278.クラーケン討伐
皆小船に乗り込んでいくが自分はどうしようかなと辺りを見ていると、
どうやらアンデルセンとアン・ボニーは待機組のようだ。
「二人はいいの?」
「俺は術を使うタイミングを見定めるのが最重要だからな、全軍の見える場所にいる事が多いな」
「私も全軍の動きが見えないといけないので、残る事が多いですね」
つまり、母艦であるこの船が指揮所ってことになるのか、自分もここにしておきますかね。
クラーケンに小船が近づいていく。
限定された範囲とは言え、海に小船が広がり埋めていく姿は見ものだが、逆に逃げ場も無くなってしまうのではなかろうか?
闇雲に埋めればいいと言うものではない。隙間や空間を空けるということは、何も無いと言う事ではない。
逃げ場、未来における次の足の置き場として空間を空けておく必要はあるだろう。
茶碗は真ん中に空間が空いているから意味が有るとでも言ったところか。
クラーケン真正面最前にバルト。
アンデルセンがチラッとこっちを見てくるので、
「まあ、今回は自分の出番が有るか分らないし、最初くらい『行くぞ!』」
戦陣術 激励
「うおっし!相変わらず、隊長のは効くぜ~!」
「アンデルセンの士気が上がってもな。まあ、でも全軍盛り上がってきてるし、まあいいか」
「んじゃあ、まずは一発かますぞ!後方奇襲だ!」
アンデルセンが叫び、術を使用すると、船が数艘消えた。
まあ、後方奇襲と言ってるのだから、クラーケンの後ろに回りこんだのだろう。
時折海中から伸びてくるクラーケンの足に貫かれる小船。
嵐の岬の面々は流石に【海国】のクランだけあって泳げないという事は無いらしい。
小船が壊れる度に海に飛び込んで、近くの船に乗り込みクラーケンに向かって行く。
そして、接敵。バルトが派手に一発かます。
大剣に術を纏わせて、はるか後方の船上からもそれと分る一撃を入れている。
開幕一発目には十分な雰囲気だ。こういう盛り上がっていく感じ嫌いじゃない。
そのまま、前面から次々と攻撃を仕掛けていく。
基本はやはり囲んで攻撃なんだな~。
そして、クラーケンの攻撃で小船が少しづつ減っていく。
しかし、アンデルセンもアン・ボニーも動かんな~。
「二人とも、いいの?折角攻勢なんだし、ガンガン行かないの?」
「いや、大抵のボスは追い詰めるほど強くなるからな。後半にとっておいてるのさ」
ペース配分て事か。う~んその辺は主義の差だしな。自分は序盤防御で相手の出方見るしな。
「じゃあ、自分が一旦使っておく?って言っても、ダメージより小船消費が早いみたいだけど」
「そうなんだよ。海の上だと船の残数が重要でな。結局の所足場を削られる前に、削るって言う部分があるんだよ」
え~じゃあ、ガンガン行けばいいのに。
そうこうしている内に、爆発音。
何事かと思えば、最初に背後にまわった勢が、樽爆弾を使ったらしい。流石【海国】大ダメージと言えば、爆弾だな。
そこで、一旦クラーケンの動きが止まり、海上に全ての足を挙げる。
やばい雰囲気に、身構える。
空が暗くなり、海から竜巻が立ち登り、フィールドを荒れ狂う。
次から次へと小船が吹き飛ばされていく。
う~む、コレが陸地なら密集して岩陣って所なんだがな。吹き飛ばされる小船を眺める事しかできない。
竜巻がおさまり、空も明るくなる頃には、海の見える面積が増えている。
「あ~大丈夫なの?」
「う・・・まあ、ここからだろ?」
「いや、ここからって、防御術なんか張って無くてよかったの?」
「隊長も何も出来なかったろ?俺も【帝国】で<戦陣術>学んでるのよ。分るだろ?」
「えっと、アンさん?」
「私は陣の動かし方は分りますが、術のことは分りません」
一芸特化の専業過ぎるわ~。こういう時に能力は中途半端でもゼネラリストが間を埋めないと・・・。
自分か~。こう言う時の為の自分か~。
いや、しかし術でも、陣動かすのも、これと言った対策が打てないか。
船を守るって言う戦い方は、ちょっと分らんな~。
「ま、ここからが俺の出番だぜ!天の時地の利を知ってこその軍師よ!ミランダ様より習った術の使いどころだ。破天候!」
空が暗くなり、大雨が降りだし、雷が鳴り始める。
「え?相手有利じゃん?」
「えっと、足止めに有効な悪天候を作り出す術のはずなんだが・・・?」
「いや、相手はこういう環境に住んでるんだから、駄目じゃん」
「えっと~どうするか?」
「逆に海を干上がらせたり、高温にしたりとか」
「ああ~逆に流氷が発生するほど、寒くする事は出来るぜ」
「それじゃん!、今必要なのそれじゃん!」
「よ、よし!荒涼!」
雷雨はやみ、分厚くどんよりとした、くもりとなり、寒風が吹く。
海面の小波といい、絶妙な暗さといい、重く心を押さえつけ、浮き立つ事を許さない空気。
どんどんと気温が下がり、海の飛沫が凍り体を斬りつけてくる。
嵐の岬のメンバーが徐々に体を縮こませ、心なしかクラーケンも動きが鈍く見える。
海上に氷片が現れ始める頃には世界の動きが止まったように感じる。
ゆっくり吐く息が白く漂うと、
完全に調子を取り戻す。斬りつける様な寒気が頭をどんどんクリアにしていく。
剣を抜き、自分の心を押さえつける大自然の重圧に寧ろ足場がしっかりしてくる錯覚を見る。
飛び石のような流氷を難なく飛び移れると、ただの確信に船から飛び出す。