274.【海国】と久しぶりの遠泳
「じゃ、私はここまでだからがんばりな」
夕日に照らされる海岸を立ち去るニキータ。
本当に自分が玉を手に入れている間何やってるんだか?
自分が玉を手に入れる頃に現れるんだからどこかで監視してるのかね?そうしたら魚人街まで泳いで監視するのか?多分無理でしょ。
我ながら、泳いで移動が基本とかちょっとおかしいものな。
さて、海を渡るにしても、この広大な海を方向も見失わずに進めるのか、否である。
泳ぐだけならいくらでも泳ぐが、結局迷わないってのが、一番難しい。
じゃあ、どうやって魚人街に行くのか、方法は一つだろう。
沈む夕日に照らされる大海原、波打ち際ギリギリに立ち、海に向かって背筋を伸ばす。
両手を開き手のひらを内に向け拳一つか二つ分離し、口の両側に添える。
大きく息を吸い込み、日頃の不満、将来の不安、人付き合いの苦しみ、怒り、虚無感。
自分の全てを万感をのせて叫ぶ。
「海のバカヤローーーーーーーーーー!!!」
「少年よ母なる海はきっとそんな少年の思いの全てすら受け入れてくれるだろう」
なんの気配も感じさせず、いつの間にか自分の斜め後ろ接触するかどうかギリギリの場所に立つ、
マンボーさん。
「指名手配されている自分でもですか?」
「母なる海からすれば些細な事だ。行くか?広く深き母なる海に抱かれ、一体となれば些細な悩み等霧散する事だろう。ちなみに手配書は海中では溶けてしまうから、魚人街には出回っていないぞ」
自分が隠れる場所は魚人街だったか~。島とかには隠れてたし、プーエール・リコなんかには行ってみたけどさ。
正直いざとなれば海に潜って逃げられると思えば【海国】は選択肢としてはありだったんだよな。
しかし、まさか溶けちゃうから魚人街には手配書が出回っていないとは、な。
「じゃあ、お願いします」
マンボーさんの頭上に持ち上げられ、自分はマグロかサーフボードのように体を地面に水平に固める。
少し下がり助走をつけたマンボーさんに思い切り投げ飛ばされた。
水切りの要領で、ガンガン水の上を跳ね、丁度自分の横を細長い魚が跳ねた。
そして、勢いがとまり、海に沈む体。
ぽこぽこと泡を吐きながら、まだ浅い海底まで沈み、海面の方を見れば赤く照らされている。
赤い海面とすっかり光を通さなくなったく暗い海中。
すっと目を閉じてみると頭から色んな雑念が消え、世界がすっきり頭が空っぽになっていく。
何も考えなくていい安楽さに身も心も、いや全身の細胞が再生しているかのような錯覚にすら感じる。
すっと泳いでくるマンボーさん。
さて、行こうかと、目が言っている。
マンボーさんと海を泳ぎ始め、久しぶりの感覚に癒されてきた。コレが母なる海効果だ。
慌てた所で、早くつく訳でもなし、しかし一掻きで着実に進んで行く。
いつの間にか日が落ち、本格的な夜闇が海にも訪れるが、
マンボーさんと母なる海の安心感の前には暗さなんぞ、何も障害とならない。
ひとしきり泳ぎ、偶然いわしの大群に接触する。
自分達の目の前を群れて、まるで一つの大きな魚影のように見せかけて、ぶつかってくる。
剣を抜き、適当に突き刺せば、何匹かいわしが、逆さになって浮く。
どこから取り出したか、マンボーさんは網で、いわしを大量に生け捕りだ。
サイズは、カタクチイワシとでも言うのだろうか?中指程度の長さ程度の小さないわしだ。
しかし、ちょっと食いでが足りないなーと思ったところに、いわしを追ってきた鰹!
コレ幸いと、自分とマンボーさんで狩りとる。
鰹は足がはやい(腐りやすい)というし、今日は小さな孤島に上がって夕飯にしよう。
料理にしようと、色々道具を取り出すと、
「いい物が入ったし、少し材料を分けてくれ」
と、マンボーさんが言う。どうやらマンボーさんも料理をするようだ。
手つきを見ているとどうやら、刺身にする様なので、生姜とニンニクを渡しておいた。
じゃあ、自分は煮物かな~
まずは鰹を適当にぶつ切りにして、塩を振っておく。そして軽く湯をかけて、そこから水気をきる
置いておく間に、酒、みりん、砂糖、醤油でタレを作っておいて~。
さっきのタレに薄切りにしたしょうがを浮かべて~。
切った鰹をぶっこむ~。
灰汁を取りながら、水気が減っていくのを待てば~。
鰹のしょうが煮~。
マンボーさんの刺身と自分の煮物で、中々良さげな夕飯だ。
酒はやっぱり米酒だな、
【森国】の米古酒で、魚を食べる。
日本人ならコレだよな~。海で癒され、夕飯で心落ち着く。
まあ、どうせ【教国】のヒトは断念した土地だ。
無理せず、のんびりやってやろう。