300.剣聖の弟子VS炎の巫女
リング上に立ちお互い微妙に視線をずらして向かい合うのは、
白い石膏のようにも見える目だけを隠す蝶の仮面を着けた少年。
もう一方は造型が石像のような感情を一切見せない表情を象った仮面の女性。
少年はまるで意識と無意識の狭間にでも存在するかのような作り物じみた完璧な雰囲気を
女性はまるで女であることを忘れ、女神を守護する者の如き繊細さと攻撃性を同時に感じさせる。
「さて、あの人に挑戦できるのは僕かあなたか・・・」
「よく出来た組み合わせだね。あっちはあっちで盛り上がってるようだし、中にはこの試合が事実上の決勝とか言ってる奴もいるみたいだけど、運営の意図が見え隠れするね」
「でも、僕はこのトーナメントに不満はありませんよ」
「アタシもさ!チャンピオンに誰でも彼でも好き放題挑戦されちゃ、決勝戦の価値が下がっちまうよ」
「向こうで、誰でも彼でも挑戦しているようですが?」
「それはチャンピオンだと知らず、しかもそれぞれのキャラ設定を賭けた別次元の戦いだろ!動画で見てるけどアタシはああいうの嫌いじゃないよ」
「奇遇ですね、僕も結構好きです。しかもあの人の設定の悪い事悪い事・・・」
「そうさね、でもあそこまで悪い設定にしたんだ、どんでん返しがあるんだろ?」
「ふふふ・・・」
「ふん!」
どちらからとも云わず、お互いに構える二人。
剣聖の弟子の姿が消えるが動じることなく構える炎の巫女。
背後から飛んできた濃紺の剣閃を炎を纏った裏拳で迎撃する。
続いて、空中に現れた剣聖の弟子が放つ三日月形のエフェクトも開いた両手から放つ火球で迎撃、
さらにいつの間に再び炎の巫女の正面に移動していた剣聖の弟子が、抜き身の刀で突きの構え。
左手で標的である炎の巫女を確実に捉え、全身のばねを使い切っ先から渦巻く緑色のエフェクトを纏いながら突進突き。
切っ先が喉に触れるか、という所まで仁王立ちしていた炎の巫女は一気に闘気を解放し、剣聖の弟子を撥ね飛ばす。
吹っ飛び地面に一回激突した瞬間、姿を消した剣聖の弟子、
炎の巫女の頭上に移動し、刀を逆手に真下に向けて術を発動する。
白い椿の花を思わせるエフェクトを纏い落下する剣聖の弟子と落下してくる影に気がついた炎の巫女。
完全なる頭上からの攻撃に対空攻撃が間に合わず、已む無く横に大きく避けるが、
リングに刀が突き立つと同時に白いエフェクトが広がり、衝撃波を発生させ炎の巫女を一気にリング端まで追い込む。
炎の巫女の体勢の整わぬうちに追撃の瞬間移動からの抜刀斬り、
手応えと同時に全身に痺れが走る剣聖の弟子。
いつの間にか炎の巫女の体の周りに青白い放電現象が発生している。
「こいつは決勝までとっておくつもりだったんだけどね・・・」
「こっちこそ、花鳥風月全て使わされて勝負がつかないとか・・・」
全身に放電と手に炎を纏った巫女、納刀して再び構えなおす剣聖の弟子。
真上に抜かれ、黒いエフェクトを纏って打ち下ろされる刀、間合いを詰め攻撃に攻撃で返す飛び込み突き。
両者ダメージを食らいながら、
逆手に持った鞘に赤いエフェクトを纏い殴りつけ、練り上げた闘気で強化された膝蹴りを打ち込む。
さらに肘を打ち下ろした所で剣聖の弟子の姿が消え、後ろから斬りつける。
斬りつけると同時に痺れた剣聖の弟子を振り向き様の回し蹴りでわき腹を抉り返す。
「なるほど、術で相殺しながら斬れば、その電気?雷?を食らわないで済む訳ですか」
「ご名答!それでアンタは残りいくつの術を隠してるんだい?<精霊術>を基にした常時纏うタイプの術でもなけりゃ、辛いだろ?」
姿を消した剣聖の弟子は大きく距離を取る。
警戒しながらゆっくり近づく炎の巫女。
炎の巫女が近づけば姿を消し、逃げ続け、
会場からはブーイングが聞こえるが気にせず、逃げ回りつづけ・・・炎の巫女が追うのに飽きてリング中央に仁王立ちになる。
「どうせなんか、考えがあって時間稼いでるんだろ?いいよ待とうじゃないのさ」
「流石、王者の貫禄ですね。もう少しなので・・・」
「ふん、王者は勝ち逃げしてるあいつだろ!」
ゆっくり呼吸を整えながら精神を集中する炎の巫女、
納刀した刀を左手に下げ、静かに佇む剣聖の弟子、
「お待たせしました、次で決めましょう」
「そうだね」
赤いオーラと弾ける青白い放電を纏う炎の巫女、納刀した刀と鞘に精神力を流し込む剣聖の弟子。
炎の巫女が地面を殴れば、リング中に炎の絨毯が敷き詰められ、同時に姿を消す剣聖の弟子、
当然ながら空中に姿を現した剣聖の弟子は両手で刀を上段に構えながら落下する。
しかし、その刀は鞘に納まったままだが、両手で剣を振り下ろすと同時に鞘から抜け、
光を発する刀身を振り下ろす。
空中から攻撃してくる事は織り込み済みと右肩から羽の様に炎を噴出させ、待ち構えていた炎の巫女の突き上げ、
打ち出す拳と同じ方の足をリングがめり込むかと言うほど踏み込み、拳に体重を乗せ打ち上げる。
ぶつかり合う術と力、ダメージは相殺されても、衝撃は体を蝕み、デバフを残す。
炎の巫女は圧力で中腰に・・・足は動かない。
剣聖の弟子は弾き飛ばされなすすべもない。
空中の剣聖の弟子に向かって拳から炎の塊を飛ばし、当たった剣聖の弟子はさらに飛ばされる。
地面に落っこちた所をもう一撃炎の塊を当てられ、焼かれ、
それでもフラフラと立ち上がったところに、リング中を巻き込む大爆発。
リングの上に最後に残ったのは生命力を一ドット残した炎の巫女。
[勝者!炎の巫女!決勝進出!]