28.騎兵青年とおっさん
その日は、たまたま気が向いたので【輸送】クエストを受けたのだが、ニューターが荷受をしていた。
珍しいこともあるものだと思う。
ただでさえ、過疎で有名な【帝国】で、さらにサブでしか取らないって言われてるジョブ【兵士】のさらに誰もやらないって言われているクエストを受けている僕自身こそ本当に珍しいなと思ってたのに、さらに地味な荷受とかやってるとか尋常じゃないほど変わってる地味なプレイヤーがいる。
もしかしたらこの人にも何か目的があるんだろうか?
そもそも僕が、このゲームを始めたのは乗馬の趣味で知り合った妻が落馬して怪我をしたことが発端だ。
できるだけお見舞いに行って、治ったらまた一緒に馬に乗ろうって言う約束もした。
ある日、妻が病院の先生の勧めに従って、ゲームを始めたのがコレだ。
どうやら、治験で行われてたβテスト中に妻は、かなりこのゲームにはまり込んだみたいで一緒にやろうと誘ってくれたのだ。やらないわけが無いだろう。
しかし、すでにゲーム内でも有名なプレイヤーである妻に簡単に追いつけるはずも無く、だからと言って僕に合わせてもらったんじゃ、妻に申し訳ない。
なので、僕なりのサプライズとして、馬に乗れるようにしようと思ったのだ。妻のいる【帝国】で馬に乗る方法といったら【兵士】になるしかない。
噂では、<騎乗>スキルを上げていくと二人乗りができるアビリティも存在するらしい。
攻略通りに「狩人」を取って魔物を狩りその素材を【兵舎】におろすことで、どんどん貢献ポイントを溜めて【軽騎兵】になるまでは順調だった。
しかし【軽騎兵】の馬は、馬じゃなかった。シェーベルていう鹿のようなごつい山羊のような生き物だ。山地なんかはすいすい駆け上がるんだけど。上下運動が激しすぎる。
それでも、慣れるべく地道に輸送任務なんかをこなしている。任務以外だと借りられないからね。
ゆくゆくお金をためて、自分の馬を買って彼女と二人乗りをするのが目標だ。
ただし、【兵士】は儲からない。<使役>て言う手段もあると最近の攻略にはあった。かなり迷う。
さて、この地味なプレイヤーだけど、もしかしたら【帝国】プレイヤーでちょっと噂の【兵士】ロールの人かもしれない。
【兵士】の格好して【巡回】してるって噂だったけど。荷受までしてるじゃないか、となると【兵士】スキルについても詳しいかもしれないし、ちょっと聞いてみよう。
「すみません、プレイヤーの方ですよね?」
「まあ、左手見て分かる通りそうだけど。はじめまして。何かあったかい?」
「失礼しました。はじめまして、僕は見ての通り【軽騎兵】なんですけど、<騎乗>系スキルで二人乗りのアビリティを探してまして」
「ほ~ん、なるほどね。まあ、自分は分からないけど」
「ああ、やっぱりそうですよね?攻略サイトでもあるらしいとしかなかったし」
「攻略サイトは見てないけど分からないことはヒュムに聞いた方がいいよ。この世界の人なんだから自分らよりよっぽどいろいろ知ってる」
「そういうヒントをくれるNPCが居るって事ですか?」
「いや、この世界に住んでるんだから、先人に習うのは当たり前じゃないの。自分らはあくまで、よその世界から神に呼ばれて仮初の肉体を得ただけとかそんなだろ?」
「まあ、設定では、そうなりますけどね、別にNPCに危害を与えようとかそんな気はさらさらないですけど、普通に暮らしてるとか言われてもですね?」
「最近のAIは進んでるって言うし、何とかシミュレーターだ何だとあるんだし、普通に生活できるんじゃないの?とりあえず【古都】の訓練場の教官はスキルとか詳しいよ」
「そうですか、教官ですか。【訓練】ってクエストがありましたね、ありがとうございます」
「いいよいいよ、誰と二人乗りするか分からないけどがんばんなよ。目標があったほうがゲームも楽しいだろうし」
なんか、変わった人だ。本当にゲームで生活しているみたいだ。まあ、見かけるタイミングは大体三日に一回って話しだし、会うタイミングが一緒だったって事は、普通の勤め人なんだろうけど。
しかし、行き詰まりかけてた二人乗りも何とかなりそうだし、希望がでてきた。確かにあの人の言う通り目標があったほうが楽しめるな。
彼女に追いつくのは、難しいかもしれないが、何とかこの目標だけは達成しよう。
ちなみに妻は自覚は無いが、有名プレイヤー板でも結構名前の挙がってくる本当のトッププレイヤーだ。
ついた二つ名は「白い黒神」。意味は分からないが、可愛さは確かに神だ。
白と黒ってことは、ペンギン的な可愛いさを指してるんだろうか。雪国だし。
一応チェルノボグは、スラヴ神話に出てくる、夜や闇、破壊と死、冥府の神・悪神となっております。
要は、白い○神