は無いがのぉ、川底はそれは綺麗なもんじゃ」
「その石じゃねぇ・・・どうすりゃいいんだ」
うーん、自分もどうするか。三人を助けて援軍を待つのが正しいのか、勝手に交渉するのが、正しいのか。
「窓から覗いておる小僧も飯が食いたいなら入っておいで」
長老に呼ばれてしまったので、素直に御邪魔します。
「キサマ、いつからそこにいた」
「まあ、いつでもいいじゃん」
「さっきの三人が捕まっているのも見てたようじゃな」
この長老ボケてないだろ・・・。
「自分は物流が正常になってくれれば、それでいいんだけど」
「俺は探し物が見つかればそれで良い」
「わしは飯が食いたい」
「台所借ります」
料理しながら話す事にしようと思う。変に緊張するよりいいんじゃないか?
キャベツと豚肉を取り出し、豚肉は薄くスライスする。
お湯を張り、出汁を取り、手でちぎったキャベツと薄切り豚肉を投入。
キャベツと豚肉の柔らか煮!味が足りなかったら醤油をかけてね!
すでにご飯は食べたと言うので、軽く食べられる物にした。
「それでさ、今まで聞いた話だと堅気の魔物狩りなんでしょ?なにか不満でもあったの?」
「そんな物は無いな!物心付いた時から人並み外れた力があり、闘技場でその力をコントロールする事を覚えた。今では人の為に魔物を狩ることを誇りに思っている」
「じゃあ、何で石を手に入れるなんていう仕事を請けたのさ。そんなにおいしい仕事だったの?」
「いや、確かに報酬は良いが、探し物は得意じゃないな」
「じゃあ、なんで?」
「・・・しかし俺には石が必要なんだ」
「何か言えない様な秘密があるの?」
「いや!俺は他人に顔向け出来ない様な生き方はしていない!だが、石だけは手に入れねば」
ずっとこの調子、本当に何の理由も無く石が欲しいらしい。
「じゃあ、自分のこの二の腕についてるチャロアイトなんてどうよ!」
「どうとも思わん」
こいつ何も分ってないじゃないか!このチャロアイトの色合いとか奇跡の一品よ!いや石は同じものは一つとして無いのだから、全部奇跡だけども!
「その石の色合いは長生きしているわしでも、めったにお目にかかりゃん・・・」
急に語尾がおかしくなったと思ったら、入れ歯が跳んだ。
「むにゃむにゃみゅみゅ(多分精神操作じゃろうの目的だけ植えつけられとる)」
思わず表情が引きつってしまった。
「長老!入れ歯が飛びましたよ!」
そうおばちゃんが言うと洗って再び入れ歯を口に入れる長老。
傭兵団長が<言語>持ってないこともさり気無く確認済みか、やるな長老。
しかしこれはどうあっても、石を手に入れるまで引かないって事だろうな・・・。
選択肢1、戦ってねじ伏せる。腹をくくれば倒せない相手じゃないだろうが、他の兵やら幹部やらも敵に回す事を考えるとな・・・しかも自分はNPCをやっちゃうような真似は極力避けたい。
選択肢2、代わりの聖石を一個渡してみる。これで納得するなら、一個位は渡してもいいだろう。何気に自分が今持ってるのは8個、なんか全部集めても何か起きそうで怖いし、ここで一つ譲るのも悪い選択じゃ無いだろう。
「分った。石を渡そう、だから引いてくれないか?」
「最初から石さえ手に入れば、去ると言ってる。と言ってもそこらに転がっている小石じゃないぞ」
鞄から一個聖石を出し、
「これでどう?」
「それだ!譲ってくれるのか!」
何故かあからさまに嬉しそうにする傭兵団長。
「これを何に使うの?」
「???依頼人に渡すだけだ」
自分がおかしい事言ってるって気が付かないんだろうな。仮に洗脳とかじゃなくてもそういう人っているしな。
素直に蠍から手に入れた聖石を渡す。
「悪いな、キサマなら俺を倒して力づくで事を解決しても良かったのだろうが、そちらこそ何か得したのか?」
「まあ、物流の件を何とかしろとしか言われてないから」
「ふん、何かあれば声を掛けるといい、金は貰うが優先的に仕事は請けよう」
そう言って、本当にさっさと兵を纏めて引きあげる傭兵団、統率は完全に取れていて、正面からやったら・・・どうなったかな。