308.戦闘(投げナイフ使い)
支流沿いを進むにつれて巡回する【兵士】風の数が増え、やり過ごすのに時間がかかる。
木の上を行けば早いのに、地面を行くのはこだわりなのか、能力的な物なのか?
しかし、最初に捕えた連中から情報が漏れてないのか、それとも漏れた上での増員なのか、
向こうも人数には限りがあるだろうけど、警備と警戒が緩い気がするのは何でだろうな?
ふと【兵士】風の巡回が一人もいない場所に出た。
川沿いに広がる何もないフィールド。
身を隠す場所が無い事に警戒しながら、一気に走り抜ける事にしたのか最初に獣人が、木々の合間から飛び出す。
何もないフィールド、次の木陰まで半分まで来たかという所で、飛んでくるナイフ。
木陰からヒュムが大きな声で注意を促し、一回転して避けた。
ナイフは川の方から飛んできたので、そちらを警戒していると、川の上を歩いてくる男。
よく見ると水面ギリギリ下に浮橋が掛かっている。
ロープで対岸と結ばれた浮橋を渡って来ている様だ。
獣人が腰から二本の得物を抜くが、どうやらククリナイフの様な先端が丸く広がる大型の鉈だ。
ククリナイフ二刀流という中々趣のある装備に、自分の中の好感度が上がった。
さらに大きな声を出した事で、もうばれていると踏んだのだろうヒュムがダガーを一本抜いて、獣人に並ぶ。
こちらも渋いし、好感度が上がり続ける。
さらに魚人がそっと川の中に潜っていく、完璧な布陣じゃん。
不意打ちの先制攻撃だし、戦闘待った無しだがこの一戦は見学かね。
「よう・・・お前達が侵入者か?はは!聞くまでも無いか、俺達に敵対するんだ覚悟はあるんだろ?はは!それも聞くまでも無いな!」
そう言って、またスローナイフを投げつける事で、戦闘の火蓋が切られる。
すぐに、二手に別れる獣人とヒュムはどちらも身軽そうだし、中々の素早さだ。挟み撃ちにするように距離を詰めていく。
まるで、好きに狙って来いとばかりに広く視界のいい川上から動かない敵ナイフ使い。
そこに浮橋の下から手が二本突き出し、捕まえようとしてきたところで、高く飛び、
フィールドに降り立とうとした着地際を獣人に狙われる。
しかし、着地しない敵、虚空を掴むような姿で、空中に戻った。
よく見るとフィールド上に見づらい色に染められた紐が渡っている。それを掴んで空中戦を仕掛けるつもりらしい。
空中から、今度は一気に数本のナイフを撒き散らす。
地上にいた二人が、何本か食らいダメージを負った。水中の事は分からない。
落下する時に別の紐を掴み、大きくたわんで、また空中にナイフ使いを戻し、
そして、またナイフを撒き散らす。
落下する位置を見定めている内に、自分の隠れている木に結ばれた紐を掴もうとしてるので、切ってやった。
すると予想外に手応えを失ったナイフ使いが、地面に落ち転がって動けなくなり、
そこを獣人とヒュムで、一斉に攻撃を加える。
しかし、ダメージを食らいながらも何とか川上に走って戻るナイフ使い。
そこを魚人に両足を掴まれ今度こそ完全に動けなくなった。
そして、地上から追ってきた二人にボコボコにされ、ナイフ使いが動かなくなる。
どこから出したか、縄で木にぐるぐる巻きに拘束して、尋問を始めるようだ。
魚人はどうやら、ダメージを負っていないようなので、主に魚人が話をするようだ。残りの二人は<手当て>をしている。
「単刀直入に聞こう。お前達は何者だ?目的は?」
「ふう、俺だけで十分にやれる相手だと思ったんだが、まさかもう一人隠れてるとは。隠れ方の格が違いすぎて全然気がつかなかったぜ」
「答えろ、お前達は何者で、目的は?」
「隠れてる奴の姿を拝ませてくれたら教えるぜ」
「隠れている奴は俺達の仲間じゃない。故にこちらから何か言える相手じゃない。諦めて答えろ」
「ふん、仕事の邪魔してくる組織は一つじゃないって事か、メンドクセー。俺は何も知らないぜ?ヘマしたら尋問されるのが分ってて情報を持たせる奴がいるかよ」
「そうは言っても自分がどこに属してるのかも知らない奴はいないだろう?全く知らない相手から仕事を頼まれて、今日いきなり連携取れますなんて話は無いだろう?」
「はは!そりゃそうだな。これだけ仕掛けをして誘い込んでるんだ。それはバレるな!俺達は傭兵だ。依頼主も依頼内容も聞いてねぇよ」
「本当か?これだけ仕掛けをするんだ、末端じゃなかろう」
「俺は戦闘がメインだし、面倒な奴らを網張って狩るのが仕事なの!最前線に行くと分ってて、あえて聞いたりしねぇよ。そう言うのは団長に任せてる」
「ふむ、随分しっかりした信頼関係で結ばれてる様だな。有名どころの傭兵団か」
一個だけ気になったので、声をかけてみる。
「ここにいた住人はどうした?」
「おっ隠れてる奴!正体を晒してくれるのか?」
「自分の問いに答えて、その三人が行った後ならね。でも知らない方がいい事もあるかもよ?」
「分った!ここの住人は抵抗する奴は少し痛めつけたが、殺したり重傷を負わせたりはしてねぇ。ある場所に監禁はしてるが、俺達は金で戦うだけで、虐殺やなんかは絶対にしねぇ」
そこで<手当て>の終わった獣人とヒュムが来て剣呑な相談を始める。
「で?こいつ殺るの?」
「いや、大手の傭兵団だと揉めると後々面倒だ。ここに放置しよう」
「そんなことしたら、私達の情報がもろバレじゃん」
「負けた上に情けをかけられたんだ。しゃべらねぇよ」
「誰が信じるか!」
「やめておけ!俺達が潜入している事は、すでにバレてたんだ。しかも戦闘力も俺達より上かもしれない相手だ。ここは下手に傷つけない方がいい」
「クソ!いざって時は捕虜になれってか!」
「生きて情報を持って帰るのが俺達の仕事だ。大手の傭兵団なら下手な殺しはやらない」
「はは!お前達が情報を持って帰れるか、うちがお前達を捕まえるのが先か、どうなるんだろうな?」
三人はナイフ使いをそのままにして立ち去る。
そして、自分も地面に降り、男の前に立つ
「約束だ正体を見せようか?」
「ああ、頼むぜ!さっきも言ったが負けて情けをかけられた以上、口外はしない」
「そうか、じゃあとくと見ろよ」
そう言って、顔を見せると表情が凍りつく男。
「別に自分の事を話したければ好きにしろ。誰を敵に回しているかよく認識して、立ち回りを考えろ。自分は政府だなんだとか言うしがらみは無い。ここの住民一人でも殺してみろ、取り返しのつかない傷を負わせてみろ。そしてそれを行うなら、お前がどうなるか想像しろ・・・」
そうして、捕縛を解いてやる。
捕まってて何も出来ませんでしたなんて言い訳はさせない。
自分がダガーの抜き打ちで縄を切った手並みで、戦闘力の差は理解したようだ。
黙ってフラフラと立ち去るナイフ使い。
自分はまた木の上に登り三人を追う。