316.要塞
木々の合間に隠れる大きな建屋、今までの建屋とは比べものにならない大きさだ。
そこまで高くは無いが厚みのある外壁は武者返しの様に、下は緩く上は急勾配。
こりゃ、要塞だな。いざという時に河族の中心のヒト達が立て篭もるのかな?
もしくはボス魔物に対抗する為とか、ユニオンやレギオン、もしくはその上と相対するのだろう。
面積だけなら大砦と言っても過言では無いだろう。
高さが無いのは木の間に少しでも姿を隠したいからなのだろうか?
まあ、広ければ広いほど自分が入り込む隙があるわけだけどね。
とは言え奇抜な事をやる気もないし、普通に木に登り、
そこから壁面に取り付き、壁上に立ち、さっさと壁内に飛び降り軽く1回転して勢いを殺し、
大砦内の建物の壁にくっつき辺りの様子を窺う。
リズムで言うとサッと木から壁面に飛び移り、カサカサっと壁を登って、スタッと壁上に立って、トーンと飛び降り、クルッ!シュタッ!サッ!
最低限の動きで侵入出来た為か、今のところばれていないようだ。
ちなみに三人組は大砦の排水路から潜りこむ様なので、一旦お別れ。
壁上に立った時にこちらを不審げに眺めていた影があったが、騒ぎ立てる様子は無い。
さて、こういう建物が多い所を探索するにはどうすればいいのか・・・こういう時は第10機関のヒトの方が得意なんだろうな。
自分も一応今は第10機関だし、指名手配のまま街中を歩いたりはしたけど、どうしたものかな。
とりあえず中心辺りに大きな建物があるし、そっちに向かうとしよう。
巡回の傭兵をやり過ごし、後ろを追跡する様に進む。
そして、路地の隙間に身を隠すと傭兵の二人組がこちらに回れ右をして、戻ってくる。
巡回路を確認しながら少しづつ進み、狭い路地裏に入り込み隠れてやり過ごす。
じりじりとしか進めず結構面倒だし、ストレスが溜まるし、背後が気になってしょうがないが、
ここで、無理をして追い掛け回されるのはごめんだ。
ようやっと大きな建物に辿り着き、中を窺うと多くのヒトが雑然とすし詰めになっている。
とは言え、最低限寝転がれるくらいのスペースは確保できているようだ。
多分捕まった河族達だろう。疲労感は見せているが、怪我などをしている様子には見えない。
このヒト達を解放して、はい!終了!って訳には行かないんだろうな~・・・。
結構な人数に見えるのに捕まっているという事は集団戦闘において、傭兵団の方が強いってことだろう。
どうにかして傭兵団に手を引いて欲しいな~。
他の聖石と同じように何かの試練で手に入らないかな?
最悪一個くらいだったら、上げちゃってもいいんじゃなかろうか?
「おい、あんた何者だ?」
その時建物の内側から声を掛けられる。
自分は茂みに隠れながら、空気孔のような格子窓から覗いていたのだが、逆に覗き込まれた。
「何者って言われると、なんとも答えづらいけど、傭兵団にさっさと出て行って欲しいって立場ではあるね」
「そうか、何か協力できる事はあるか?」
「どうだろう?傭兵団は石を探してるらしいんだけど、心当たりはある?」
「そりゃあな、生きる場所を失ったあぶれ者達を集めて河族を作った英雄の伝説に出てくるからな」
「試練とか受けて手に入るものなのかな?渡しちゃって良ければ、それが一番早いと思うんだけど」
「無理だな。英雄は石の力に頼るのじゃなく、ヒト同士が力を合わせて生きる事を望んで、大河に投げ捨てたらしい」
「じゃあ、傭兵団もここで粘ったって、手に入れようないじゃん」
「なんか、信じてないのか、それともヒントが無いか探してるみたいだぜ。いつか玉に選ばれた者が手に入れる事になるだろうって言う予言があるからよ」
なんか他所でも聞いた~。でも大河に投げ込んだ物見つけろってな・・・。
「そっか~、最悪実力行使か。あまり気が進まないな」
「まあ、俺達も閉じ込められるのは困るが、別に無体な真似はされて無いからな。でなければ、流石に今頃反乱が起きてるさ、御行儀のいいやつらばかりじゃないんだ」
「ちなみに傭兵団長の居場所は分る?」
「ここからそう遠くない長老の家にいる。長老から話を聞いているようだ」
「分ったありがとう。何か必要なものはある?」
「食うもんは支給されてるしな、酒でもあれば皆喜ぶぜ」
瓶詰めの酒を適当に格子の隙間から差し入れていく、
こういう時は連携が取れるのがヒトの性、続々と瓶詰め酒を隠しながら送っていく。
「今あるのはこの程度だけど」
「十分さ、あんたの温情を河族は忘れない。困った事があれば、いつでも訪ねてきてくれ」
河族の収容所から離れる。
一応今まで会った傭兵達が言っていた通り、非道な真似はしてないない様だし、
どうにか穏便に済ませたい。
筋を通す相手ならこちらも筋を通す。多少の損は仕方なしだろう。