284.まずは下調べ
現場は【教国】はずれにある倉庫地帯。
倉庫地帯なので、働いている者以外は近寄らない。
まあ、倉庫地帯と言っても精々大きな倉庫が三つといくつかの建物が並ぶだけだが、そんなものだろう。
通りが広く、積荷を一時的に保管し、荷積み、荷下ろしに便利ならそれで良いのだ。
ここで、行き先ごとに更に小さな集団に分かれて荷物を都に運び込むのだから。
ほぼほぼ、イメージ通りの倉庫に働いている人達、
さて、小銭掴まされて浮かれて、言っちゃいけない事を馴染みの女にばらしちゃうお調子者はどんな悪さしてるんだかな。
「ねえ、ニキータ、思ったんだけど、例のお調子者を第9機関長に調べてもらえば一発じゃない?」
「何言ってんの?たかだか警備兵の下っ端一人を『あいつ羽振りが良いんです』って言って調べてもらうっての?第9機関長は忙しいんだよ?」
「いや、でも自分の時はあっという間に連れて行かれたんだけど」
「身分を考えなよ。噂には聞いてるけど、容疑者は【帝国】東部教区長と第7機関長と【上級士官】それも1000人長の称号も持ってるあんた。いずれにしても大物ばかり・・・第9機関長が自ら単独で裁くしかないだろ。内々に済ませたいって言う上の焦りっぷりすら目に見えるよ」
「つまり、もし上の人間が一枚噛んでたら、任せる事もできるのか」
「ふん、たかだか警備兵がそんな大きな事できるとは思えないけどね」
そんなこんな話しつつ、この倉庫地帯で働いている第10機関の手の者が、現れる。
神官さんのように他の機関に紛れて活動しているのだろう。
「さて、例のお調子者について話しを聞かせてもらっても?」
「ええ、でも良いやつですよ。皆が嫌がる夜勤を積極的に受けるし、夜勤の方が給料もいいんだから少し位羽振りが良くても・・・」
「そっか、悪いやつじゃないのか・・・。それは勤務態度が真面目って事?それとも他人に気遣いするって方?」
「勤務態度が真面目って方ですね。何でもよく確認するし、どちらかと言うと小心で、酒飲んで女の子の前でちょっと気が大きくなって、大きな事言ったり、悪ぶったりなんていくらでもありますよ」
「そりゃあね。気持ちは分かるし、あえて悪い部分を探して報告しろって言う訳じゃない。そんなに真面目な人なら、寧ろ荷抜きの疑いを晴らしてやりたいものだね。自分も【輸送】担当で、しかもしこたま稼いでるから色々やっかまれるんだよ」
「え?そうなんですか。まあ身分とか事情は聞いてますし、多額の寄付もしてるって聞いてるんで自分は悪い印象無いですよ」
「そっか、疑う訳じゃないんだが、一応その夜勤のシステムを聞いてもいいかな?」
聞いたところ夜は宿直室で四人体制、見廻りは二人づつ、仮眠も二人づつ。
宿直室から3つの倉庫の入り口は全て見える。
つまり見廻り二人がグルでも、監視されている。仮眠の間はというと流石に外に出る気配があれば分かると。
しかも組む相手はいつもバラバラである事が多いらしく、狙ってその日だけ組むなんて事は出来ない。
突発的荷抜きなら、当然目録にズレが出る。
都度都度共犯者を仕立てているならもっと目立ってもおかしくは無い。
うん・・・無理だね。
「参考になった。こりゃよくできてるし、ちゃんと上に報告するよ」
「そうですか!お疲れ様です!」
「そうだ、勤務外に一杯やりなよ」
そう言って、酒を一瓶渡す。
「これは、すみません。夜勤の気付にでもちょっとやらせてもらえます」
「え?あんた夜勤中に呑んでるの?」
「いやいやいや、気付程度ですよ。何も無い夜間ずっと起きてるのって結構辛いんですよ」
「ああ、分かる。きついよな夜の番て、でも飲み過ぎだけは注意な」
「はい!気をつけます!それでは」
そう言って立ち去る潜伏第10機関の人。
「ふん、あんた本当にやって無いと思ってるの?随分と同情的だったじゃないか?」
「ん?夜勤で賄えるほどの羽振りの良さじゃないんでしょ?じゃあ、何か悪さしてるよ」
「悪い男だね。同情する振りして、油断させようってかい?でももしあいつが共犯なら今頃舐められてるんじゃないのか?
「油断してくれてるならそれでいいさ。ついでに尻尾も出してくれればいいのに」
「ふーん、ところでそろそろ昼食にしない?」
ふと、一人の作業員が一つの箱を抱えて倉庫とは別の小さな建物に近づいていく。
すぐに追いかけ声を掛ける。
「その荷物どこにもって行くんですか?」
「え?これ?行き先間違いだから一時保管所。送り返すのか正規の送り先に送るのかは連絡待ち」
「へ~見たところあの小さな建物が一時保管所?」
「そう、たまに紛れてる程度の物だからね」
「ちなみに倉庫に鍵は?」
「夜間だけだね。宿直室に置いてあるよ。昼間は人通りがあるから、勝手に入れば分かるし、一時保管所の物なんて所詮は一般品だから、盗まれたところでお酢を12瓶ばかり持っていかれて困るとか言われてもな」
「ああ、それはお酢なんですか?」
「いや、例えばさ。目録に載ってない一般品の中身なんて分かる訳無いじゃん」
そして、そのまま荷物を持っていく作業員。
明らかに宿直室から死角になる建物。
「おい!ここらは食事できる所少ないんだから、混む前に・・・」
「造物主が用意した、めぐりあわせというものは、それに気づいた賢者に、光の道を照らすものなのかね」
「え?頭使いすぎておかしくなった?」
「造物主が用意した・・・」の台詞は最近観劇して凄く面白かった舞台の台詞です。
単純にリスペクトなのであまり気にしないで下さい。