294.ミイラ男
現代の明かりに慣れた人間には暗すぎる。月夜の晩。
しかし、目が慣れさえすれば、十分に明るく自分の影すら見える様になる。
周囲はさらに暗い客席。まるで誰もいないかのように静まり返っている。
まるで虚無の世界に浮くリングが世界の全てのようだ。
ザザ・・・と雑音交じりで、時折音飛びする古いレコードの静かなBGMが流れる。
「組織は何故、我を復活させたのだ?」
虚無から低く恨めしげな声が聞こえてくる。
「我らはいずれくる神の世界に復活するために、肉体を残したと言うのに」
ずるずると、身を引きずるような足音が近づいてくる。
「この様な修羅の世界に中途半端な動く屍として復活させられたのは何故だ!!!」
リング上に現れたのは全身を包帯に巻かれ、黄金の仮面を被った男。
先端がドリルのようになった槍を掲げ、叫ぶ。
「何が怪人だ!馬鹿らしい!確かにヒトの枠からは外れたのかもしれん!しかし、我らは非道を成したくて、このようになった訳ではないぞ!!」
[組織は何人もの怪人を生み出した。時に実験体として、時に研究の為、そして生み出した怪人をヒーローたちと戦わせたのだった]
「YEEEE!」
視界が歪む、月夜の薄暗さと相まって、まるで色を失ったかのように、くすんだ錫色に浮き出す影が二つ。
[キルゾーン!この異相次元では戦闘員の身のこなしが50倍となり、影を追う事すら困難となる!(当社比)]
「組織の者よ・・・死後の希望を奪われた恨み晴らさせてもらうぞ!」
槍を構えるミイラ男に、抜いた兜割の切っ先を向ける。
[マスク・ド・ツタンVS戦闘員A!Fight!]
先制はミイラ男、槍の先端から砂の塊を飛ばしてくるが、
範囲はそこまでではないので横に避け、そのまま間合いを詰める。
そして、槍の穂先、ドリルの付け根を兜割で叩き、そのまま顔の黄金の仮面を殴る。
仰け反った所でさらに追撃で肩の付け根を突く。
槍を振り回してきたところで、一歩下がり槍を避け、一息入れなおす。
「くっ!流石!組織の者は一筋縄じゃいかないか・・・サンドストーム!!」
槍を空に掲げ叫ぶと、リング上に砂嵐が起きる。
防御しようの無い全方位攻撃術に身を縮める事しか出来ない。
数秒耐えると、ダメージは大したことが無かったが、足首まで埋まる砂。
足場が悪いフィールドか・・・思わず、ニヤけてしまう。
「砂地のフィールドこそ我が本領、行くぞ!砂剣!」
砂の地面を走る鋭い波、真っ直ぐ滑ってくるので、横に避ける。
この攻撃は連打できるのか、次から次へと滑ってくるが、
まあ、普通に避ける。避けながら距離を詰めて、殴りかかると、
「サンドウォール!」
足場の砂が盛り上がり壁になったが、勢いのまま思わず殴るとあっさり砕ける。
「ふん!サンドウォールは衝撃や熱を砕ける事で吸収する!」
すぐに再生する砂の壁に、位置をずらして攻撃するも、サンドウォールが地面から生える。
しかし、周囲をぐるぐると回るように、片っ端から攻撃していると、砂壁が追いつかなくなり、
ミイラ男の後頭部にクリーンヒットした。
グラついたところに容赦なく追撃を加えていく。
再起動したところで、槍を振り回してきたので、数歩下がって避け、次の攻撃チャンスを見極めてると、
「くっ・・・これはとっておくつもりだったが・・・砂葬」
地面の砂が盛り上がり、覆いかぶさってくる。
とにかく走って逃げながら、腰に引っかけた筒を取り出す。
逃げても逃げても、リング上の砂を集めて、どんどん大きくなる波。
リングの端に追い詰められ、砂の波に飲み込まれる。
「砂に埋もれ身動きが取れぬだろう?このままなぶり殺しとさせてもらう。どう思おうと構わぬ。死後の希望を失った我らの苦しみの一端でも受け留めるが良い」
砂に埋もれたまま背中を槍で突かれた。
どうやらそこまで深くは無いと予想し、何とか強引に筒を持った左手を砂から突き出す。
「YEEEE・・・(フェニックスフレアボム)」
「ん?なんだ?」
手元のスイッチを押し、筒を爆発。
尋常じゃない熱と衝撃を感じながら、地面に伏せる。
砂に覆いかぶされ、身動きが取れないまま、轟音に顔をしかめると。
砂の重さを感じなくなったので、立ち上がり、
「YEEEE・・・」
[砂は衝撃と熱を吸収する・・・]
倒れたミイラ男は光の粒子に変わっていく。
自分は砂をさらさらと体中から落とし、リングの上に立ち尽くし、
ミイラ男が消えたところに、遺物が一つ。
柄頭に金の蛇の意匠がついた短剣?太い針?のような武器だ。
[死後に希望を抱いて、動く屍にされた男は・・・かくして今度こそ真の安らぎに目を閉じたのだった]
ナレーションと共にリングを降りて、選手用宿屋に向かう途中。
「よう!凄かったな~奥の手まで使ったのに、あの大爆発は酷いわ!はは!その短剣だけど、普通に使えば、毒針。蛇の飾りをいじって、口を開けさせれば毒霧が噴出するからうまく使ってくれよ!俺に勝ったんだ、次も勝ってくれよ!」
なんとも明るいミイラ男だったわな。
借りた短剣は一応、プギオ用の腿に巻くタイプの鞘があったからそこに差しておきますか。