279.楽しいクラーケン狩り
海に浮かぶ流氷を飛び移り、クラーケンに向かう。
しかし嵐の岬の面子の動きが鈍い。
ちょっと小船に寄り、話しかける。
「どうしたの?相手の動きが鈍いし、行くなら今だよ?」
「いや、隊長は寒くないんですか?」
ああ、そう言うことか~温暖な【海国】だけあって皆涼しげな格好してるわ。
いや、アンデルセンの切り札に天候が変わる物があるんだから、備えてないと・・・。
「分った。適当にお酒出すから近くの小船に配って!」
そういって【鉱国】の度の強い火酒を出す。引火する酒だが、普通に飲めるし、飲めば耐寒がつく。
勿論お酒だし酩酊状態にもなるが、飲みすぎなければ多少ふらつく程度だろう。
海に落ちてもまあ・・・酔っ払って冷たい海に落ちるのはヤバイな。
まあ、ゲームだし、諦めろと折角のチャンスに動けないよりはマシだろうと。
適当に小船によってはお酒を渡しつつクラーケンに近づいていく。
そして、接敵。
流石にバルトは対応して、いつの間にか黒くてワイルドな羽毛のコートを着ている。
昔の歌謡ショウの様だが、まあ温かければそれでいい。
久しぶりにバルトと二人並んで巨大ボスに斬りかかる。
バルトは相変わらず、大剣でどでかい一撃を打ち込む。
自分は一先ずメインウエポンのショートソードで斬りかかる。ざっくりとクラーケンの身に傷をつける事が出来たので、今回はコレで行く。
時折、触腕を叩きつけてくるが、流氷の上でブロックしては諸共沈められそうなので、流氷を飛び移り、避ける。
クラーケンを攻撃している内に後方から矢が飛んでくる。
ぼちぼちと皆戦線復帰し始めたらしい。徐々に攻撃が激しくなる。
すると急に海中に沈むクラーケン。銛が刺さって深く潜る訳ではないが、何をしているのか?
再び海面に姿を現し始めるが、何故か足からはえてくる。
そして胴体が出てくるかどうかという所で、空に向かって黒い物を吐き出す。
その黒い物は空高く飛び、あるところで弾けて、黒い雨を降らせる。
その黒い雨に当たるとべったり服に黒い粘液が付く。
特にデバフになっている様子はないが、次から次へと振って来て、若干体が重いかもしれない。
しかし、方々から叫び声が聞こえる。
雨が止まると同時に、周りの様子を見ると、軒並み真っ黒に染められている。
そして、皆膝をついたり転がったりしながら、顔を押さえている。
「バルトどうしたの?」
「隊長は大丈夫なのか?俺は目をやられた。しかも何かが顔にべったりついてるから、薬じゃどうにもならないやつだ」
ああ、墨吐いたのか。自分は偶々ゴーグルをつけてたから免れたのだろう。
「おおい!海に飛び込めば落とせるぞ!!」
そういう声がどこからともなく聞こえてくると、皆次から次へと飛び込む。
・・・いやいやいや海いま流氷が流れるほど冷たいぞ?
案の定そこらじゅうからあまりの冷たさに悲鳴が上がっている。
これ船に上がってからも、多分寒冷系のデバフを解くまでは何も出来ないやつじゃないか?酒だけで何とかなるかな?
兎にも角にも自分が時間を稼ぐしかない。自分が持ちうる最大の切り札と言えば、
<青蓮地獄>
白いエフェクトを身に纏い。海に剣先を漬けて精神力を込めると、剣先から徐々に海面が凍り始める。
瞬く間に白いフィールドが形成され、フィールドの外周はトゲトゲと氷が突き立っている。
勘で、海に氷剣術を使ったが、どうやら足場を造れるらしい。もっと早く使えばよかった。
フィールドの半分にクラーケンを捉え、殆ど動かない。
一気に距離を詰めて攻撃すれば、さっきまでの手応えと違って、なんかシャーベットのようだ。
サクサクと切れば、体が分解されていく。
とは言え、なにぶん巨体だ。体表から徐々に削り取っていくような状態だ。
それでもクラーケンは嫌がるように蠢き、時折白いフィールドが揺れる。
しかし、今は自分のターン!削れるだけ削っていく。
揺れの間隔が狭まり、遂に足場が崩れ、海中から足が飛び出し、襲い掛かってくる。
急いで、流氷を飛び移り逃げる。
途中でいくつか小船が転覆するが、クラーケンさんはお怒りだ。
逃げて逃げて、ふと殺気を感じなくなり振り返るとクラーケンを挟むように左右一列づつに並んだ小船。
右はクラーケンの奥に左はクラーケンの手前側に回り込んでいく。
そのまま、クラーケンを掠める様に近づいていくと、先頭から順に一艘一発づつ爆弾を投げて、そのまま抜けていく。
物凄い勢いで削ってるっぽいんだけど?最初からやればいいのに。
一通り投げ終わるとクラーケンがかなりグロッキーだ。
最後の力を振り絞るように空に向かって、足を一本づつ上げていく。
じゃあ、邪魔しようかね!クラーケンに近づき、剣を突き刺し、
凍剣術 獄蓮華
動きの止まるクラーケン。
ただの<氷剣術>の場合膨大な生命力を持つ巨大ボスに対しては今一効きが悪い紅氷華だったが、
<青蓮地獄>状態ならば、効かない事もない。
しかし、いくら精神力を注ぎ込んでも、手応えがない。
已む無く〔連結の首輪〕を使用し、生命力までつっこんで、何とか凍らせる。
完全に動かなくなった所をバルトがとどめをさす。
大量の瘴気を発しながら姿が溶けていくクラーケン。
残るのは打ち込まれた巨大な銛。
黒地の金属になにやら文字らしき物が刻み込まれているが、細かすぎて読む気になれない。
多分これが、瘴気生物を倒すタネなのだろう。




