291.Bグループ連帯
連れられてきた酒場にはそう広くも無く席の大半は埋まっている。
それも、ヒーローっぽい人や悪の秘密組織か怪人ぽい人ばかりで・・・。
え?なんで正義と悪が一緒なの?
いや、いいけども。自分は特撮は好きだ。しかし正義と悪と言う構造はあくまで子供達に分かりやすい設定であり、それぞれに理由があって戦っている物語の方が好きだ。
つまり、利害が一致するなら、戦う必要が無いじゃんとか、敵役が味方に付くのも全然有り派だ。
にしても、ここまで大っぴらに一つ酒場に集まるってのもどうなのよ。
まあ、でもついて来てしまったものはしょうがない。空いてる席に適当に座り、お店のヒトにも悪いので、酒を一杯と簡単なつまみを頼む。
そして、店内に設置された小さな壇上にさっきの太陽の人が立ち、語り始める。
「さて、皆集まってくれてありがとう。今回来て貰ったのは他でもない。本選トーナメントの件だ」
ざわつかないという事は皆分かっているのか?自分全然分からないんだけど?
「一応説明させてもらう。さっき本選トーナメントのグループ分けと対戦表が発表された。そして、掲示板どころか主だった攻略掲示板、挙句にはゲーム内でもあからさまにこう言われている『Aグループが実質決勝戦』と」
皆、項垂れて悔しそうだが、反対の声をあげる者はいない。
自分がこの場に呼ばれたという事はBグループなんだろうな。
「それはそうだ。優勝候補の炎の巫女と剣聖の弟子がAグループラストで当たる組み合わせなのだから、そこが一番盛り上がるのは分かる。そして、Bグループがネタグループと呼ばれるのも分からなくは無い」
仮面してるのに、何でその二人が当たるって分かってるのよ。しかもBグループがネタって・・・ネタだわ否定出来ない。
「だが!俺たちだって負ける気でやってるわけじゃない!しかしこのままでは一部の変わり者しか俺達の戦いと本気を見てくれないだろう!だから!ネタと言うなら本気でネタをやってやろうじゃないか!そしてこの大会を盛り上げてやろうじゃないか!」
「話は分かるが、それはつまり演出をしてヒーローに私達が負ければいいのか?」
そう言うのはいかにも悪の組織にいそうなスタイル良いお姉さんが、黒皮のぴったぴたの衣装に凶悪そうな骨ばった長い尻尾の装備をつけているが、その尻尾が動いている事から、自在に動かせるのかもしれない。
「それは違う。闘技場は本気で戦う事を美徳としてる。そこを曲げればただのヒーローショウだ。本気の戦いに演出をつける。ここの闘技場はそう言うことが出来る。幸いスポンサーのNPCに子持ちの人がいて快く引き受けてもらえた。さらに出場者のNPCも意味は分かっていなかったが、凶暴な正義でも悪でもない獣人などキャラ設定でやる事自体は乗り気だ」
NPCの理解の良さが、凄いな。まあ、戦いに演出つけるのは前出た時もあったし、ヒーローショウ雰囲気の演出の方が、自分としては変に恥ずかしがらずにやれそうだ。
そこで、ブランデーと塩漬けのオリーブの実がきたので、飲みながら話の続きを聞く事にする。
「そこで、本選前で皆準備など忙しい事と思うが、それぞれのキャラクター設定等を提出して欲しい。それを元に演出をしてもらい、今回の大会の主役は俺達だったと言わせよう!俺達だって予選を勝ち残ったんだ!多くの人々の中を勝ち残り本選に出場するんだ。やるにもやられるにも派手に行こうぜ!」
酒場にいる人達の熱気が伝わってくる。
皆、言葉を発しないが、それはきっとそれぞれがどうやって戦うか、勝った時、負けた時のあり方を想像しているのだろう。
「あの、ところで皆設定ってあるんですか?自分無いんですけど・・・」
はっ!と一斉にこっちを見てくるが、自分は別に設定をつけてこんな格好してるわけじゃないぞ?単独で戦うのに適してて、顔を隠せる装備として一番良いと思ったからこの格好してるんだ。
「え?そうなのか???一番それっぽい格好してたからてっきり・・・何よりその全身タイツの着こなしと言うか板についてる感が、ちょっととって付けた様な雰囲気を完全に凌駕しているというか・・・もう日常的に全身タイツで過ごしているとしか思えないというか」
皆、そうだそうだと言うように頷いている。
「だって、あんた戦闘員Aって名前だろ?どう考えたって、悪の組織の下っ端が何らかの理由で一人戦わなきゃならなくなったみたいな・・・」
いや、自分【兵士】だもん戦闘員じゃん。
「あの、皆さんは普段その装甲の下の全身タイツっぽいの着てないんですか?」
「偶に着るくらいかな?」
「この大会用に新調したな」
「ここぞと言うボス戦の時に変身するようだ」
「いや、流石に普段からって言うのはパーティメンバーにも悪いし・・・」
え~・・・。何か恥ずかしくなってきたんだけど~。
「まあ、いい!この話に乗ってくれるなら、君の分の設定は俺が考えようじゃないか!」
「別に闘技場で演出付けられるのは、そういうもんだと思ってたので、問題ないです」
「そうか!じゃあ、まずだなさっきの事情によって一人で戦わなくならなくなったと言うのは良いと思うんだ・・・」
「下っ端怪人が普通にヒーローと戦えたらあれだから・・・」
「いっそ、負けた人はこれと言う装備を一個づつ大会の間だけ貸し出すと言うのはどうだ?闘技場なら壊れて紛失する事もないし、そこはNPCに仲立ちしてもらって・・・」
喧々囂々皆一丸となって大会を盛り上げる工夫を話しあい始める。