276.嵐の岬船上
「久しぶりだな隊長。指名手配になってる割には普通にNPCとつながってるとか相変わらずよく分からないやつだな」
「まあ、ね。自分でも最近まで散々警戒して人のいないところを隠れ潜んでいたんだけど、どうやら一部のNPCが自分に指名手配をかけていて、自分が仲良くしてきたNPCは味方してくれるみたい」
「つまり、隊長を追うNPC、何も知らないから警戒するNPC、隊長の味方をするNPCに分れるわけか。んで、味方してくれるNPCを増やさないとお話にならないと・・・」
「そう言うこと、大っぴらに動けない状態で、密かにクエストをクリアすることで、徐々に味方を増やして行けるんじゃないかな?」
「大体理解したぜ、まあ隊長には前々から世話になってるし、ゲームを続けられる時点で規約違反した訳じゃなかろうって事も分かってたしな。大船に乗ったつもりで、うちの今の戦闘を観戦してくれよ。隊長の船だがな」
「助かるよ。うまく行けば第2機関長の覚えが良くなるらしいんだよね」
「機関長ってことは【教国】絡みか?まあ、いいか。そんな事より今回の獲物の話をしよう」
相手はクラーケン、大イカの化け物。
なんで自分じゃない時はこういう王道の魔物が出てくるのさ!
ただし、何もない海上で倒すにはあまりにも分の悪い相手ゆえに、船を餌に連れ出して、戦いやすいフィールドでやるとか。
クラーケンは執念深く一度狙った獲物はどこまでも追うらしい。
しかし、船に大砲をつけたりは出来ないので、罠を張ってある決戦場まで引き込み、削り、最終的には皆で殴るとそう言うことだ。
正直集団戦関係なくね~~?って思ったのだが、よく考えたら自分は海上の集団戦の作法を知らない。
前にやったときもごちゃごちゃになって、乱戦しただけだった。
海のやり方ってやつを見せてもらおう。果たして自分の出番はあるのか?
「そうだ、うちの集団戦専門のメンバーを紹介しておくか。隊長を目標に一直線に集団戦を育てた専門プレイヤーだ」
「なんか、バルトの所ってそういう一芸特化の人多いよね」
「そういえば、そうだな。隊長は割りと何でもやるタイプだもんな。まあ、いい」
バルトの所の陣容は現状
頭のバルトが切り込むことで、隊の士気上昇を司り、何より最優先攻撃目標を見失わないようにする本隊主攻型。
副官ポジションのアンデルセンが術を使用し隊全体の士気をコントロールしつつフォローしていく。
そして、後足りなかったのは、戦場を把握して隊を動かす、指揮官。
基本はバルトの後を追う本隊だが、ただ突っ込むだけでは成り立たない戦場を組み立てる為に複数の隊をうまく動かせる人間が必要だ。
それが、集団戦専門プレイヤー、アン・ボニー。
「えっと、アンて呼べばいいの?」
「はい!よろしくお願いします!隊長の噂はかねがね聞いていますし、まとめサイトなどで動向や噂が上がる度にチェックしております」
「ええ?自分はそんな噂になるような事はしてないけど」
「まあ、隊長ってのはこういう奴だから、あまり気負わなくていいぞ」
ふむ、元気なお嬢さんだ。
しかし、相手は海の怪物クラーケン、イカが魔化して魔物になったのか?
それだけならいいが、邪神の尖兵に対応する機関が関わっているって事は下手したら瘴気生物化してる可能性もある。
宝剣返しちゃったんだよな~。
「ねぇ、今回の相手ってさ、邪神の尖兵じゃないんだよね?」
「邪神の尖兵らしいぞ、俺達が今やってるクエストは邪神の尖兵が出てくるやつだからな」
「え?そうなの?じゃあ、宝剣とか持ってるんだ?」
「何言ってるんだ?宝剣て、前に隊長が背負ってたやつだろ?俺達は人数がいるんだから、そんなに沢山イベント装備を支給されたりはしないだろ?【教国】と協力して戦闘するだけだ」
「・・・?つまり嵐の岬の場合クラン全員で同じクエスト受けてるの?」
「ああ、そうだぜ?多分クランに所属しているとクランクエストになるんじゃ無いか?」
そうなんだ。自分は特に所属してないから一人用クエストだったのか。
「ふーん、そうなるとクエストをクリアすると何か精霊的な物に力を貰ったりしないの?」
「海が綺麗になる毎に俺達の力が増すらしいが、今のところはよく分らんな」
なるほどね。コレ全部クリアすると海の精霊とか母なる海の象徴的存在からステータスの上限を解放してもらえるやつだな。
皆順調に強くなっていくな~。自分も指名手配になって、停滞してる場合じゃないな。
師匠に【訓練】つけてもらえないなら、それなりに実戦経験積んで、成長できる余力をつけるとか、やることは無くならないな。
まあ、とりあえずはクラーケンだ。嵐の岬に便乗するようで申し訳ないが、余力をつけさせてもらおうか。