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270.かけっこ

 ここからはただ走るだけだ。にも関わらず、妙に緊張感が高まってきた。


 合図は無い。族長との間に呼吸と波長が合う瞬間を待つだけだ。


 別に無理して合わせるわけでもない。


 お互い自然と緊張が高まり、何となくそろそろかなと感じる。


 何があったわけでもない、ただの夜闇に、風に吹かれた葉が一枚、自分と族長の間で爆ぜる。


 何も言わずにお互いに駆け始める。


 自分は初手<疾走>小石の転がる高原を軽快に駆け抜ける。


 逆に族長は小石を踏み砕きながら、真っ直ぐ重量感を感じさせる走りだ。


 重量感が逆に空気の層を突き破り、体が浮き上がる様子も無い。


 族長は道なりに右に逸れて下っていく。


 自分は、真っ直ぐ突き進み、くだり道を<跳躍>で飛び越える。


 再び<疾走>を使える様になるまでは、普通に走り続けるが、既に族長の姿は見失っている。


 時折魔物は見かけるが、無視だ。さっさと走り抜け、置き去りにする。


 遠慮無しに全力で走り抜けるだけ、爽快感に身を任せ、ひたすら走り、障害物は越えていく。


 時に現れる大岩は登って飛び越え、がけの様になりはるか下方に道が横切れば、跳び越える。


 そんな折、突然何かが爆発するような音に驚く。


 巻き上がる土煙、そこから大きな人馬の影。


 族長か、どうやら魔物を倒して走り抜けていく。


 派手な攻撃の正体は何かと目を凝らせば、ぶっとい棍棒を持っていた。


 杖のような丸棍棒ではない。持ち手から先に行くほど太くなる無骨な棒と言うか丸太と言うか。


 まあ、自分は極力戦闘は避けて、走り抜けますか。


 しかし、族長の足の速いこと速いことジグザグに大きく蛇行しながら道なりに走っているようなのに、中々差がつかない。


 ちなみに自分は一切の戦闘を避けて、直線距離を走っている。


 ・・・っとそうも言っていられない。行く手を魔物に塞がれていた。


 正直肉眼では昼に見抜くのも無理だったろう。


 暗いので、たまに<索眼>を使用しながら周囲を確認していたら、岩にしか見えない魔物が前方にいた。


 一見大きな岩が転がっているだけの様だが、あからさまな周りとの温度差。赤い世界の中で真っ赤だ。


 やむを得ず、少し大回りをして横を抜ける。


 幸い相手は寝ていたのかこちらに反応しなかったので、そのまま走り続ける。


 そんなこんな普通の高原ゾーンは戦闘をしない自分にやや有利、ほんの僅かながら先に山の麓に辿り着く。


 しかし、山に辿り着いた所で、大問題だ。行く先が完全に途切れている。


 それが例えば、断崖絶壁なら人馬相手に負けないスピードで登る自信も降りる自信もある。


 例えば湖が隔てているなら、泳ぎきる自信もある。


 巨大な魔物が道を塞いでいるなら〔八岐の外套〕で姿を消して走り抜けられるか試してもよかっただろう。


 しかしそのどれにも当てはまらない。


 何故なら道は空中に続いているから。でっかい山が浮いている。


 「うえ、えへへ。どうすんのこれ」


 「ふむ、中々やるようだがこの程度で、思考停止していてはここまでだぞ」


 そういい残して走り去る族長。


 いやいやいやどうすんのコレ?


 そう思いながら、辺りを確認し、ちゃんと状況把握をするとどうやら4つの支柱らしき台に乗っかっている山。

 

 つまり4箇所は山に続いている。


 山は空中に浮遊している訳ではない。


 族長は既に一つの支柱に向かっている。


 後ろを追いかけるのも芸が無いだろう。別の支柱に向かって自分も走る。


 絶妙に足場の悪い台座をよじ登る。


 そこから支柱が真っ直ぐ上に伸びている。


 選択肢は二つ、螺旋状に走って登る。直線的に崖登り。


 ここは崖登ってやろう!どっちが正解か分からないが族長は多分走って登るだろう。


 なら自分は逆に張って行くしか勝ち目を感じない。


 最初から相手は大回りしても走れば早い。自分は直線を強引につき抜ける方針だしさ!


 崖を真っ直ぐ上る。意外と足場は多いし、上りやすい事この上ない。


 支柱を登り終えると洞窟??山の裂け目?


 洞窟と言うには入り口が横に広い、山の上の方に登るにはどうしたらいいんだ?コレ。


 一先ず、洞窟の縁沿いを歩いていく。


 時折洞窟内から鳥やら蝙蝠なんかが襲い掛かってくるが、切り捨てれば、大した強さではない。


 いっそ洞窟内を探検して、上に続く道を探してもいいのかも知れないと思う。


 ・・・うーんなんか地面っていうか山動いて無いか?


 さっきまで洞窟縁の上部と支柱はかなり離れていた気がしたのに、今なら上れない事も無い。


 大急ぎで、洞窟上部に手をかけて登っていく。


 ある程度上った所で、安定した足場に辿り着く。


 先程までの支柱より硬くて、しっかりしている。


 ここからはいかにも山って感じの光景。結構急に見えるが、まあ絶壁を登れる自分にはイージーな地形だ。


 ふっと息を一つ吐き、気合を入れて、走って登る。


 山道は、はっきりと分かるようになっていて、道の両側が高く壁になっており、走りやすい。


 しかし、得てしてこういった道沿いは魔物が待ち構えている物だ。


 街道のような整備された道なら魔物も少ない物だが、こういった山道、森の中の道。


 自然の道は魔物が出てきますよ!ゾーン。


 だから普段は木の上を走り、道から外れた場所を行くのだが、今日は止むを得まい。


 目の前に現れたのは、狸かな?


 ぱっと見可愛いが、邪魔するなら倒す。

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[一言] 四脚の山……どう考えても生(
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