272.聖石集め進捗状況
【馬国】北西部の都コロンゴ。
他国との連絡口で高原の入り口でもある都だ。
しかし、家の数こそ多いが、背の高い建物等は少ない。
土や石壁の家が立ち並び、ややくすんだ色合いの景色にも見える。
まあ、寒風吹きすさぶ高原の縁に位置する都だ砂も被るだろう。
そして、もう一つ特徴的なのが、壁が無い。
都や大きな街には壁がつき物なのだが、多分高原の巨大魔物が攻めてきたら、壁など意味無いから逃げろって事なのかね。
武器を鞄にしまい、薄鼠色の目立たないフード付ローブで都に入って行けば、普通に入れた。
全然目立たない。
「場所によっては壁も無ければ、誰も気が付かない場所だってあるんだから、こういう所で買い物の一つでもしてくれれば、追いかけられたのに」
「悪かったね。そんなの分からなかったから、ひたすら人気の無いところを逃げるしか無かったんじゃん」
ニキータに嫌味を言われるが、過ぎたことだ仕方ないじゃん。
それでも、街中の壁には自分の指名手配書が張られている。しかしこんな地味なローブで歩いている事は書かれていないので、誰も気にしない。
そう言えばここは都なのに【兵士】がいないのだった。正規軍人ではない、巡回の衛兵さんらしきはいるが、するっと道を一本かわして行けば十分避けられる。
しかし、家の数こそあるが、割とスカスカのこんな地域にどうやって隠れ家を造るんだか。
そして、ちょっと小高くなった広場の端に蓋のされた井戸が一つ。
釣瓶もポンプも無い事から、枯れた井戸なのだろう。
子供なんかが入れないように蓋がしっかりされているのに、その井戸の前で止まるニキータ。
蓋には手を触れず、石積みされた井戸の石を一個引っこ抜き、内側にある鎖を引っ張った。
すると、井戸のすぐ横に生えている木の根元が四角く持ち上がり、下に続く階段が現れる。
二人で階段を降りれば、土壁のそこそこ広い空間がある。
カウンターがあり、寡黙そうな老齢の男性が立っていた。
多分そう言うことだろうと、装備品を預ければ黙って受け取ってくれたので、メンテを任せる。
そして、タイミングを合わせたように、自分達の来た階段を降りてくる。いつだかの上司。
「首尾はどうだった?今回任せた二箇所はお前でも潜入しやすかったんじゃないか?」
「おかげ様で情報を集めてこれましたよ。どちらも族長に伝わる玉で、族長との勝負に勝てばもらえるそうで」
「そうだな、事前情報と同じだ。ちゃんと仕事をこなしてきたようだな」
「ちゃんと既に【教国】のヒトが先に訪ねてきていたことも確認済みですよ」
「まあ、小手調べって事だ。安心しろちゃんと情報はやる」
「小手調べに相応しい程度?」
「そこはお前の情報精査能力次第じゃないか?」
期待できませ~ん。
「まあ、何でも情報があるだけマシですよ。個人的には誰が自分と敵対してるのか知りたいですね」
「いいぞ、まず第1、第7機関は味方してくれてる。第2、第5、第8、第9、第10は中立、第3、第4、第6、第11、第12は程度の差こそあるが、最低でも捕縛して話を聞くべきってスタンスだ」
「何でそんなに皆自分の事を疑うんだか」
「まあ、直属の部下をやられた第3機関は、そりゃあ強硬な態度にもなるだろうな」
「第1と第7は面識あるからですかね。にしても12も機関が有るとどこが何やってるのか分からないんですよね」
「まあそうかもな。第3は各国の【教会】管理者の派遣を担当している。ほとんどが他国に出て活動している【教国】の国民の出先場所を管理しているわけだ」
「まあ、相手は教区長ってくらいですもんね。どの機関か寝返ってもらえないモノですかね」
「そう、都合よく教えてやらねえよと言いたいところだが、気張って働いてもらう為に少しサービスしよう。聖石を集めてくれば第12機関の覚えはよくなるぞ?」
だから、そこが怪しいんじゃないか?って思ってるんだよな~こっちは。
「ふう、取り合えず今は聖石の件がんばるしかないのか」
「そうだな。しかしちゃんと仕事をこなせば、少なくともうちはお前の味方につく事になるだろう」
「なるほどね、ちなみに第2、第5、第8は何で中立なんですかね?」
「そこは割りと穏健派なんだよ。逆に味方をしてくれるかも分らんぞ。寧ろ他の戦闘脳な機関の方がお前とは気が合いそうだ」
「どうしたもんだかな~直接顔を合わせて説得する自信なんて1ミクロンも無いしな。まあいいかそれで、次は?」
「次はちょっと厄介な場所になる予定だ。準備して待っていろ。ところで聖石を納めなくてもいいんだな?」
「聖石でどれくらい自分の立場が良くなりますか?」
「ふむ、聖石を欲しているのは第12機関だけだからな。もう少し焦らしてやった方が、価値が上がるかもな、フフ」
「ふふふ」
まだ、全然状況は分らないが、でも自分を追っているのは【教国】であるのは間違い無さそうだ。
そりゃあ、教区長SATSUGAI容疑なんだから当たり前だし【教国】の機関長に弁明しなきゃいけないと言う話は聞いていたわけだが、
しかしヒュムをSATSUGAIした危険人物を各国の意思で追われてたらどうしようかなと、ちょっと思ってたんだよな。
でも、話の感じだと完全に【教国】の依頼で自分を指名手配してる訳だ。
何気に自分の中ではやることが絞れてきた。ほくそ笑んでしまうのも仕方ないよね~。