277.クラーケン襲来
いつからか降り始めた雨、雷鳴が鳴り響く。
ゲーム内とは言え、海上の嵐、しかも外は真っ暗となると中々の雰囲気だ。
ギシギシと木製の船のきしむ音。皆船内に篭り、静かに過ごしている。
ハンモックに転がり目をつぶる者、テーブルを囲みトランプでちょっとした賭け事をしている者。
装備品の手入れをする者、冗談を言い合い駄弁る者、何をするでもなく佇む者。
自分は、食堂で簡単な物を作り食べている。
当然理由はある。暇さえあれば食ってるわけじゃない。
この嵐がクラーケンのいる海域を現していると聞いたからだ。
昼でも夜のように暗くなり、嵐と雷の止まぬ海域にクラーケンはいるという。
まさに、この辺りの事だろう、なればボス戦の前は飯を食う!そう言うことだ!
なんとなく船内の様子を眺めながら、調理場で炙ったソーセージを食べていた。
揺れる船内でスープを飲む気にもなれないし、揚げ物も駄目だろう。
ギシギシ・・・バキ!「ぐぐぅ・・・」
と異音捉えた。食堂の裏手は外に面した回廊になっている。
そう言えばさっき一人、リフレッシュする為にちょっと外の空気吸ってくるって出かけた人がいたなとちょっと様子を見に出ると。
巨大で極太の海生軟体動物の足が船の壁を突き破り、人を絞めていた。
「出たぞーーーーーー!クラーケンだー!!」
即叫び、他のプレイヤー達を呼ぶ。
外が暗いので、明かりを持ってくるプレイヤーが多く。照らし出されたクラーケンの足は、黒く中途半端に透き通った質感だった。
そして何よりその異臭で、思わず背中に手を伸ばし剣を抜くが、それは宝剣ではなかった。
そりゃそうだ、返却してしまったのだから。剣を背中に戻す。
瘴気生物化したクラーケンから距離を取る。今は何も出来ない。
さっき絞められてた人は既に足の中に取り込まれてしまった。そのまま足が穴をあけた壁から船外に出て行った。
甲板にあがる為に嵐の岬の面々は中に引き返すが、
ばたばたと狭い通路で、立ち往生している場合じゃない。
回廊から船の外壁を伝い甲板に上がる。
嵐の岬の面々はポカーンと口を開けて見ているが、さっさと上に集合した方がいいと思うぞ。
甲板には既に幹部勢は揃っていた。
「出たよ!一人やられた!」
「こっちも一人だ。そろそろかと思って、甲板に出たところをいきなりだ」
「で?これからどうする?」
「どうするもこうするも罠がある場所まで一目散に逃げるしかねぇな。硫黄みたいな匂いから、完全に邪神の尖兵だろ?アレ」
「そうだね、明かりで色も見たけど間違いない。普通の武器じゃどうにもならないから、さっさと逃げるのが得策だけど、ついてくるかな?」
「それは問題無さそうだぜ、既にこっちを狙ってるのは間違いない」
そうして、バルトが艦尾の方を指すので、そっちに行くと・・・。
海から黒いクラーケンの足が伸びてきた。速攻走って離れたが、クラーケンの足は甲板を一叩きして、海に消えた。
「とまあ、あんな感じで、追ってきてるのは間違い無さそうだ」
「無さそうだじゃなくて、言っといてくれないと捕まったらどうするのさ」
「まあ、隊長なら大丈夫だろう」
その後も全方向警戒しているが、どうやら艦尾に近づきさえしなければ、襲われないようで、ほっとしている。
雷の閃光で照らし出される甲板、そして海。
自分とバルトで甲板の真ん中に陣取り、船尾を睨み、様子を窺っている。
他の面子は船内に戻っていった。取り合えずは船尾側に行かない事だけを指示して。
何も出来ないってのがなんとももどかしい。
時折甲板上に何かいないかクラーケンの足が一本、二本、探りに来るが、
常に足から適度に距離を取り、捕まらないようにだけ気をつける。
一発当たれば取り込まれる瘴気生物。
ただでさえ厄介なのに、それが巨大で更に海の中にいるとは厄介この上ないな。
ふと、雨が小雨になり、雲が薄まり徐々に明るさを取り戻してきた。
するとバルトが操舵主に指示を出し始める。
自分は船の舳先の方に向かい、船の行き先を確認すると岩礁地帯だ。
特に大きな岩が爪の様に飛び出し、そんな岩に囲まれた空間で、船が止まる。
船が止まると同時に船尾をクラーケンの巨体が捕まえ始めた。
特に長い触腕が二本甲板上を這い。他の足で船に抱き着いている。
そして、急にびくっと痙攣して、動きが止まる。
何度かびくっと痙攣して一瞬動きが止まると思っていたら、
周りの爪のような岩場から紐付きのぶっとい銛がバリスタで発射されて、クラーケンに突き刺さっていた。
そのまま、ずるずると船を放し海の方に行くクラーケンをなんとなく追うように船尾に行くと。
爪のように伸びた岩に囲まれた空間が戦場らしい。
丁度中央にクラーケンが佇んでいる。
「よし!隊長。あの銛が突き刺されば、普通に攻撃できるようになるぞ!行こうぜ!」
「どうやって?泳いで?」
「何言ってんだ。小船が回りに沢山用意してあるだろ?」
船の下を覗き込めば、確かに沢山の小船があり、嵐の岬の面子が乗り込み始めていた。