273.聖石の話と次の目的地
「よお、準備は出来たか?」
コロンゴについて数日、とっくに準備は出来ているし、寧ろ暇していた所だ。
「いつでも行けるよ。とっとと、この追われる状況を終わらせたいものですね」
「事情があるとは言え、お前がやった事には変わりないんだ。がんばりな」
「あいあい、で?次は何するの?」
「引き続き聖石探索だが、今回は場所が中々大変でな【海国】なんだが、やるか?」
「やるか?ってやるしかないじゃん。しかし【馬国】を拠点にしてるんだから【砂国】か【鉱国】か【王国】かなと思ったけどね」
「ふむ、情報をやるようでしゃくだが、少しだけ教えてやろう。
まずは【鉱国】だがお前が持ってる酒縁の玉だ。英雄王と呼ばれる全身特殊金属を纏った王が使ったとされる玉だな。
【砂国】の玉は何でも英雄の一人の術士が使役していた大蠍にくれてやってそのまま行方不明だ。
【王国】は【闘技場】に一つ、これはタイミング待ちだ。そしてもう一つは英雄の子孫で護国の騎士と共にあったとされる聖女が持っているらしい。あの二人は死してまだ国を守っているからな。そんなところだ」
ああ~持ってるわ。何でまた自分の所に集まって来るんだ?この玉。
「ふ~ん、ところで聖石って各族長が保管していて、勝負に勝ったら貰えるってスタンスですけど、なんで譲る事前提なんですかね?」
「ふん、さあな?一応有名な伝説だし、邪神の化身討伐にも関わる重要な案件だから情報だけは有るが、その辺の謂れはそれこそ受け継いだ族長にでも聞くんだな」
「分った、じゃあ【海国】に向かいますよ」
「そうだな。しかし問題が一つ、どうやっていくつもりだ?ポータルは絶対無理だ。船で密航でもするか?」
「方法は二つかな?嵐の岬に送ってもらう。あそこの船は自分が貸してるっていう体だし、あとは泳ぐか」
「はは!面白い奴だな、泳ぐって・・・行く先は【海国】の外れ魚人街だぞ?泳いでそんな所まで行けるのはそれこそ魚人くらいだぞ」
「魚人街なら泳いでいくわ」
「ニキータは【砂国】の端まで案内するのが限界だぞ?流石に泳いで案内しろとは言えないからな」
「う~ん、難しいかもしれないけど、方法は無くも無いから受けてみますよ、その任務」
「そうか、正直そこまで行く手段が無いって言う理由で、誰もが断念していた高難度の任務だったが、もしこなしてきたら対応を考えようじゃないか」
「情報扱ってるなら知ってるかもしれないけど、これでも大陸中を股にかけてきたからね。移動するだけでいい任務なら、やりますよ」
そして、ニキータと連れ立って【海国】に向かう。
コロンゴ脱出はいうまでもなく余裕。
【馬国】から【砂国】へと向かう。
ニキータと自分は何だかんだ二人で移動することは多いが、会話は少ない。
自分は黙々と歩くのが性に合っているので、ありがたい位だが、
珍しく【砂国】の何も無い荒野で、話しかけてくる。
「なあ?あんたが死と再生の蛇を倒したんだよな?」
「まあ、そうだけど、それが?」
「いや、死と再生の秘儀ってやつは手にれたのか?」
「あれ?死者復活の研究は途絶えたんじゃなかったっけ?」
「うるさいな、ちょっと興味があっただけだよ」
「そう?まあその秘儀って奴は手に入れてないよ。なんか遠い昔の第13機関長も世界を巡って蛇を倒して廻ったらしいけど、結局自分は手に入れてないね」
「そうか・・・」
会話って言ってもそれだけの事だが、それ以降何か考え深げなニキータ。
まあ、何も無い砂漠を渡るだけだし、別にどうってことも無いのだが。
かつては中々きつい環境だなとか思っていた気もするが、あちこち【輸送】とかしているうちに、慣れた。
そして、小さな村で逗留する事になった。
【砂国】の都アースゥイマに程近い地味な村。
正直な所そこいらのセーフゾーンでログアウトする方が気が楽なのだが、自分ほど歩き適性の無いニキータの体力にあわせたら止むを得なかった。
まあ、この規模の村なら大丈夫かと地味な格好・・・といえども、砂漠なので、白い布で全身を覆っている訳だが、
村で一泊する事にする。
村で一軒の宿屋にニキータと訪れ、ニキータが受付をしていると、粗末なテーブルと向かい合う椅子が二脚。
その内の一つの椅子には既に人が座っている。露出の高い女性だ。
「お久しぶりですね。どうぞ向かいにお掛けください」
有無を言わせぬ様子に、已む無く女性の向かいの椅子に座る。
女性はソヘイラ様だ。
「いつぞやはお世話になりまして」
「こちらこそ、お世話になりました。おかげで故郷に戻れたこと感謝にたえません。そこでお礼と言っては何ですが微力ながら隊長様のお力になろうかと、先回りさせていただきました」
「それは、ありがたいことですが、自分の方こそ蛇を倒すのにあれだけ力を借りて恩しかないのですが」
「そうですか、まあ、そう構えずとも隊長様が知りたいであろう、昔話を少ししに来ただけですわ」
「自分が知りたい話?どうやってこの状況を脱するかですか?」
「すみません、その件につきましては隊長様の行動次第ですわ。私が伝えに来たのは蠍の玉の話です」
「なるほど、玉の件ですか」
「ええ、かつて英雄と呼ばれた術士は代々蜃気楼の街に住む領主でした。つまり私の先祖です。接近戦の苦手だった我が先祖は大蠍を従えていたそうです」
「ああ、使役した蠍に玉をあげたとか言う・・・」
「そうですね、しかし実際は蜃気楼の街に好き勝手誰でも来れぬ様、巣蠍に街を守らせていたと言うのが実情らしいです。大蠍を巣蠍として繁殖させ、ヒトと言わず魔物と言わず不可侵としたとの事」
「ん~つまり、大蠍を巣蠍にする為に石は使用済みと」
「そうですね。今はただの玉です。私からはそれだけです。ただの玉を引き付ける隊長様のご無事をお祈り申し上げますわ」
「なんで、無事を祈られるんですか?」
「それはいずれ分るでしょう。無二の強敵に備えて下さい」