287.結末
【王国】外辺の街。細かい造型の家々が立ち並ぶ。
芸術家や職人が多く住む街。皆表情が明るく自由で開明的な雰囲気の中。
蔦の覆い茂る一軒の古い屋敷。古くはあるが、これはこれで趣があると街に溶け込んでいる。
そしてその中には、外の人達の明るい表情とは真逆の含み笑いをする者達。
ここは第10機関の隠れ家。
「自分の報告は以上だけど、結局黒幕は分かったの?」
「ああ、おかげ様でな。想像以上の結果に驚いてる。張り込んで金を受け取る所だけでも見つけてくれればと思ったが、芋づる軒並みホシを上げやがって」
「で?海方輸送隊長を第9機関長に調べてもらった?」
「その前に全貌が見えちまったんでな。もう早速に処分が下されるぜ」
「へ~それは、素早い対応だね。誰が黒幕だったの?」
「第12機関長だ」
「は?」
「第12機関長だ。上で承認されてる研究の為に巨大魔石が必要だったらしい」
「らしいって機関長ってトップじゃん。どうすんの?」
「どうするもこうするも、上で承認されてる研究の材料だからなお咎めなしだ。あのサイズの魔石だと正規の手段で手に入れるにも時間がかかる。それでやむを得ず密輸したらしい」
「じゃあ、皆お咎め無しなんだ?」
「いや、機関長以外は背任だからな。給料カットなんかの罰が下されるな」
「これだから、偉いやつは嫌なんだ。自分で作ったルールなのに自分だけは適応されないと思ってたり」
「まあ、そう言うな。第11機関は中立についたんだ。損は無いだろ?」
「ふう、でも、第12機関長は嫌いになったかな。トマスっていう第12機関の職員は?」
「ああ、隊長の事は一言も話していない様だぞ。口の堅さで、機関長に信用されていたみたいでな」
第12機関全部が駄目って訳でもないのか。研究職って言ってたし、意外と純粋で義理堅かったりするんだよなそういう人。
しかしまあ、聖石集めたり魔石集めたり、収集癖でもあるのかね?第12機関ってのは。
まあ、これで密輸の件は解決だ。自分の得意分野の【輸送】関係だったから何とかなったものの、次は何が来るんだ?
「そういえば、次の任務は決まってるぞ。また聖石の件だ」
「そう、聖石か~今度はどの種族の街に行くのかね~」
「次は闘技場だな」
「あんな人がいっぱいいるところに一発で見つかるじゃん」
「大丈夫だ。タイミングを待ってるって前に言ったろ?仮面武闘会の開催が決まった」
「なに?踊るの?無理だよ」
「闘技場なんだから戦うに決まってるだろ」
「分かってる。ちょっとぼけてみただけだろ。闘技場なんてゴリゴリに一対一を極めたヤバイ人しかいないじゃん。どうしろっての」
「ちょっと行って優勝して来い」
「だからそれが無理だから、次点の方法を聞いているんだけど?」
「隊長って前に炎の巫女に勝ってるんだよな?優勝候補だぞ?漆黒将軍」
「あれは、10回に1回の勝ちを一発目に引いただけ。実際向こうはかなりの手練だっての」
「だが、それしかないんだ。その大会の優勝者に聖石が受け継がれてるんだ。初代ライオン獣人、生涯無敗の【闘士】友人に騙され多額の借金を負い、負ければ死の覚悟で戦い続け、英雄となり、邪神の化身と戦った英雄だ」
「その英雄と仮面に何の関係があるのさ?」
「決闘王の称号と聖石は代々引き継がれるのだが、初代に対する敬意を示すためにライオンの仮面を被る。普段から被る者もいれば、大会の時だけの者もいるがな。そしてもう一つ、地位や身分に関わらず力のみが物を云うということの表明でもある」
「つまり、指名手配犯が紛れてても構わないと?」
「そういうこった。勿論武器制限はなし、道具の持ち込みは無しだが、複数武器は有りだ」
「せめて、もうちょい回復手段があればな・・・」
「今から<法術>覚える訳にも行かないしな」
「そういえば<復讐>ってスキル知ってる?」
「そりゃ、暗殺者御用達スキルだからな。不意打ち関係と潜伏関係と切り札の<復讐>ってのは定番だぜ」
「今から覚えたら、どれくらいものになるかな?」
「大会までにか、そうだな。くらったダメージの半分を乗せられる。一戦闘に一回」
「〔連結の首輪〕使ったら、精神力分も乗るの?」
「乗るぜ」
きた!切り札!大ダメージとか自分にとっては喉から手が出る程ほしいものだ。
「教えてもらう事はできる?」
「まあ、一応これまでの功績なら、教えてやってもいいか」
「じゃあ、次の任務まではその【訓練】で頼みます」
「いいぜ、じゃあ、まずスキルを手に入れな」
と、見覚えのあるでっかい本を持ってくる。
すかさず<復讐>を手に入れ、奥の部屋でセットする。
【教国】の隠れ家だけあって、ちゃんと【教会】の機能のある部屋が普通に設置されている。
そして【訓練】の出来る部屋に上司と行き。
「じゃあ、まずはボコボコにするか」
「何故?」
「そりゃ、ダメージ分攻撃に乗せる<スキル>だからダメージくらわなけりゃ使えないだろ?」
ボコボコにされる日々の始まりだ。