306.思いたったが吉日
第10機関の隠れ家の奥は何もない広い空間になっている。
そこで、身軽な二人がダガーを片手に斬りあう。
紙一重でかわし、一瞬の隙をつき毛筋ほどのダメージを蓄積させ、ぎりぎりを攻め合い、博打の一発なぞは狙わない。
緊張感が切れた瞬間が負け。
そんな【訓練】を続けて、頭が完全に自分の持つダガーに没頭する瞬間に訪れる天啓。
「あっ肩当が欲しい」
手を止めた上司が、聞き返してくる。
「珍しいな、何かが欲しいなんて」
「いや、この前の大会で使った肩当が調子よくて、避けるか剣で受ける以外の選択肢が有るのっていいなと思って」
「ふむ、お前さんの装備も有名になったからな。戦闘用防具を手に入れてもいいのかもな」
「しかし、この状態じゃ、集団戦で魔物を狩る訳にもいかないしどうしたもんだか」
「そうなると第6機関だろうな」
「敵対してる所じゃん、無理じゃん」
「でも、武器防具作ってる場所って言ったら、そこになるからな」
「クラーヴンに助けを求めようかな」
「あまり、知り合いや友人を巻き込むのは関心しないぜ?」
「この前クラーケン狩りで、嵐の岬巻き込んだけどね」
にしても、どうしたものか、こういう欲求は一時的な物だし、その内忘れる物だ。気を紛らわしてすごすのもいいが・・・
「丁度、第6機関と仲良くなれる任務が有るぞ」
大体そう言う事になるんだよな~。
「受けるかどうかは内容によるよ」
「河族って知ってるか?」
「いや、初耳だけど」
「【帝国】【鉱国】側と【王国】【馬国】側を分断してる大河、国境扱いされる川に住んでるやつらで、どの国にも属さない事を認められている」
「大河に住む・・・ね。つまりどこにも所属せずに大河の【輸送】を請け負ってる訳か、【鉱国】からの鉱石なんかは重要資源だもんね」
「相変わらず物流に関しては理解が早くて助かるぜ、まあその河族になにやら異変があったらしくてな。頼めるか?」
「いいけど、それって第10機関みたいな、表立って事を荒立てたり出来ない案件処理する部署の担当するような話なの?」
「どの国にも所属しないって事は、表立ってどこかの国だけが干渉すれば、国際協調に罅が入るだろ?」
「って事は他の国からも調査が入るかもしれないって事?」
「その時は仲良くな『なんかイライラしてきた・・・』は出来るだけやめてくれよ」
「保証は出来ないね」
にしても、河族に異変ね~。次から次からよくもまあ事件が起きるもんだ。
鉄なら【帝国】それ以外の金属なら【鉱国】から大量に出てくるわけだもんな。
勿論他の国にも保有する鉱山はあるのだろうが、その二国からの物流が止まったら困るだろう。
逆にその二国は食料を止められるとかなりきつい筈だ。
結構な国際問題じゃないか?国際協調とか言うなら、さっさと世界代表調査団でも出せばいいのに。
まあ、そうもいかないのがお偉いさんか、やだやだ。
とりあえず、道具類と装備のメンテを済ませ、ニキータと河族の村を訪ねる。
河族はどの国にも属さないので、大河沿いに点在する村に住んでいるらしく、とりあえず情報収集の為に適当な村に立ち寄った。
「あっ指名手配犯」
一瞬でばれたので、速攻逃げようとすると、
「大丈夫だよ。河族はそういうの気にしない、皆色んな事情があって国や種族から離れた者達が集まってるんだ」
なるほどな、河族ってのはあぶれものの受け皿になってるのか、こんな所にも逃げられる場所があるとはな。
「すみません、逃げようとして、ちょっと聞きたい事がありまして」
「そう?てっきり生きづらい浮世から逃げてきたのかと思ったけど」
「どうしようもなくなったらお世話になります。ところで最近物流が滞ってるって聞いて」
「そうだね、村で勝手にやってる渡し位は出来るけど【輸送】はやってないね」
「何があったかって・・・」
「ふう・・・余所者にあまりペラペラと言いたくは無いんだけど、君は辛い立場にあるし、こちら側の事を分ってくれると信じて、話そうか」
「ありがとうございます。迷惑をかけにきたのでは無いので、出来る範囲で構いません」
「うん、って言っても僕達も分らないんだけどね。河族は基本的に小さな村に点在して住んでると言ってるけど【輸送】用の大型船が小さな村に入るわけないよね?大河の支流に、河族の中心的拠点に続く物がある。その先の拠点で何か起きたらしい」
「何かですか」
「うん、河族の中で戦闘力がある人もそこに集まってるからね。闇雲に近づく訳にもいかなくてさ」
「場所を教えてもらうことって出来ますか?」
「いいよ、船で送ってあげる」
「お礼はお酒でいいですか?」
「ふふ、皆喜ぶよ」
ということなので、樽でお酒をいくらか村に置いて、
小船で、送ってもらう事にする。