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298.猛る獣

 獣の唸り声と共にリング中央に駆け込んでくるのは黒い毛並みの獣人。


 中央を一回通り過ぎ大きくバク転し、戻る。


 巨体に似合わぬ身軽さでその運動能力の高さを見せ付けるかのようだ。


 そして、自分の出番、ゆっくりとリングサイドから中央に向かう。


 [時折生まれる天才、その群を抜いた知能、運動能力、身体能力を持つ者をかつては英雄と呼んだ・・・]


 [しかしその力を狙う組織・・・現代の英雄は手を替え品を替えあらゆる策略で追い詰めてくる組織を力で跳ね除け、更なる力を引き出していたが、今日何の策も無く目の前に現れる一人の戦闘員・・・]


 [狩り時だとでも言うように、静かに得物を抜き、英雄の前に立つ]


 「YEEEE!」


 視界が歪み、黒い砂嵐が巻き起こる。


 [キルゾーン!この異相次元では戦闘・・・]


 「アオーーーーーン!!!」


 突如として心臓を鷲掴みにする様な遠吠えを上げる黒い獣人。


 すると砂嵐がやみ、真っ赤な世界が広がる。


 [ブラッディムーン・・・闇夜に溶ける獣人英雄の狂気の力を引き出し、強すぎるが故に封じていた真の身体能力を発揮する]


 徐々に赤い色彩が絞られていくが、白いリングはピンクに染まっている。


 獣を思わせる激しいグロウルとスクリームのBGMが流れ始め、


 自分は兜割を相手は片手用の曲刀を構える。


 [黒風VS戦闘員A!Fight!]


 トーントーンと軽く2回両足でステップする黒い獣人、着地と同時に足に緑のエフェクトを纏わせ、一瞬で間合いを詰めてくる。


 突きとも斬りとも見えるコンパクトな軌道で、振ってくるのを一歩飛びのき避ける。


 避けながら今の一撃だけで背中から冷や汗が吹き出るような感覚に、思わずニヤけてしまう。


 これだよ、この手練れのNPCを相手にした時の緊張感!これが無いとどうしても気が抜けてしょうがない。


 一気に思考がクリアになり、相手の剣を見ながらも全身を視界に納め、兜割を一振りして握りなおし、グリップを確認する。


 勢いに乗り、連続で斬りかかってくる黒い獣人の曲刀をあえて狙い打つ。


 スナップを効かせたそれは相手の手を痺れさせたのか、すぐに武器を引く黒い獣人だが、


 その引く手に合わせて、首を突けば、体ごと捻りかわされた。


 逆にその隙をつく様に胴体を斬りつけてくるが、


 そこに寧ろ一歩踏み込み打点をずらしながら、相手の奥襟辺りを抱きかかえるように掴む。


 肋骨に一撃入ったものの打点をずらしているので、大ダメージではない。


 逃がさぬように掴み、今度こそ喉に一撃突きこむ。


 刃の付いた剣ではないが、相手が衝撃にむせる。


 黒い獣人が強引に体を引き、掴みから逃れるが、今度は武器を持った方の腕を抱え込みロックして、


 空いている鎖骨に打ち下ろしの一打を。連撃で空いている小手にも一打。


 いずれにしても武器を持っている手とは逆だが、ダメージにはなったであろう。


 強引に腕を引き抜かれた所をさらに追撃しようとしたが、バク転で距離を空けられ、再び対峙する形になった。


 相手が大きく息を吸う。


 「アオーーーン!」

 「『かかってこい!』」


 ダメージの無い衝撃が体に当たる。


 予想通り士気下げ系の技だったらしい、こちらも<威圧>で応えることでお互いの士気を下げあい、士気差を埋め状況を保つ。


 相手が再び足に緑のエフェクトを纏うが今度は直線的には向かってこない。


 ならばと自分は<疾走>を発動、お互いリングを駆けながら、仕掛けるタイミングを計る。


 接触の瞬間に曲刀と兜割が触れあい、


武技 払い抜け


 黒い獣人の背後に廻り込み、後頭部を一打。


 クラついて動きの止まる黒い獣人に対して、自分は即座にしゃがみ兜割を左手に持ち替えて、足首を掴む。


擒拿術 照葉野茨

吸う右手


 黒い獣人が動き出すと同時に距離をあける。


 相手は片足が地面にくっついている。相手の死角から出ないように移動し、もう一度後頭部に一打。


 しかし、今回は昏倒せず、肘打ちのカウンターを貰う。


 距離を取ったところで、相手の剣に緑のエフェクトが纏う。


 咄嗟に兜割を納め、腕輪からプギオを引き抜き、体の前に構えると、


 緑のエフェクトが相手の体の回りに孤を描き、半円状の術が飛んでくる。


氷剣術 凍牙


 こちらも術で受け留め相殺、そのまま真っ直ぐ、プギオで突く。


 腕でガードされたが構わず、引き抜きもう一度突こうという所で、曲刀を振ってきたので、


 正中線からずらすように体を横に向け、かわした曲刀を持つ手の手首を逆手に持ったプギオで擦り上げるように切る。


 そのまま、振り上げたプギオで、逆手のまま横から首を突き抜く。


 相手も曲刀の柄でわき腹を打ってくるが、そこで急所判定、硬直が発生する。


 抜いたプギオを順手に持ち替え、黒い獣人の鳩尾を刺し、


氷剣術 紅氷華


 プギオを引き抜けば、氷片となり砕け飛び、破片が一粒地面に落ちるたび光の粒子に変わる。


 [世が世なら英雄と呼ばれ称えられていたであろう存在も組織の手によってその力を奪われてしまった。剽悍にして強靭なる戦士は人知れず霊子となって世界に返り、いずれまた運命と言う名の輪廻によって世界の危機に再びその姿を現すだろう]


 リングをあとにして、選手用宿の部屋の前にはいつだか世話になった黒い犬人族。


 「あ~やっぱり隊長だ~。匂いで何となく分ったよね~」


 「久しぶり、まさかこの大会に参加してるとは思わなかったけど」


 「決闘王は獣人の間じゃ今でも語り継がれる英雄だからね。休暇貰って挑戦しに来たよね。ところで負けたら勝ったヒトに何か貸し出すって言われてたんだけど、隊長だと何がいいかな?」


 「いや、別に何でもいいよ。寧ろ試合中、借りた物なんで使わなかったの?」


 「ん?少し使ってたよ。装備してるだけで防御力上げるやつとか、術の効果時間が延びるやつとか」


 「なにそれ、使いやすそうで羨ましいんだが・・・」


 「ん~、隊長に似合いそうな物か~・・・そうだ!」


 なにか思いついたのか、ごそごそと取り出すのは、なんかのパッド?


 「コレはね肩当!二の腕とかすかすかだから、これ着けたらいいよ!」


 シンプルな黒い肩当は何の甲殻で出来ているのか分からないが、皮ベースに亀甲の様な形に貼り付けられた硬い素材。


 なんか普通に防御力が上がるだけのようだが、こういうのが一番助かる。


 「それね、斬・打・突全部に耐性あるから、それで相手の攻撃受けると良いと思うよ!じゃあ、がんばってね!」


 そう言って立ち去る犬人族。


 いや、本当にこういうの助かるわ~・・・。


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― 新着の感想 ―
[一言] 釘バットとモヒカンっぽさが加われば、 世紀末スタイルになりそうだ。
[一言] まさかのキルゾーンキャンセルw そして見た目がちょっとだけ進化w
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