303.決勝前編
リング上には炎の巫女が、無造作に立っている。
意識的にゆっくりと呼吸をし、脱力をしているようだ。
[幾多の戦いに身を投じ、強敵達をなぎ倒し、力をつけてきた理由はただ一つ、最強の座を手に入れる為!今日生涯無敗の英雄の名を決闘王の称号を受け継ぐ事はできるのか!Aトーナメント覇者!炎の巫女!]
リングの周囲に次から次へと爆発音と共に火柱が立ち上る。
リングを一周し、円になった所で、回転し始め炎の竜巻となるがその中でも平然と斜め上を見て、意に介さず集中する炎の巫女。
[ただ、生きるため・・・正義も悪も呑み込み、ヒトと世界の命運を背負った黒い影。邪神の化身と戦うため最後のピースを手に入れに来た!Bトーナメント覇者!戦闘員A!]
ちょっと焦ったが、炎の竜巻の中に身を投じリングに上がり、炎の巫女と対峙する。
[炎の巫女よ・・邪神の化身との戦いにはお前のその身に宿る炎が必要だ。貰い受けるぞ]
アナウンスが流れているのになんか微妙な顔で立ち尽くしている炎の巫女。
[邪神の化身はしぶとい、斬った殴ったで勝負がつくものではない!だからこそ、お前のその炎で、最後には焼き尽くさねばならぬ。邪なるものを滅するその浄化の力!それが最後のピースだ!]
「話には聞いてたけど、今回も随分な悪役なんだねぇ」
自分にだけ聞こえる声で、ぼそっと呟く炎の巫女・・・ガイヤ。
「仕方ないじゃん、なんか流れ上こうなっちゃったんだもん」
[浄化の力を除けば、邪神の化身に対抗する力は揃った。冥土の土産に見せてやろう!我が真の姿を]
荘厳なBGM・・・カルミ○が流れ始める
炎の竜巻が消え黒い煙と言っても何かが燃えているようなものではない、黒いドライアイスの様な煙がリング中を取り巻く。
ベルトの蛇をくるっと回し押し込み変身する。
黒いドライアイスの煙が消えて、自分の最終形態?が観客の目に晒される。
全身グレーから黒、
左肩甲骨にはカラスを模した羽飾り、八咫烏だから太陽を意味しているらしい。
顔の前面をバイザーが覆い後ろ半分は甲殻で出来ている、何より目を引くのが頭頂部から伸びる長ーい一本の黒い神鳥の尾羽の様な意匠。
両腕の腕輪の下はボロボロの黒い布切れが巻かれ、まるで歴戦を戦い抜いたかのようだが、ミイラ男の象徴だってさ。
尻尾もついており、本家よりだいぶ短いが、骨のように細くごつごつしており、先端は尖っている。
黒い毛皮の腿当が巻きつき、それでいて、装備している蛇の柄頭のダガーは引き抜きやすいように工夫されている。
最後に胸当ては肋骨の意匠のままだが、真っ黒く塗られ、ど真ん中の心臓の場所は太極図が描かれている。
殆ど見た目だけの突貫装備だ!!
「なんかまた、ゴテゴテと・・・」
「自分も何でこうなったか分らないんだ・・・」
自分達の思いと裏腹に会場は盛り上がってる。
盛り上がってくれるのならいいのだ。
背中からショートソードを引き抜く。
炎の巫女も両の手を開いたまま体の前に構える。
[獅子英雄杯決勝!炎の巫女VS戦闘員A!Fight!]
さて、一度は手の内を見せてしまった相手だ。様子見などしている暇は無い。
<青蓮地獄>
<焦熱地獄>
炎の巫女とタイミングが完全に被り、お互い地獄のオーラを纏う。
「は~、ったく成長してくれるね!アンタは!」
そう言いながらも、地面を炎を纏った拳で殴る。
炎拳術 獄噴火
自分もその動きに合わせて、剣を地面に突き刺し、
凍剣術 獄霜界
地面系の術同士で、相殺する。
リングの半々で片側は燃え、片側は凍ってしまった。
炎拳術 獄焔玉
凍剣術 獄白夢
炎の巫女が火の玉を浮かすと同時に視界を掻き消し、遠距離攻撃を封じる。
自分からは<索眼>で相手の状態が見えているので、次の手を考えつつ移動。
地面の効果はどうやら相殺されて、燃えてる方に入り込んでも大丈夫そうだ。
近づいても、自動追尾の炎玉ですら反応しない。
炎拳術 獄炎弾
なにを察知したのか急に撃ってきたが、これは避けた。
後ろから炎の巫女に斬りかかり、背中に一斬。
闘気術 発気
狙っていたのだろう。ガッツリ食らって距離をあけてしまう。
とはいえ、自分も読みの範疇。むしろ距離を取って仕切りなおす。
そうこうしている内に霧が晴れ始めた。
歩いて無造作に距離を詰める。炎の巫女も遠距離術は使わずに真っ直ぐ距離を詰めてきた。
「今回は遠間から嵌めないんだ?」
「嵌る相手じゃないからね!視界潰されるよりマシだよ」
まだ、剣を使うには少し遠い間合いで、首を一振り、腰から全身を使って、兜の長い尾羽を振り廻し、炎の巫女を狙う!
何かあると警戒したのか、一歩下がった炎の巫女を追って、間合いを詰める。
後ろに下がるより前に進んだ方が早い。引け腰の相手に剣を振り抜く。
ちなみに兜の尾羽は何の効果も無いので、ただのフェイクだ。
乱暴な一撃で、体の前で防御の形を取っていた腕を強引に叩き斬り、腕と腕の隙間に突きを見舞う。
炎の巫女は剣を横から押す様に、そのまま横に半回転し、裏拳で顔面を殴りつけてくる。
強引に剣の軌道を変え首をすくめ、獣人に借りた肩当で受けて、
前屈みになった所で、目の前の炎の巫女の腰に腕を回し、帯を掴み足をかけ背中から地面に転がす。
逆手に持った剣を突き立てようとすると転がって避け、一言・・・。
「痴漢!!!」
「違うわ!!!」