275.ちょっと立ち寄るプーエール・リコ
マンボーさんと海を泳ぎ続け、見覚えのある島に辿り着く。
まあ、ここまでは実は一人でも行ける場所なのだが、プーエールリコだ。
正直に言うと魚人街への直行路が有ると思っていたのだが、マンボーさんの泳ぐままに任せてついていったら、辿り着いてしまった。
「寄って行くんですか?」
「うむ、領主の息子に以前世話になったからと秘密裏に協力したいと頼まれていてな」
「しかし、身分や立場がある方がそんな事言っちゃまずい気がするんですけど」
「ふむ、しかし【教国】第2機関とつながりがあるらしいぞ?」
「え?中立の第2?助かります!」
「よし、じゃあ呼んでこよう。適当に上陸して待っているといい」
と言われたので、都の近くの畑の影で待つ。
安定のサトウキビ畑、身を隠すには本当に助かるのだが、衛兵さんがたまに見廻りに来る。
自分は殺気じゃないとスキルで感知出来ないので、普通に五感で見つけるしかない。
じっと、目を凝らし、道を監視し、足音が聞こえないか警戒する。
以前は普通に見つかって、ご飯を貰ったが流石にそういつもうまく行くとは思えない。
ひたすら、走り続ける分には逃げる自信があるが、動かずに隠れると言うのはなんとも緊張するものだ。
農家のヒトはかなり遠くで作業している。道からもそれなりに離れている。
息を潜めいざと言う時は走って海に飛び込む算段もつけた。
どれくらい待っただろうか、一瞬のような気もするし、かなり経った気もする。
「隊長さ~~~ん!」
領主の息子の声だ。いや、指名手配犯の名前を思いっきり呼んでるんだけど?秘密裏はどうした?
顔を出せば、駆け寄ってくる。
「あの、一応自分は指名手配犯なので、もう少し配慮の方をお願いしたいのですが・・・」
「大丈夫ですよ!この島で隊長さんを追うような者はいませんって!それよりも、早速ですが【教国】に指名手配をかけられているんですよね」
「ええ、まあ、あながち冤罪とも言い切れなくて」
「でも、きっと隊長さんのことだから事情があったんでしょう?それでですね、取引のある第2機関長から色々お話を聞けまして」
「そうですか。穏健派で中立を保っていると聞いたのですが」
「ええ、主に漁業関係と海の邪神の尖兵の動向を探る役割の方ですね。この島は大陸に近いので良く取引させていただいてます」
「ほ~なるほど、一応自分としては【教国】は機関長の多数決で方針が決まると聞いているので、一人でも味方につけたいんですよね、せめて事情を斟酌してもらいたい」
「事情って聞いてもいいものですか?」
「多分【教国】の醜聞に当たると思うので、どうでしょう?」
「やめておきましょう。あえて聞かずとも僕は隊長さんを信じますよ。それに指名手配されているにも関わらず【教国】に不利になる事を安易に口にしない隊長さんはやはり好感が持てますので」
「いや、自分も何だかんだ慎重になっているだけですよ。基本的に他人に言われるまま流されていたら、こうなってしまったので、もう誰を信じたらいいものやら」
「そうでしたか、こんな状況になっては確かにそんな思いを抱いてしまっても仕方ないでしょう。しかし第2機関長は完全に中立ですので、僕が隊長さんの人間性を保証すると共に、手土産があれば」
「手土産?」
「ええ、先程もお話しましたが、海の邪神の尖兵に警戒するのも第2機関長の仕事です。今とあるニューターのクランが、魔化した巨大魔物を狩る話が出ています。それに一枚噛みませんか?」
「ニューターですか・・・。人によっては自分を敵視する人もいますからね。でも巨大魔物ってことは集団戦ですか?」
「ええ、ただそのクランも集団戦が苦手と言うわけではありません。頭が前線で戦い全隊の士気上昇を司り、No.2が後ろから戦況に合わせた術でフォローすると言った具合で、さらには集団戦に特化した者も鍛えている所だとか」
「じゃあ、自分のいる意味無いじゃないですか?」
「いえ、まだ隊長さん程の熟練度では無いようですよ。仮にも隊長さんは1000人を率いれる立場にいる訳ですし、そうそう余人の及ぶ所では無い筈です」
「とは言え、1000人必要な相手なら相応の者が選ばれる筈ですし、そのクランで出来るとされたから依頼をされたんでしょうから」
「ええ、実力だけを見ればいけるでしょう。後は経験といった所ですか、そこで隊長さんに監督及びアドバイスやフォローをお願いできれば、より磐石でしょう」
「なるほど、それが手土産になり第2機関長がこちらについてくれれば・・・」
「隊長さんの事情を斟酌してくれる人が増えますね。ただでさえ【教国】に海は無く、見なければならない範囲の割に辺境に追いやられるようで、若い人の修行の場のように扱われる第2機関です。実績を上げる機会を与えてあげれば、喜ぶと思いますよ」
「ふーん、それなら自分が邪神の尖兵を倒した時も【教国】に一報いれれば良かったのかもね。それでそのクランって言うのは?」
「はい、嵐の岬と言うクランです。もし引き受けてくれるなら、連絡を入れます」
ああなんだ、バルトの所か~。いっちょ手伝いますかね~自分も散々手伝ってもらったしな~。
「じゃあ、よろしくお願いします」